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4-5 理外回帰編:魔族との遭逢
232 ぼく以外の転生者との会遇
しおりを挟む状況把握に頭を全力で使い、ようやく展開に追いつき始めた。
向けられている指の先を見つめ、確認するように呟いた。
「アルマさん…………仲間って……」
「っ! 私、この人知らない……! 違う!」
「知るも知らないも、魔族が人に拘束されてる……それを助けに来ただけだけど?」
当然のことでしょ? と口元に笑みをたたえた。
「……」
あの日に会った魔族とは違う。いや、同一であるというのに──違う。
頭がこんがらがる。なにが起きて……コイツは……だって。
「おまえ……あのときの魔族じゃないのか?」
「なにが? 会うの初めましてだけど?」
「あるじ……? コイツのこと」
「始めましてだけどなぁ~……混乱してるみたいだね。可哀想に」
なにが起こってる……!
こいつは、ぼくの傷を治した魔族じゃないのか!?
姿、形、声、顔。全部が一緒だ。アイツのハズだ。
「いやさー、私のとこの魔女がこの前倒されちゃってその補充をしないといけないんだよね~」
「わたしは……違う。あなたの仲間じゃ……」
「キミも混乱してるの? あっ、もしかして生まれたばっかりで右も左も分からない感じ? 姿形は人間たちと一緒だもんね~。うんうん、わかるわかる。でもさ、ほら……なんて言うんだろ、化け物じゃん? 私たちって、人間からしたらさ」
言葉を途中でやめ、目の前で何かを開く動作をした。とても見覚えのある動きだ。鑑定、もしくはステータスボード開示の……。
「わたしは化け物なんかじゃ……!」
「そう怒るなって。事実、私がこうしてボードを見れるってことは下位種な訳でしょ? ボードにも魔族で下位種人型、と。ほら、書いてあるじゃんか」
「だからって……私は違う!」
「一緒。レベルがすごく上がってるね、人を何人か殺したでしょ。わ~、すっご、たくさん倒したね。いいね、その調子だよぉ」
手に持っていたボードらしきものを操ると、アルマさんの顔は歪み、次第に額に汗がにじみ出て……口元を緊張でこわばらせて。
「ははは!! その顔なに~? 罪悪感でもあるの? ないよねぇ! レベルが300って何十人と殺さないとなれないものね! あ、もしかしてその二人も殺る予定だったとか?」
空中で腹部を抱えて笑い、バランスを崩しながらも落下してくることはなくクルクルと宙を回った。
「でも……種族名が分かんないな、見た事ないや。あんりみてっど……? それに……ん、称号の所になにかあるな……」
こちら側からは見れないボードに手を触れ、ノアという魔族の表情は固まっていた。
ボードから目を上げ、アルマさんやぼく、アンを確かめるように見ていき、大きなため息をついた。
「あ~……だからこっちに来たくないのか……なるほど。君……『転生者』だったのか。元は人間か~、魔族って受け入れるのができない感じかな?」
突然声に出されたその言葉に、横目でアルマさんを凝視した。
転生者は必ず人間として転生してくるものだと思っていたのに。
しかし、アルマさんは意外な反応をしていた。
「転生者……って、なんのこと……?」
「…………」ノアからしても意外な反応だったのか、髪の毛をかぶりの上から掻いて。「そういうことね。気が付かなかったんだ。自分が外からやってきたバケモノだって」
「ねぇ、クラディスくん……転生者って──」
こちらを向いてきたアルマさんと目があった。
ぼくは、言葉を出すことはできなかった。
情けない顔だけを向けて、何がなんだか分からなくて。
突然の出来事の連続で頭の処理が滞ってて。
だから、気が付かなかった。
上空で膨張をする、どこまでも黒い魔素を。
「……『爆発』」
「――!? あるじっ……!!」
唯一動く事が出来たアンがぼくの手を引っ張り、
「っ!」
ぼくは体が流されながらもアルマさんの手を握った。
自分たちがいた場所を中心に半径15m程の大爆発が起き、爆風でぼくたち3人の体は宙を舞った。
「!?」
風景が歪み、落ちて、上がって──
耳が悲鳴を上げ、突如として大規模な反応を察知した『魔素感知』をしていた脳みそは高熱を宿した。
「~っ! がはっ!」
しかし、戦闘が始まったことは本能的な部分で理解できた。
攻撃された。ノアに……。話ができていた魔族に。
傷を治してくれたのに。なんで、どうして、意味がわからない。
だけど、戦わないと──殺される。
「くっそ……! 何が起きてるんだよっ……!!」
飛びながら、手を横に大きく振り抜いた。
「【多重鉄壁】──ッ!!」
無詠唱の中級魔法が、後方に築き上げられていく。
平原に一瞬で作り上げられる鉄の壁、対する魔族は欠伸混じりにフードを下ろしていた。
──あ。
手を握られてることで視界が安定しない。
ぼやけ、揺れ、鉄壁にも阻まれて。でも、辛うじて見えたその姿に……やっぱり、そうだと気がついた。
「おまえ……」
フード下から現れたのは鮮やかな青色の髪色。
肩まで伸びる髪の毛はパーマを当てたように波を描いている。
目の色は真紅色、笑みを常に浮かべているが柔和とは程遠く、表情は掴みづらい。
体全体は凹凸が少ない甲板のような体型をして、一見すると成人手前の貴族令嬢のような見た目をしている。
「ノア……」
あの魔族は、ぼくの傷を治した魔族と同じ顔、形、声をしている。
全部が一緒だ。
なのに、違う。
攻撃をしてくるし、こちらを敵だとみなしている。
何が起こっているのか分からない。
オマエは……敵なのか?
だったらなんで、あの時……この傷を治して──……。
──なにが? 会うの初めましてだけど?
違う魔族なのか……? そんなこと、ありえるのか……?
そんな僕の葛藤を他所に、
「転生者なら仲間になることはないかぁ……じゃあ、殺さないとねッ!!」
眼球の白い部分――結膜に当たるところがじわっと黒に変化して行き、体全体の魔素放出量を何十倍にも膨れ上がらせた。
そして、
「ハハッ」
ワインのような瞳の色は──獲物を狩る獣のような金色へと変わった。
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