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第三章
弟らしくない
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脱兎のごとく大河原は辰屋を去って行った。
自室に戻るなり、森雪は拳で壁を殴りつけた。
「くそっ!このままではあいつの思う壺だ!」
目は爛々と見開き、血の滲むほどに唇をきつく噛み締める。まるで獲物を捕らえ損ねた獣のように、苦渋に満ち満ちている。
「森雪、どうしたんだ。お前らしくない」
強引に自室に引っ張り込まれた吉森は、いつもなら抵抗して振り払うはずが、森雪の異様なまでの毒の有り様に、逃げることすら出来なかった。思わず失言してしまった。
「僕らしくない? 」
森雪の目が荒む。口元が皮肉っぽく吊った。
「僕は元々こういう人間ですよ。残忍で、支配欲があって。手に入れたいと思えば、どのような手段でも使う」
いきなり背中を壁に打ちつけられ、吉森は呻いた。両手首が森雪に捕らえられ、身動きがとれない。病弱を振る舞っていた森雪は線の細さを必要以上に際立たせていたが、今は背の高さによって作られる黒い影が酷く大きく、声の低さも相まって、畏怖を植え付ける。吉森の唇が戦慄いた。
その唇を、森雪は己の唇で塞ぐ。引き結びを舌先で強引に割られ、粘膜が熱くなるほど蹂躙する。喉奥にまでそれが伸び、息遣いすらままならない。角度を変えて、森雪はさらに繋がりを深く求めた。
性急な接吻から解放されたとき、吉森の唇は腫れ上がり、ぬらぬらと唾が顎までの範囲で光っていた。
「な、何を」
それだけでは済まされないことは、吉森にはもう予測がつくようになってはいたが、よもや、何の前触れもなく着物の裾を捲られるとは思いもしなかった。
「言ったばかりでしょう。僕は支配欲が強いと」
ニタリと森雪が酷薄な笑みを作る。
それすら美しい一枚の絵画を見ているようだと思う時点で、吉森は最早、自分が抱かれる側になり果てたと悟った。それでも、そっくり認めてしまうには、二十六年で培った男の矜持が許さない。
「お前、何か焦ってるように見えるぞ」
あくまで平然を装い、自分は性感を刺激されても揺るがないぞと気を張って、逆に森雪を挑発してやろうと目論んだ。
いつもなら飄々と何かしら返す森雪が、そのときは吉森の期待通りに、苦しそうに呻いて、目を眇め、反論一つしなかった。
「正直に言えば、その通りです」
それによって、どきりと心臓を大きく動かしたのは吉森の方だ。
「な、何に」
「いずれは、狙うかも知れない」
「誰が誰を」
「わからなくて結構」
話は中断だと言わんばかりに、森雪が裾から入れた手は太腿を上って、褌の中にまで入り、繁みをゆっくりと掻き回した。
「ん……」
女を抱くよりも抱かれる方が、快感が強いのは認める。まるで阿片と同じだ。最初は興味本位だったが、次第にその快楽に囚われ、もう抜け出せない。すでに弟の手によって、未知であった官能を引き出され捕らえられてしまっている。
「あっ……んん」
膝裏に手を入れられたかと思えば、足裏が畳を離れた。抱え上げられた吉森は、咄嗟に森雪の首に手を回し、しがみつく。
「あなたは女のように喘ぐのが相応しい」
さすが、ほぼ週に三度の道場通いで鍛えているだけあって、支える腕は筋肉で固く盛り上がり、がっしりして揺るがない。男の違いを見せつけられて、快楽よりも悔しさが強く出た。
「くそっ。覚えてろ」
「そうやって、ずっと毒づいていなさい。僕を恨んで、余計なことを考えなくても済むように」
くすっと笑うと、森雪は吉森の首筋に顔を埋めた。
密着の度合いが増した。
