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1-3 世界把握編:小さき転生者、進路に悩む

37 入国

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 意識が戻り始めると、視界が暗転していることに気づいた。

(……? あれ?)

 ムロさんとトレーニングしていたことは覚えている。肩や頭をバシバシ叩かれたことも記憶に残っているが、僕はその後どうなった……?
 湖にまだ居るとして……いや、あの場所にあった風が吹き抜けるような感覚はないな。水の音や、森や自然のニオイもしないから湖が近くにあるような気がしない。
 ぼんやりとしている頭を酷使し、現況を理解しようとしていると会話が聞こえてきた。

「――この子どもは……?」

 スーツでも似合いそうな大人の男性の声が聞こえる。

「その子は村の子だ」

「……その分の入国料が発生しますが」

「まじか、ならクラディス起きねぇし、置いていくか――」

「馬鹿っ、何言ってんの!?」

「嘘に決まってんだろ」

 何を楽しそうに話しているんだ? 入国料って言ったか?

「そのくらい構わない。いくらだ?」

「年齢により上下するのですが、種族により規定が異なりますので……その村人は種族と年齢を証明できるものを持っていますか?」

「ねぇから大人料金でいい。ほら、丁度だ」

「……確かに、入国を許可します。お入りください」

 一通り会話が終わると、車が再び動き始めたような振動が背中から伝わった。
 今はどこで、どこに向かっているんだろう。
 
 うっすらと意識がはっきりしてきて、目を開くと、ぼやけている視界ではあるが濃い緑の天井が見えた。やはり車の中であっていたようだ。


      ◇◇◇


 ゆっくりと体を起こすと草原や宿泊していた場所とは雰囲気が違うように思えた。

「……ここは?」

 僕の声に気づいたレヴィさんは、こちらを見て「お、起きたか」と声を出し、僕もそれに頭をペコッと下げる。
 ゆっくりと走っている車の外から多くの人の声が聞こえてきた、よく聞いてみると車の車輪の地面の上を走る音が微妙に違う……気がする。
 
「ここはデュアラル王国だ。私たちの拠点で、この旅の目的地となるところだ」

「目的地? 僕はどうやって……、ムロさんとトレーニングしてて――」

「あー! お前は寝ちまったからな! ぐっすりと! 余程走って疲れてたんだろうな!」

「寝てた……?」

 僕は寝たのか……? 
 寝たにしては、寝る前の記憶が曖昧だけど……そういうことにしておくか。
 ムロさんも荷物をまとめているのだが、焦った様子で言葉を遮ったのが少し気になりはする……が、まぁ……いいか。

「2人のトレーニングは朝早かったのとムロのトレーニング内容はなかなかにハードだからな、疲れて寝てしまっても仕方ないことだ」

「そうなんですかね?」

「――よし! 着いたし、クラちゃんが起きたから車返してくるね! ここら辺で待ってて!」

「おし、クラディス降りるぞ」

「え、あ、まっ――」

 まだ目が覚めて間もないというのに、ムロさんに担がれ車を降りた。少しフラフラする感覚が残っている。

 車を返しに行ったエルシアさんが戻ってくるまでの数分の間、僕達は大きな噴水のある広場で待っていた。もちろん担がれたままで。
 僕達が入ってきた門のようなものが遠くに見え、新しい車や別の横の小さな入口から人の集団が入ってきている。人の行き来が盛んなのがうかがえる。

 このデュアラル王国の街並みは日本と言うよりイタリア、イギリスなどの欧州ヨーロッパの代表的な市街地の造りに寄っている。現代……と言うより中世のモノに近いか?

(でも、ファンタジーなんだろ……? なんでも有りな世界なハズだ。中世の時代基準で物事を考えない方がいいか)

 限られた空間に建物を立てて、木ではなく石や煉瓦レンガのようなものを使っているように見える。
 それに全体的に細長い建物が多く、道をしっかりと確保している。恐らく景観に対する規制や、それらを文化とする法律などがあるのではないかと想像出来る。
 まぁ、日本のようなごちゃっとした建てられ方では無いのは確かだ。僕は日本育ちだからそちらの方が落ち着くのだが、外国に来た気分だ……。

「お待たせ~!」

「お疲れ、どうだった?」

「特に、日数超過とか日常茶飯事だからいいよ~ってさ。備品も綺麗に使ったし追加料金なーし」

「対応してくれたやつが当たりだったな。ツイてる」

 あの野営キャンプの時に使っていた、仮設の料理台やお皿とかは借り物だったのか、すごいビジネスの仕方だな。

「じゃ、あとはギルドにいくだけだね!」

「のんびり行こう。クラディスが街並みに興味があるみたいだしな」

「気づいてたんですね」

「あれだけキョロキョロしてたら誰でもわかるさ」

 担がれてる僕のことをフッと笑って歩き出した。
 それについて行く形で街中に入っていき、僕達は歩いた。

「あの、ムロさん。まだ寝起きで何が何だか分かってなくて……今はどこに向かってるんですか?」

「ん。あ~、ギルドっつーとこで、お前の力を伸ばすとこだな。俺がお前に約束したヤツ、覚えてるか?」

「……えー、将来したいこと……の?」

「そーそー、俺らがお前に訓練することを考えたんだが、それより明らかに適任がいるからな~」

「適任……ですか」

「ギルドの揉め事とかを解決してる凄腕ギルドスタッフさん! ムロの友達だよね!」

「……友達ってわけじゃねぇけど、縁があって色々世話になった人だ。適任ってのはあの人は俺より強いし、信頼できるからお前を任せれると思った」

 ムロさんより強くて、信頼できる人?

