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3-1 残穢足枷編:最強の少女

144 最長連勝記録

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 目の前で繰り広げられる戦闘を見ている観客は見入り、息を飲み込んだ。
 実況の男の声は二人の後を追うことすらできず、観客の元へは場内から発せられる音しか聞こえてこない。

 数分前、ムロのスキル使用したのを確認した少女は互いにフェアな状況にしようと自身もスキルを使った。
 使用スキルは一緒だが……試合の優勢は徐々に傾き出していた。
 
「ほんとっ……はえぇな」

 高速で動く小さな体は、こちらが攻撃した時の僅かな隙を狙って攻撃を強引に捻じ込んでくる。
 今まで高速で動く魔物モンスターは今までに何千何万と葬ってきたムロでさえ、その動きは捉えることが困難を極め、タイミングが掴めず攻撃をかしていた。

 少女も常に一定の速度ではなく緩急をつけての攻撃でムロを圧倒している。
 少しでも当たってしまったり攻撃を防ごうとしたら今度こそ拳殻が壊れて一気に勝ち筋が薄くなってしまう。

 だがこの状況が続くとキツくなってくるのは防戦一方のムロの方だ。
 肩、頬、足、腰と擦り傷や打撲痕を作られ、常に相手の場所の把握に神経を減らしていた。

「ほんと『チョロチョロ動きやがって』って感じだなっ!!」

 ムロは対魔物モンスターにおいてはマーシャルを除いて、今回出場した参加者や奴隷の中で右に出るものはいない。だが、それは魔物モンスターにおいてだ。

 ここは、対人戦闘能力で優劣が決まる。
 この場所でどんな劣悪な状況であっても勝利を収めてきた戦闘奴隷にとって、相手がしてくるであろう行動は全て頭に入っていた。

「……ふっ」

 ――そして、今までに727番に対して取られたことがある行動パターンの一つをムロは選択してしようとしていた。

 自身に攻撃をしてきた少女が距離を取ろうと引いた時を狙い、地面を思いっきり叩き割ると放射状に床が割れていき、尖っている闘技台の一部がいくつも隆起する闘技場へと早変わりをした。

 ――足場の破壊、動きを捉えるのが困難な相手にする手段の一つ。

 少女は攻撃の戻りにつこうとしていた足場が崩れたことで、隆起した白い石に両手両足で着地させられた。

「隙あり、だ!」

 大剣を振り下ろそう少女の頭上に飛んだムロ。
 それを見あげる形で少女は顎を上げたが、不安定な状態から飛び上がりムロと同じ目線まで体を空中に浮かした。

「うっわ、マジかっ!! その状態で――ッ!!」

 空中での姿勢を維持し、振り下ろされる大剣に向かって拳殻をぶち当て、腹の底に響く重い金属音を闘技場内に轟かせた。

 すると、ガゴンッ。と大剣と拳殻が壊れる音がした。

 壊れた大剣を投げ捨てて、腰に携えていた小刀を取り出そうとしたムロだった。しかし――

「ぬおっ……」

「これで、どう? まだ何かできる?」

 少女も大剣とのぶつかり合いで破損した左手の拳殻を解除して素手でムロの服を手繰り寄せ、体を下に振り、無傷に近い右手の拳殻を構えた。

「……はぁ。生憎、空中戦は苦手でな……俺の負けだ。強いな、お前」

「おじさんも強かった。降参するなら攻撃やめるけど」

「まぁ、そう弱く見てくれんな。景気よく一発撃ってくれ、情けなんていらねぇからよ」

 諦めて清々しい表情をした男。
 その表情をみた少女は一度は緩めた手に再度力を加えて、拳殻を真っ直ぐに腹部目がけて振り下ろそうとした。

「――全力で撃つんだぞ」

「……死ぬけど良い?」

「……少し手加減が欲しいかもな」

「分かった、じゃあ――『無慈悲ナ一撃カディッツォロ』」

 拳殻から視認できるほど漏れ出す魔素放出量で使われたスキルソレは、ムロの腹部にねじ込まれ、自然の落下より遥かに早い速度で地面に打ち付けられ、白煙を上げた。
 体と地面がぶつかったとは思えないほどの大きな音が立つ。それはムロと727番の戦闘が終わりの音でもあった。


 ムロの体より後にふわっと地面に降りてきた少女はムロの息の根があることを確認して一瞬安心したような顔になり、そして今日今までにしてなかったような哀しそうな表情を浮かべた。
 その表情を見て、観客席のクラディスは再び考え込むような表情をした。

「どうしました?」

 それに気づいた隣のナグモが声をかけるが、直ぐに「なんでもないです」と言って、試合観戦を続けた。

 この闘技場の勝利条件は自分以外を戦闘不能にさせるか、場外に出すか。それを見ている審判員がいるのだが一向にムロを戦闘不能と見なさなかったことで、わざわざ体を場外に運びだそうとする。
 ズルズルと引きずって行く時に「ん……」と声がした。目を覚ましたようだ。

「あぁ……生きてた」

「強かったよ、おじさん」

「負けた相手にそれはねぇだろ。皮肉にしか聞こえん」

「私は2つ武器があった。おじさんはひとつ。それが原因」

「拳殻っつー武器で大剣を割るって聞いたことねぇからなぁ。余裕ぶっこいてたわ」

「まだまだ」

「だな。おじさんはまだまだだ」

 自身の体より何倍も大きい体を引きずる少女を見上げてヘラヘラと笑った。その笑みに不器用でなんとも言えない表情になって場外まで運んでいく。

「お嬢さん」

「なに?」

「ちょっと耳かせ」

「まだやる気?」

「なんもしねぇよ、もう体動かねぇし。最後に言っときたいことがあるんだ。最後だから、な?」

 ムロの言葉を聞こうと少女は腰を屈めた。
 その耳にボソボソと何かを呟くと、驚いたような顔になって「それってホント……?」と答えた。

「あぁ、あそこをよく見てみろ」

 顎をクイッとした先を見つめると、そこには銀髪混じりの白髪の少年がこの戦闘を観戦していた。

「あの人……?」

「そ、あいつ」

「なんで、おじさんはそんなこと分かるの?」

「おじさんは天才だからな」

 笑って誤魔化したようなムロをじっと見つめ、ズルズルと引きずり始めた。
 それ以降はムロも少女も何も喋らず、直ぐに場外へと置かれた。

『勝敗が着きましたっ!! 上位部門の勝者は727番!!!! 圧巻の強さを見せ付け、30連勝達成です!!!』

 実況席の男の声が響き、まばらな拍手が聞こえると今日の全日程の終わりが告げられた。
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