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2-6 少年立志編:ティナちゃんのテスト
127 テストの日
しおりを挟む「お主は、今日までよーく頑張ったと思うぞ! うむ!」
「ありがとうございます……っ!」
「そして今日が総仕上げのテスト日じゃ。抜かりはないな?」
「もちろんです。ティナ先生の言う通り、しっかり食べて、しっかり睡眠を取らせてもらっています!」
「よろしい! 分かったかナグモ!! しっかり食べてしっかり体を動かし、十分に寝る!! これが出来て初めて人はまともに動けるんじゃ! 毎日毎日朝から晩まで訓練をしよってから」
「いや、なんですかコレ。私は説教をくらいに呼び出されたんですか……?」
僕達三人は竹林と森林地帯が混じっている場所の入口でお話をしている。
ティナ先生がナグモさんのことを無理やり引っ張ってきたところまでは良かったのだが、途中から変な流れになって変なノリになってしまった。
「過酷な訓練を終えたクラディスを見て、お主はどう思う? 見違えたじゃろう!」
「どう……ですか。来た時より少し筋肉質になって、表情に自信が出てますね?」
「その他には!」
「んー、髪の毛が伸びましたか?」
髪の毛をちょんちょんと触り、笑ったナグモさんの肩をティナ先生は思いっきり殴った。
「このアホ! 何もわかっとらんぞ。のぉっ! クラディス!」
「そ、そーですよ!」
「ステータスを見ずともわかるものがあるじゃろうて、魔素感知とかしてよー見てみぃ」
「冗談ですって、分かってます。比べ物にならないほど伸びてるのはちゃんと見えてますから、しっかりと驚いてま
すよ」
「それを先に言わんか」
「えぇ~、ティナちゃんの態度が気に食わなくて」
「なにっ!?」
「これも冗談ですよ、ハハ」
「ふんっ! 今日もくそ生意気じゃの」
「長い付き合いだから、もう変わらないって諦めて欲しいですけどね」
「ム~リじゃ」
そういうとティナ先生はナグモさんが上げていた片手を思いっきり叩き落とした。でも、その反動でティナ先生の頭をがっしり掴んで頭を揺らされている。
久々にこの二人のやり取り見たけど、相変わらず仲がいい。
先生に嫌がらせをしているナグモさんの方を苦笑いしながら見ていると目が合った。
「まぁそれは置いておいて。今日はどんな訓練をするんですか?」
「――アアァアアァァァッ! やめろォ!! 視界が回るっ!!」
「あれっティナ先生から聞いてなかったんですか? えっと、今日は仕上げのテストの日で、2日後の闘技場の日にあった訓練を今日にまとめてやる感じ……? 僕も詳しくは聞いてないんですよね。ただ『出てくる敵を倒せ』とだけ」
「――ァアアァァァァァッーー!!」
「なるほどなるほど、何か特別なことをするわけではなく、あくまでも訓練のような形式をとるんですね」
「スキルも相変わらず使ったらダメらしいですし」
「あはは、大変ですけど頑張ってくださいね」
「――グゥゥゥゥァア!!」
会話しながら頭の上に置いていた手で先生の頭をぐわんぐわんと回してハハハと笑うナグモさん。
あの先生が手玉に取られてる。なぐもさんはやっぱり侮れない……。
その後、ティナ先生は自力で抜け出した。そのあとずっと不機嫌そうな顔でナグモさんの方を見ていたので中々に訓練が始まりそうにないと思って、少し離れたところでストレッチを始めることにした。
◇◇◇
クラディスが二人のやり取りを見てストレッチを始めた時、コソッと今日の訓練についてティナに聞いてみることにした。
「ティナちゃん」
「なんじゃやるのか!! かかってこい!」
「いや、訓練が始まる前に今日の仕上げっていうのはどんなことをするのかなと思って」
「はぁっ!!? あ……あぁ、言わんかったかの。まぁ良い教えてやろう! 今日の訓練はクラディスの実力の仕上げ、体力面は鍛えられたから実技的な部分の押し上げをするのが目的じゃな」
「実技的な部分……ってことは、少しランクが高い魔物との戦闘でもするのかな」
「そーじゃ」
「そっか……それはそれは」
入念にストレッチしているクラディスの方に目をやり、前のような表情に迷いが入ってないのを確認した。
「ふふっ、クラディス様の成長は本当に早いですね」
「そーじゃな。飲み込みが早い、順応力も高い、一度失敗したのはよっぽどの事がないと繰り返すことはしない。あるとすれば時々魔物に遠慮があるくらいかの」
「優しいですからね。真面目で、普通ならしない訓練にもちゃんと向き合って成果を積む……同年代の子の中と比較するのは周りが可哀想に思えるくらいに成長してます」
「じゃが、甘いところがまだまだ多い。そういうのを含めての仕上げじゃ」
「一月二月で完璧に仕上がるのはさすがに規格外過ぎると思いますけどね」
「何言うとる。ワタシが教えとるんじゃ、どんなことをしてでも上を目指せるようにするぞ」
適当な場所に腰掛けて、寝不足なのか大きく欠伸を繰り返してぼんやりした目でクラディスを見て笑った。
「それに……今日のために、ここにおる一部の魔物の量を制限しとったからの」
「そんなことまでやってたの?」
「もちろんじゃ。仕上げの戦闘訓練で出てくる魔物の数を1つに絞ろうとして、毎回場所を変えて他の魔物の縄張りを少しずつ下げて行ってたんじゃ。毎回魔物の発生場所と群れ、縄張りの位置を確認してやっとった。適当にはしておらん」
「はー、あのティナちゃんがねぇ……」
「お主も普段せんことばかりしとったらしいじゃないか、それと一緒じゃ」
ティナにクラディスの先生を申し出たのは確かにナグモ自身だった。ティナの興味を引けたらいいと思っての提案だったが、予想以上のクラディスへの取り組み方に驚きを隠せてない様子だ。
ティナは口調や態度にも出ているが、マイペース、自由奔放、天真爛漫という言葉が良く似合う少女だ。その彼女が一人の少年のために、昔からの知人の願いとはいえ、時間を割いてまで魔物の量の調整をする……。
ナグモは雪でも降るのではないかと空を見上げた。
「この前奥まで行って見たには見たが……上手くいっとるかは何とも言えんな。初めてやったことじゃし、なにせ相手はめんどくさい魔物だからの」
「……? あぁ、今日の相手の話?」
「そー。そこらの魔物より知恵があるから今日は荒れるかもしれんの~」
「魔物の名前は?」
「ウッグじゃ」
「ウッグか……また面倒臭い相手を設定したね」
「ゴブリンキングよりも劣るが、この辺りでも上位の魔物じゃ、相手にとって不足はない」
ケラケラと笑うティナの元にストレッチを終えた様子のクラディスが来たので身を引き、二人が会話しているのを遠目で見守るような立ち位置に立った。
クラディスとの最初の戦闘の時の光景を思い浮かべ、口角が緩む。
「……どれだけ成長したのか、見せてもらいましょうかね」
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