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5-1 最上位種発芽編:世界が変わっても
238 どうやらぼくは”無職”らしい
しおりを挟むぱらぱら、ぱらぱら。
そんな感じの雪が真っ白な空から地面にゆっ~くりと降りてきている。
地面に積もりそうではないのが少し残念だけど、積もったら積もったで面倒くさそう。
受験期には雪のことを『憎き白い結晶』とか呼んでたなぁ。足を"滑ら"せる大敵だから名付けたんだっけ。
まぁ、どうでもいいか。
デュアラル王国に帰ってきた後、ケトスは既に中位ダンジョンへと出発していた。
なにかするって決めたらすぐ動くやつなんだよ、とリリーさんから説明を受けたときは、なんとなく想像がついた。ケトスっぽい。
ムロさん達も帰ってきて直ぐに上位ダンジョンへと行った。
三人だけで行くのかと思ってたら、翠金等級の数人と白金等級の中位冒険者を連れていってた。
そりゃそうだよなぁ。3人でダンジョン攻略するとなると役割負担が凄いことになるものな。
……そう考えると、中位ダンジョンを一人で一度攻略したケトスって本当に凄い。なんだあいつ。ほんとうにバケモノじゃないか。
あと、こっちに帰ってくる際に右手から腕にかけてある火傷痕を隠すために、黒い手袋をすることにした。
──それは、力の種だよ。
(結局……これがなんなのか分からないままだな)
右手だけ手袋をするのは変だけど、仕方ない。火傷跡は他の人が見ると刺激が強い。まぁ、手に肉刺がたくさんできてるから、ソレを隠せるから良しとしよう。
(ムロさん達にも心配されたもんな。人には見せない方がいいかも)
「クラディスくん~! ちょっとこっち来て~!」
「はいはい~」
僕達は帰国後、まずアルマさんの部屋の確保をするために、空き個室に荷物の運び入れを行った。
余ってた部屋だったし、僕やアンも荷物がそこまで多い訳でもないから使い道に悩んでた。正直助かりました。
それで掃除をそこまでしてなかったってのがあって、アルマさんに掃除をしてもらってた……んだけど。
「…………うわ」
ぐちゃぁ……って感じだ。
アルマさんの掃除の仕方が絶望的に下手。
アルマさんは魔族でもあり、転生者でもあるのだ。
つまるところ「掃除のできなさ」は前世の生活環境の影響がデカイ。
「アルマさんってもしかして転生前の世界で掃除したことないの……?」
「いやぁ……あるんだけど、あんまりしなかったかなぁ。えへへ……」
「……」
「えっっ、そんな目で見ないでよっ!!」
あぁ……この人は……。残念な人だ。
とりあえず掃除の仕方を教えるだけ教えて、あとは任せることにした。
ギルドに帰国したって連絡をしに行かないとって思ってたけど、アルマさんのことは連れて行けないかなぁ。
さすがに魔族と転生者って要素が詰まってたら、ナグモさんも対処に困るだろうし……。
「いい人には違いないんだけどなぁ」
どうしても、この世界じゃ生きにくい要素が詰まってしまっている。
転生して、人間たちの敵に生まれた……殺しても死なない元人間……か。掃除中とは思えないほどの騒音を立てながらバタバタしてる部屋の扉をそっと閉じた。
で、一息ついているアンに声をかけた。掃除だから、髪を結んでらっしゃいます。風紀委員みたいな面持ちで手には埃取りが握られてる。今にでも「男子、掃除しなさい」と言ってきそう。
「アン、ギルドに行くけど来る?」
「もちろんです!」
「わ、わたしも……!」
ガラッとドアを開けてアルマさんが顔をのぞかせてきた。
だが、ダメです。
「アルマさんは自分の部屋の掃除をしててね。自分の部屋なんだから、帰ってきて汚いままだったら……」
ちょっと怖い顔をしてみると、ひえぇぇ、と怯えて。
「わ、分かった。分かりました……! がんばります!」
「よし」
魔素も漏らさなければただの可愛らしい少女にしか見えないし、会話も何不自由なくできる。
……あとは、そうだな。この世界の常識ってのを知ってもらうことが必要かな。
雑巾を片手に持っているアルマさんにお留守番を頼み、僕とアンはギルドへ向かうことにした。
◇◇◇
「クラディス様って無職なんですよね」
「えっ?」
ギルドに言ってお世話になっている人達に帰国の挨拶をして言ったら、ナグモさんにそう言われた。
書類に目を通している様子から仕事の真っ最中だと思って、簡単に挨拶をしたら……椅子ごとこっちに回してきた。仕事は? 大丈夫なんです?
で、無職とは。え、つまり、ニート……?