後肛に硬い部分が当たる。
いよいよ、来るか。吉森は瞼をぎゅっと閉じ、覚悟を決めた。
自室に戻るなり、森雪は拳で壁を殴りつけた。
「くそっ!このままではあいつの思う壺だ!」
目は爛々と見開き、血の滲むほどに唇をきつく噛み締める。まるで獲物を捕らえ損ねた獣のように、苦渋に満ち満ちている。
「森雪、どうしたんだ。お前らしくない」
強引に自室に引っ張り込まれた吉森は、いつもなら抵抗して振り払うはずが、森雪の異様なまでの毒の有り様に、逃げることすら出来なかった。思わず失言してしまった。
「僕らしくない? 」
森雪の目が荒む。口元が皮肉っぽく吊った。
「僕は元々こういう人間ですよ。残忍で、支配欲があって。手に入れたいと思えば、どのような手段でも使う」
いきなり背中を壁に打ちつけられ、吉森は呻いた。両手首が森雪に捕らえられ、身動きがとれない。病弱を振る舞っていた森雪は線の細さを必要以上に際立たせていたが、今は背の高さによって作られる黒い影が酷く大きく、声の低さも相まって、畏怖を植え付ける。吉森の唇が戦慄いた。
その唇を、森雪は己の唇で塞ぐ。引き結びを舌先で強引に割られ、粘膜が熱くなるほど蹂躙する。喉奥にまでそれが伸び、息遣いすらままならない。角度を変えて、森雪はさらに繋がりを深く求めた。
性急な接吻から解放されたとき、吉森の唇は腫れ上がり、ぬらぬらと唾が顎までの範囲で光っていた。
「な、何を」
それだけでは済まされないことは、吉森にはもう予測がつくようになってはいたが、よもや、何の前触れもなく着物の裾を捲られるとは思いもしなかった。
「言ったばかりでしょう。僕は支配欲が強いと」
ニタリと森雪が酷薄な笑みを作る。
それすら美しい一枚の絵画を見ているようだと思う時点で、吉森は最早、自分が抱かれる側になり果てたと悟った。それでも、そっくり認めてしまうには、二十六年で培った男の矜持が許さない。
「お前、何か焦ってるように見えるぞ」
あくまで平然を装い、自分は性感を刺激されても揺るがないぞと気を張って、逆に森雪を挑発してやろうと目論んだ。
いつもなら飄々と何かしら返す森雪が、そのときは吉森の期待通りに、苦しそうに呻いて、目を眇め、反論一つしなかった。
「正直に言えば、その通りです」
それによって、どきりと心臓を大きく動かしたのは吉森の方だ。
「な、何に」
「いずれは、狙うかも知れない」
「誰が誰を」
「わからなくて結構」
話は中断だと言わんばかりに、森雪が裾から入れた手は太腿を上って、褌の中にまで入り、繁みをゆっくりと掻き回した。
「ん……」
女を抱くよりも抱かれる方が、快感が強いのは認める。まるで阿片と同じだ。最初は興味本位だったが、次第にその快楽に囚われ、もう抜け出せない。すでに弟の手によって、未知であった官能を引き出され捕らえられてしまっている。
「あっ……んん」
膝裏に手を入れられたかと思えば、足裏が畳を離れた。抱え上げられた吉森は、咄嗟に森雪の首に手を回し、しがみつく。
「あなたは女のように喘ぐのが相応しい」
さすが、ほぼ週に三度の道場通いで鍛えているだけあって、支える腕は筋肉で固く盛り上がり、がっしりして揺るがない。男の違いを見せつけられて、快楽よりも悔しさが強く出た。
「くそっ。覚えてろ」
「そうやって、ずっと毒づいていなさい。僕を恨んで、余計なことを考えなくても済むように」
くすっと笑うと、森雪は吉森の首筋に顔を埋めた。
密着の度合いが増した。
後肛に硬い部分が当たる。
いよいよ、来るか。吉森は瞼をぎゅっと閉じ、覚悟を決めた。
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