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アニストン子爵家の使用人
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「伯爵」
ドアの外からの抑揚のない昏い声に、ロイはぴくりと耳を動かせる。
朝食にはまだ早い時間帯。
掃除のメイドすらまだ活動していない。
ロイは上半身を起こすと、ふう、と息を吐き出した。
彼の隣では、涙の跡を頬に残すマチルダが、微かな寝息を立てている。
空が白む頃まで、ロイはマチルダの内部を占有し、何度となく彼女の器官を満たした。仕舞いに彼女のぺたりとしていた腹は、ロイの放ったものでパンパンに膨らみ、受け止めきれず失禁のように漏れて、シーツをぐしゃぐしゃに汚し、羞恥のあまりさらに泣いた。
ようやく泣き疲れて眠りについたところだ。
「……来たか」
ロイは声の主がアニストン家の家令であることを確認する。
「はい」
家令は短く答えた。
「すぐに開ける。待っていろ」
言うなり、シャツを羽織る。
若気の至りから脱ぐのも早ければ着るのも早い。ロイは早着替えのごとく、もう身なりを整えていた。
「マチルダ、ドレスを。いや、間に合わないな。ローブを羽織れ」
幸福そうに眠るマチルダの目を覚ますのを忍びなく思いつつ、ロイは彼女を優しく揺すって起こす。
「何? 」
うっすらと瞼を開けたマチルダは、半分以上をまだ夢の中で過ごしている。
「ベッドに潜っていろ」
「何なの? 」
「家令を部屋に入れるぞ」
「えっ! 」
ハッと目を見開いたマチルダの顔面に、ローブが降ってきた。
「それで? わかったことは? 」
なるべくベッドから目線を逸らさせるため、ロイは三人掛けのソファの肘掛けに凭れると、気怠げに足を組んだ。
「逃げていた警官が自首しました」
アニストン家の家令は、感情なく答える。
「自分の仕出かしたことがわかり、恐ろしくなったんだな」
言いながら、ロイは目の前で直立する男を観察した。
禿げ上がった、小太りの男。それが率直な感想。両耳の上とうなじに残った髪は白髪混じりの黒髪。目尻とほうれい線、それから眉間の皺が深い。本来、家令は身だしなみに気を使わなければならないが、この男のロングテールコートには、妙なところに皺が入っている。屋敷の使用人のトップには不似合いなだらしなさだ。
身長はマチルダより十センチは低い。
いつか見た動物園のペンギン種を想起させる。
「で、イメルダは? 」
ロイは家令に、イメルダの動向を探らせていた。
それは、ロイが湖畔でマチルダとの愛を確かめ合った翌朝、甘い余韻に浸ることも許されず警察署に呼ばれたあの日だ。
警察署長からイメルダの協力者が他にもいるらしいと聞いたロイは、すぐにアニストン邸へと馬車を走らせた。
憎たらしい姉が仮面舞踏会での弟の醜態を笑っている、まさにその時間、ロイは屋敷の使用人の頂点に立つ男に探りを入れさせていた。その時点では、まだはっきりとイメルダの協力者に確信が持てなかったからだ。
取り敢えず餌を撒いて、自分の目の届く範囲で泳がせてみよう。
ロイの目論見通りに魚は網に引っ掛かった。
「依然として行方不明でして」
淡々と家令は答えた。
「そうか」
ロイは足を組み替えると、チラリとベッドへと視線を流した。
ベッドではマチルダが頭から掛け布団をすっぽり被り、不自然なくらいモゾモゾしていた。布団の中でローブを羽織るのに四苦八苦しているのだろう。
ドアの外からの抑揚のない昏い声に、ロイはぴくりと耳を動かせる。
朝食にはまだ早い時間帯。
掃除のメイドすらまだ活動していない。
ロイは上半身を起こすと、ふう、と息を吐き出した。
彼の隣では、涙の跡を頬に残すマチルダが、微かな寝息を立てている。
空が白む頃まで、ロイはマチルダの内部を占有し、何度となく彼女の器官を満たした。仕舞いに彼女のぺたりとしていた腹は、ロイの放ったものでパンパンに膨らみ、受け止めきれず失禁のように漏れて、シーツをぐしゃぐしゃに汚し、羞恥のあまりさらに泣いた。
ようやく泣き疲れて眠りについたところだ。
「……来たか」
ロイは声の主がアニストン家の家令であることを確認する。
「はい」
家令は短く答えた。
「すぐに開ける。待っていろ」
言うなり、シャツを羽織る。
若気の至りから脱ぐのも早ければ着るのも早い。ロイは早着替えのごとく、もう身なりを整えていた。
「マチルダ、ドレスを。いや、間に合わないな。ローブを羽織れ」
幸福そうに眠るマチルダの目を覚ますのを忍びなく思いつつ、ロイは彼女を優しく揺すって起こす。
「何? 」
うっすらと瞼を開けたマチルダは、半分以上をまだ夢の中で過ごしている。
「ベッドに潜っていろ」
「何なの? 」
「家令を部屋に入れるぞ」
「えっ! 」
ハッと目を見開いたマチルダの顔面に、ローブが降ってきた。
「それで? わかったことは? 」
なるべくベッドから目線を逸らさせるため、ロイは三人掛けのソファの肘掛けに凭れると、気怠げに足を組んだ。
「逃げていた警官が自首しました」
アニストン家の家令は、感情なく答える。
「自分の仕出かしたことがわかり、恐ろしくなったんだな」
言いながら、ロイは目の前で直立する男を観察した。
禿げ上がった、小太りの男。それが率直な感想。両耳の上とうなじに残った髪は白髪混じりの黒髪。目尻とほうれい線、それから眉間の皺が深い。本来、家令は身だしなみに気を使わなければならないが、この男のロングテールコートには、妙なところに皺が入っている。屋敷の使用人のトップには不似合いなだらしなさだ。
身長はマチルダより十センチは低い。
いつか見た動物園のペンギン種を想起させる。
「で、イメルダは? 」
ロイは家令に、イメルダの動向を探らせていた。
それは、ロイが湖畔でマチルダとの愛を確かめ合った翌朝、甘い余韻に浸ることも許されず警察署に呼ばれたあの日だ。
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取り敢えず餌を撒いて、自分の目の届く範囲で泳がせてみよう。
ロイの目論見通りに魚は網に引っ掛かった。
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淡々と家令は答えた。
「そうか」
ロイは足を組み替えると、チラリとベッドへと視線を流した。
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