「でも、とりあえず剣闘士みたいな……アレ?」
冒険者登録のことを思い出しながら話してみると。
「申請して試験を受けて初めて職を得ることになるんですよ。冒険者という大まかな所にはいますが、今現在、クラディス様はただの冒険者ですね」
「あ、えーと、闘技場の選手紹介のところにあったやつですか? 狙撃手とか、重装備槍士とか」
「そうそうそれです。ちなみにアンさんも正式には職が登録されている訳では無いので、クラディス様と一緒なんですよね。まだそんなに考える必要は無いですけど、階級が高くなると必要になってくるので……」
そう言うと、デスクから紙の束を渡してきた。
「目を通しておいてもいいかもですね。ソレ、差し上げますよ」
「えっ、これって」
「見たらわかります。これ以上のお喋りは、ね」
丸さんのデスクを指を指すナグモさん。そこには鋭い目でナグモさんのことを睨む丸さんがいた。冬季入りたてということで、ギルドの方も色々バタバタしているんだと言う。
ダンジョン攻略の記録測定のために同伴をしたスタッフや、大規模な会議のために数週間ギルドから離れるスタッフの空きを少ない人員で補わないとけないからこの時期は忙しいらしい。
僕はコクリと頷いて、訓練場まで降りていった。
丸さん。挨拶のときはニコニコしてたのになぁ。
「職業か。ログリオさんが言ってたヤツかな。魔法剣士とかなんとかってやつ。ぼくはソレが向いてるのか……?」
壁に背をつけて資料を見て、どんなのがあるのかを把握していく。
剣闘士系、魔導士系。治癒士の細かな職業は協会内で決められるようで、とりあえずは置いておくことにした。
前線で戦う軽装、敵からの被弾を受ける重装役に別れる。
軽装の中でも細分化され、剣士であったり槍士であったり。確かエルシアさんは遊撃手の中の無形者ってやつだったな。
「お、魔導士はそんなに多くはないのか……」
大魔導士……これは、上位の職業だな。
詠唱付き魔法を後方で使って大火力の一撃をだすのが『後方火力魔導士』。
後方と前線をカバーしつつ、火力支援と防御魔法を駆使して戦うのが『中間補完魔導士』。
前線で敵の注意を引いて、上級やさらにその上の魔法ではなく、初級や中級の魔法を使って恒常的に行動しながら攻撃を行う『前線機動魔導士』
「あー……はいはい。ちょっと、枝分かれの方を覚えるのが難しそう」
基本的に、魔法を使うだけでは特定の職業がある訳では無い感じかな?
そこから剣闘士のことに伸ばしていくと、ケトスの魔法剣士になる。
これは分類で言うと『前線機動魔導士』に分類される。
「……! って、アレ!?」
「むっ、どうしましたか?」
「いや、ちょっと、一人で盛り上がっちゃった」
剣闘士、魔導士、治癒士、三つの職業の技が使え、味方と自分にバフをしながら戦う支援職――『付与術士』。
そんな職業があったんだな……エンチャンター、聞いたことないな。えーなになに? 『立ち位置としては魔導士の部類の『中間補完魔導士』である』か。
「とりあえずはここを目指して頑張ってみるかなぁ」
「何かいいのがありましたか?」
「うん。付与術士ってのにしてみるよ。アンは? やっぱり拳術家?」
拳術家。武闘家と言ったりもする。
拳で戦う前線の戦士だ。
「そうですね……とりあえずはソレかなと」
「なるほどね~……。まぁ、アンはほとんど完成してるもんねー……僕は、まだまだ方向性が決まってないから頑張らないと」
「わたしはまだまだです……それに、心のどこかで慢心をしていたのかもしれません。わたしに足りないのは、自己修復者に関する知識と格上との戦い方です」
あれだけ強いアンがまだまだ強くなろうと、次のステップに行こうとしている。
だったら、弱い僕が鎮座するわけには行かないよな。僕にはできるかわからないけど、やってみたいと思えた技があるからやってみるか……。
「だったら僕も、魔族がやっていた技と、戦う時に無意識にできた技を意識的に出せるようにして、あとは……んー……なんだろ」
「とりあえず、冬の間は訓練になりそうですねぇ……」
「だねぇ……頑張らないと。ナグモさんに稽古つけてもらうしか……あぁ、寒気が」
腰を上げて、日が沈むまで訓練場で訓練をすることにした。
アンはペルシェトさんが忙しいからって理由で、書庫に自動修復者の情報の補完をしに行った。
僕は魔素をしっかりとした形にする、っていう意味のわからないことに挑戦をすることにした。
でも、ノアがやってたことだ。理論的にはできないことではないのだろう。
そんでもって結局なんの進捗も無く、日が沈んで帰ることになった。
1日じゃあ、なにもできやしないか。
とぼとぼと肌寒い街路を歩きながら、夕飯は帰国前に寄った村で作ったモノの残りを食おうと決めて、宿舎に帰った、
「ただいまぁ」
「あぁっ! お、おかえりなさい!」
「?? アルマさんどうしたんですか、そんなに慌てて」
帰ってくるや否やバタバタと廊下に出てきた。
「クラディス君……! 私、もう生きていけないかも!」
「!? ど、どうしたんですか」
「本に書かれてる文字が……読めないの……!!」
「えっ」
アルマさんが目の前に出てきた本には、しっかりと『魔物全集』と書かれている。
アルマさんは……この世界の言葉が分からない……?
僕に悩みの種が一つ増えてしまった。
応援ありがとうございます!
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