寡黙な消防士でも恋はする

晴 菜葉

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 その後の俺は、まさに『生まれ変わった』。
 退院後にまず向かったのは自宅ではなく、近所の本屋。縁も所縁もない資格試験のコーナー。迷うことなく手に取ったのは、消防官Ⅲ類の参考書。
 脳味噌を母親の腹の中に置いてきただの、振れば神社の本坪鈴みたいに綺麗な音する頭だのと、散々からかわれながらも、文字通り猛勉強で倍率二十二の難関を突破し、ようやく消防士と認められた俺が次に目指したのは、特別救助隊。年間三百五十人が試験に挑み、合格するのはたった五十人。何とかそのうちの一人に入れた。
 俺が何でそんな無謀なことを仕出かしたのかといえば、理由は一つ。
 わからない、だ。
 自分でも何だそりゃ、だが。
 どんなに脳味噌を雑巾絞りしても、それしか出ないんだから、仕方がない。
 本能の赴くままに行動した。
 もしくは、天のお告げ。
 それしかない。
 そんなこんなで、高校のときは悪ぶって擦れ違う奴ら全員に意味なく噛みつき感情剥き出しだった俺だが、事故を契機にぱったりと感情は面に出ず、口数も少なくなってしまった。先輩ともマサシとも疎遠になった。
 頭の打ちどころが悪かったとしか思えないし、実際に誰もがそう口に出した。
 あの爺ちゃん二世みたいな、特別救助隊員とは二度と会えないと思っていたが、その後もたびたび、消防大会で目にした。
 といっても、それだけだ。無愛想な俺がわざわざ「お久しぶり~、あのときはど~も~」なんて声をかけるわけがない。
 やつも、他の連中、特に女にへらへら愛想振り撒いて忙しくしてるし。
 女の尻を追い回す姿には、正直ショックだった。凛々しい特救隊員はどこへ行ったんだよ、おい、と叫びたくなった。
 そんなわけで、ほぼ無関係の状態がこれから先も続くと思っていた。
 二年前にやつと同じ部署に配属が決まったときには、何の運命だと頭を抱えたくらいだ。
 尤も、やつは何も覚えちゃいないが。
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