(……想像もできない。どんな人なんだろ)

 周りを見てみると路地裏で遊んでいる子どもたちがいたり、大きな刀をぶら下げて歩いているフードをつけている人、洗濯物をパタパタと日光にあて乾かせている様子のご婦人がみえた。
 これで国旗がぶら下がっていたりしたらまさに想像出来る欧州だ。さすがにここは別の世界なのでそういうことは無いようだ。
 ガラスからこちらを見つめている子どもに手を振ったりしたり、パン屋のような店から道にまで届いている暖かい香りを感じる。頭にお団子を乗っけてる人が買い物をしていた。

(いろんな人がいるもんだなぁー……)


      ◇◇◇


 しばらく歩くといままでの二階、三階建ての建物とは違う雰囲気を持っている庭持ちの大きな建造物が見えた。
 何あれ、煉瓦造り……だよな。

「お、見えたか? あれがギルドだ」

「あれが……」

 正に、ギルド。中世の雰囲気がある建造物となっている。
 僕はムロさんに降ろしてもらって、駆け足で近くまで駆けて行った。

 縦に広いと言うよりかは横に広く、高校時代に資料で見た平成後半の東京駅の赤レンガ駅舎と近い。上が三階ほどの高さなのでもしかしたら地下とかもあるかもしれない。
 そのギルドという建物の周りには20m程の庭があり、1本長く伸びる道その両端には花や等間隔で植えられている木。水路が引かれているのも見える。

「わぁ……すごい。でっかい……」

 庭の手前で上を見上げると、人がチラチラと二階や三階の窓に見えた。
 これだけ広いのに上まで使われてるって……すごい規模の所なんだな……。

 がたいの大きい人、小さい人、老若男女ほぼ偏りがなく人がギルドに多く出入りしているのを見て、冒険者ギルドと冒険者というのが盛り上がっているのが見て取れる。
 上を見上げていたら、にゅっと見たことがない女性が顔を覗かせてきた。

「わっ!?」

「へへ~、何見てたの?」

「あ、その、ギルドをみてて……」

 気づかなかった……建物に見とれてたら突然目の前に入ってきた……。

「お、リリーさん。久しぶり」

「よっす。君達も元気そうで」

「私達は通常通りですよ。のんびりやらせてもらってます」

「そう? ならいいや。私らんとこが越すまでそのままゆっくりしててくれたら嬉しいんだけどなぁ~?」

「マーシャルに言っておきます」

「そうしてくれ、たまにはこちらにも花を持たせて欲しいからね」

 レヴィさんと今話している女性、僕とほとんど変わらない身長だ。肌は褐色で金髪、耳が少しとがっているように見える。
 僕と同い年くらいに見えるのだが、レヴィさんとの会話の様子を見ると大人のような気もする……が、見た目は完全に外国の幼女といった姿。目の色は赤黒い色をしているので魔導士ウィザード……ということか。

「この小さい子はレヴィんとこの連れ?」

「はい、先日拾いまして」

「へぇ! 最近は子どもが道端に転がっている時代か~……ふ~ん? 名前は?」

 こちらを舐めるように見て聞いてきた。
 僕が答える前にレヴィさんが横からすっと入ってきた。

「名前はクラディスです。唾を付けるなら今のうちかと思いますよ?」

「ほ~ぉ? 君がそう言うなら期待しとこうかな。……ね、クラディスくん。強くなったら私んとこの血盟においでよ、歓迎するよ!」

 ズイっとレヴィさんを抜け、僕に身を寄せ、手を持ってぶんぶんと振った。

「か、考えておきます……」

 呆気に取られ、空返事をしてしまったのだが、特に気を悪くした様子もなく笑って、ムロさんやエルシアさんにも手を振って街に帰っていった。

「元気な人……可愛いかった」

「クラディスはああいう人が好みか? 見た目はお前と一緒くらいだけど、歳は何倍も上だぞ」

「えっ」

「リリーさんは準上位血盟の血盟主だから私達よりも強いしね」

「えっ!?」

「悪い人ではないのは保証する。まぁ、詳しい話はこれからあそこで教えてもらうのだ。楽しみにしておくといい」

 そう言うと、レヴィさんはギルドに向かって歩き出した。
 それに続く形でムロさんとエルシアさんも歩き出して、はぐれないように僕も小走りでついて行った。
  
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