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4-1 理外回帰編:大規模クエスト
189 匂い袋ってなに
しおりを挟むさてさて、装備の点検タイムと行きましょうか。潜る前のチェックである。
僕は少し長くなった刀と、防具と持ち物の残りを数えていく。眼帯ではなくて包帯だから、戦闘中に解けないようチェック。帽子は被らない、どうせ汗かいたら暑くて外すし。
アンは拳殻を睨むようにして、手首を捻り一周、眼鏡と片側ポニーテールはお気に入りのようでそのまま。
ケトスはくぁ、とあくびをして、うたたね中。
そうしてたら、拡声器のようなキーンという音が聞こえてきた。
「さぁ、クエストに集まってきてくれた冒険者諸君! 今回のクエストを取り仕切るギルドスタッフのペルシェトから最後の確認だぞ!――この森にいる全部の魔物が討伐対象! 討伐証明でもよし、そのまま持ってくるのもよし、そこは君達に任せよう! そして、三時間後にはここに戻ってくること! そこでクエストは完了だ。分かりましたか~?」
冒険者の中から「分かったー」とか「早く始めろよー」と声が聞こえてくる。
報酬も等級別に設定されているようで、普段のクエストよりもお金が多めに貰える仕組みらしい。もちろん僕らはそれより少し多めに貰えるように融通を利かしてくれている。
普通に参加する彼らからこれほどまでにやる気が感じられるのは、よほど良い報酬なんだな。期待しておこう。
「やる気がいっぱいの君達の声に応えて、予定通り! クエストを開始するぞ! よしっ! 始めっ!!」
ペルシェトさんの合図が聞こえると、冒険者は一斉に森に入っていった。
予め一定人数ごとに間隔を開けて配置されていた為、近くもなく遠くもない場所で他の冒険者が戦っている状況が作られる。
奥へと進むのも良し、自分たち以外のパーティーと一緒に行動するのも良し。そこは各冒険者へと一任されていた。
「僕達も入る?」
「あくまでも補助役だから、積極的に戦うのは他の人に任せるとして……事前に言われた人達の周りを警護する形にしようか。あくまで意図がバレないようにね」
「そんなの気にせず、一番奥まで突き進めば宜しいのでは?」
「そうもいかないかな……。ギルドとしては、自分たちが出したクエストで死者が出るのはあまり好ましくないだろうし」
「まぁ、とりあえず様子を見ながらでいいんじゃない? もう戦ってる音が聞こえてくるし」
「そうだね。とりあえず入っていこうか」
自分たちが任せられた範囲の冒険者の顔と人数を思い浮かべながら森へと入っていった。
◇◇◇
「うわ、うわぁぁぁ!」
『グギャギャァァアア!!』
防具をつけていない少年に襲うゴブリン。それの頭を突き刺した。
頭部を突き刺したまま、振り下ろして血を払う。
「――大丈夫? 無理しないでね」
尻もちを着いている男の子に手を差し伸べ、引き上げた。
「はっ……は、はい」
「アン、そっちは?」
「対処しました」
「ケトスは?」
「ばっさりとー」
この襲われていたパーティーは銅の4人で、全員が男の子。
まだ魔物退治の回数が少ないから注意をしないといけない――っと言うのを聞いていた。
連携もバラバラで、防具をつけてない。単独行動だから各個撃破されてしまう。
でも、それをわざわざ言うのも違うか。ましてや同年代の僕に言われるのは屈辱かもしれない。
「次は……50m程先の右斜め前方向。アン、先に行っててくれる?」
「了解しました」
アンに任せて、倒れていた少年のお尻についた土を払っておいた。他の三人も駆け寄ってきた。
「ご、ごめん。助かったよ」
「お互い様だから気にしないで。あ、でも、せめて胸当てだけでも付けれるなら付けた方がいいと思うよ」
「……分かりました」
これくらいは言ってもいいだろう。防具をつけてないケトスがいる所で言うのは、説得力がないと思うけど。こら、ケトスはあくびばっかり。ちゃんと寝てきなさい。
その子達のサポートが終わったら、アンが先に行った所の応援へと駆けつけた。
僕の『魔素感知』で近くに感じる人の魔素と魔物の位置を確認して、戦闘していると思われるところに足を運ぶ。これの繰り返し。
今日は、やたら魔物の出現頻度が多いような気がするから大忙し。
まだ森の入口辺りだというのにゴブリンやウルフ、さっき一匹だけホブゴブリンがいたな。
そんな日もあるか? 若干疑問はあるけど、それを気にする暇が無いほど、あちらこちらで冒険者と魔物と遭遇している。
サポートしたパーティーが繰り返し襲われてるのは頭を抱えそうになるけど、僕が戦闘経験が無い時のことを思い返すと……仕方がないよな。
立ち向かう勇気がある時点で、冒険者の素質はある。
「……昔は、ウルフ系の魔物に襲われて泣いてたんだものな」
「そんな時がクラディスさんにもあったんですか!?」
「僕らも強くなれますか?」
「私の武器はこれでいいと思いますか?」
「クラディスさん! 向こうから足音が聞こえました!」
「…………えっと、みんなどうしたの?」
軽く一時間は経ったか、というところ。
僕と同年代の子ども達を永遠と助けていると、僕らの後をゾロゾロと着いて来るようになり、慕っているような言葉を向けてきた。
「あんたの近くだったら安全だと思ってね!」
「あの、私達とパーティー組んでくれませんか!」
「あの……、これって魔物倒したら倒しただけ報酬が出るから……みんな散らばって倒した方が」
「そうだぞー、そのクラディスの近くにいたら魔物倒しちゃうからお金貰えないぞー」
「そうですけど……」
しょんぼり。
一回死にかけたような子達は、不安なのかな。
(どうしたものか……)
これではこの子達が魔物を安全に倒せる機会を奪ってることになるよな。
「……そうだ、ここのみんなでパーティー組んだら安全に倒せれるんじゃないかな? まだ森も浅いのに魔物も数が多いわけだし、いい経験になると思うよ」
言い回しが完全に上から言ってしまった。何様だ、僕は。
「「「分かりました!」」」
お、素直な子達。いいぞ。
「じゃあ、そこの君。銀等級の君だ。君がパーティーの指揮を取って、動かすんだ。あまり奥へ行ったら魔物のレベルが上がるからね。そこは判断に任せるよ! じゃあね!」
「お、俺ですか!?」
「うん、ふぁいと!」
面倒事を高身長の少年へと押し付けて、そそくさと奥へと向かう。
道中で会う魔物はやっぱりレベルが高いような気がする。
まだ浅いというのに、中層より奥に出てくるようなレベルの奴らばかり。
オーク、フォレストウルフ、ウッグ、エトセトラエトセトラ。
「……魔物の数が多いと思うんだけど」
「それは僕も思った。向こうも大規模クエストみたいなキャンペーンやってるんじゃない?」
「そうなのかなぁ」
ケトスの言葉に、んーと悩む。
「普段の2、3倍はいる気がするし、やってるかも」
「冗句だよ、本気にしないで」
「――もしかしたらこれではありませんか?」
ずっと何かを探していたアンが、木の高い所に括りつけられている布でできたような袋を指さした。
ケトスが手を伸ばせば届くような高さ。僕やアンには届かない。
それも森の入り口側からは見えないように、付けられている。
「袋?」
「微量ですけど甘い匂いがしています。ここだけでなく、一定の間隔に置かれているようです」
「甘い匂い……僕はしないけど」
「これほど近づいても微かしか匂わないので。それに……ここよりも森の入り口側の方が匂いが濃かったような」
「あ、多分これアレだ。匂い袋」
「知ってるの?」
「血盟の人らがたまに使うみたい。魔物を誘き出せるらしいよ」
「なんだそれ。魔物を誘き出すって……」
ん……誘き出す? 魔物を? それが等間隔で括りつけられている。
それで、匂いが森の入り口の方が強い。ここら辺はあまりしない。
匂いが濃い方に誘導されるなら……。
「魔物から逃げる時とかに、逃げながら投げとくと上手くいくと逃げれたり――」
『ヴオァォォォォォオオオォォオッ!!!』
「――うわ、この声。オークかな」
匂い袋って物を付けてるってことはギルドの人がやったのか? 経験を積ませるためにやった……ってことか。
いや、でも危険過ぎる。先輩冒険者も駆け出し冒険者も一緒に壊滅することだってあるはずだ。
だとしたら、なんだ……?
「行かないのですか?」
「……アン、僕らがサポートする人達ってさっきので全員だった……?」
「……全員……では、ないですね。開始前、パーティーに誘ってきたのがいませんでした」
あの人達……、そうだ。僕らが魔物と戦ってる間に姿は一度も見ていない。
だけど魔物がこれだけいる中……奥に行くことなんて出来るのか? でも運良く奥へと進んでしまっていたのなら……。
「……じゃああのオークの声は」
「あの三人が襲われてるかもね」
「行こう……! 急がないと……!!」
匂い袋の事が頭に残りながらも、僕達は自分たちの役目を果たすためにさらに奥へと進んで行った。
応援ありがとうございます!
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