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1-1 世界把握編:小さき転生者、冒険者に興味を持つ

14 クラディスの素質

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「あれ、僕……宙に浮いてる……」

 すごく困った表情をしていると、僕の体勢が照明を持っている男……確かレヴィさん? の方に傾き、顔が見えるようになった。

「ムロ、何してるのだ全く」

「ナイスキャッチ! レヴィ」

「ナイスキャッチではないだろう……はぁ」

 呆れた様子を見せて、ため息をついたレヴィさん。

「あ、こんにちわ……。助けてくれてありがとうございます」

「あぁ、まぁ、気にしなくても……」

 ムロさん達の方に向いていた視線を僕の方へと移すと、ようやく目が合った。

「……!」

 挨拶をした僕の顔を見つめ、先程ムロさんがしたような強張った表情を向けてきた。

「……失礼する」

 突然目の色が変わったように見えたと思ったら、レヴィさんの足元から青色と茶色の円形のものが地面に広がり、1秒もかからず大量の文字が刻まれていった。

「『遮音しゃおん土牢どろう』」

 ――ガガガガガガガガガガガガ。
 レヴィさんが右手を横に伸ばすと、地面に描かれた魔法の円のようなものから黒い壁のようなものが飛び出てきて僕とレヴィさんを囲う形で作り上げられた。
 あっという間に全方位がコレによって囲まれた。

「うぁ……なんだこれ……」

 真上を見上げるけど空が見えない。
 コレもそうだけど、僕を宙に浮かばせていたのって……魔法ってやつなのかな? 
 そう思えば、レヴィさんも魔法使いのような服を着ているような気がする。

 辺りをキョロキョロしているとレヴィさんは照明を近くに置き、腰を下ろした。
 そのまま立ったままの僕をちらっとみて横に座るようにポンポンと地面を叩き、座るように促された。

「あっ、すみません」

「すまない」

「いえ、別に……」

「なら、話をする」

 とんとんと会話を進めようとしてくるレヴィさんに合わせて僕も心構えをした。

「まず、君は誰だ?」

「誰……? 名前ですか? なんのことですか……?」

 思い当たることがない。僕は平野――違う違う。クラディスです、といえば良かったのか?
 僕の言葉を聞いた後は少し残念そうな表情になったが、すぐさま戻った。

「いや……そうか。あそこら一帯の縄張りはソフィスウルフか。それに襲われていたということは……よわ……いや、まぁ、そういうことか」

 弱いって言いかけたか……? いや、そんなことはないだろう。初対面だし。
 なにか自己完結してるから、横から話すのはダメだと思って座って相槌だけをうった。

「……あまり個人を詮索するつもりは無い。ないが、申し訳ない、君に興味が湧いた。君のその目だ」

「僕の、目……ですか?」

「そう君の目だ。君から見て僕の目は何色に見える?」

 照明の灯りではよく見えないけど……黒ではない……?

「あ……赤色ですか?」

「そうだ、私の目は赤色。両目とも赤色だ。魔導士ウィザードの素質があるものは目が赤色になる、ムロやエルシアは黒。あれは剣闘士ウォーリアーの素質があるということだ。そしてここにはいないが治癒士クレリックの素質があるものは青の瞳をもつ」

「……えーっ……と」

「瞳の色によって出来ることが違うのだ」

「あ、それならなんとか分かります」

 目の色によって素質が変わる。これはエリルとの話では出てこなかった話だ。

 ――あ。「ある身体的特徴で才能を伸ばす方向がわかるようになっている」ってこういうことか。

 第四創造神が言ってたのはこの事なんだな。目の色で素質が分かって……なるほどなるほど。
 自分の顔を手鏡を見た時を思い出しながら話の続きを待つと、ぐいっと興奮気味に顔を近づけてきて話を続けた。

「君の瞳は紫と黒。こんなのは見たことがないんだ……紫だけでも極希少。なのに、君は……両方の目で色が違う……! こんなの見たことがない!!」

 突然頬に手を当てられ、目の近くを触れてきた。

「磨けば光る原石だ!! もし興味があるのならば、魔法の勉強を――」

「ちょ、ちょぉぉっと待ってください! 僕もよく分からないんですってば!!」

 いきなり体に触れられたことで、既に壁ギリギリのところだったのにも関わらず、更に後退し後頭部をごちんっとぶつけてしまう。
 そんなことに構ってる暇はないので顔の横で手のひらをレヴィさんの方へ向け、落ち着いてくださいと体全体で表現した。

「……! す、すまない我を失っていた」

「い、いえ僕は……別に」

 我に戻ったレヴィさんは素早く冷静を取り戻し、僕から距離をとった。すると、少しお互いにどことなく気まずい雰囲気が漂い始める。

 ……何だこの空気。

 でも……そうか、目の色によってこの世界における素質が分かるようなら『紫』と『黒』って言うのは、さっき言った三つの素質があることになるんだな。
 
「あ……そうだ、これを付けておけ」

「……これは?」

「これは先の魔女との戦いの戦利品で、眼帯だ」

 出された眼帯の紐は少し太く、特殊な眼帯のように思えた。シンプルやデザインだというの美しく、眼帯だと言うのに物騒な感じはしない。不思議な感じだ。
 受け取った眼帯の付け方がわからずにオドオドしていると、レビィさんがクスウスと笑い、付けてくれた。

「よし、これで君は黒の瞳を持つ剣闘士になる幼き少年にみえるな」

 と言ってレヴィさんは立ち上がった。
 されるがままで何も考えずに眼帯をつけたんだけど……なんで目を隠すんだろうか? 
 
「あの、レヴィさん。この目って……」

「無論、隠しておけ。あまり人に見られていいものでは無いからな」

「そ、そうなんですね……」

 なんでって聞くのはダメなのかな。詳しく知りたいんだけど……。
 僕は眼帯の上から自分の目を触り、はぁとため息をついた。
 分からないことばかりだ。


      ◆


 話が終わるとレヴィさんが再びパチンと指を鳴らす。
 すると囲んでいた壁が消えていき、暗い草原が見えてきた。

「おいレヴィ! 急に坊主と二人になりやがって、どうした? 男にでも興味ができたか?」

「……そんなことは無いが。まぁ、この子には少し興味がある」

 二人が言い合いしてる中、エルシアさんがこちらをじっと見ているのに気づいた。
 そういえば、投げられた時にちらっと顔が見えたくらいだからはっきり見えなかったけど、やっぱり女の人だ。

 見つめてるエルシアさんに控えめに手を振ると、ムロさんの方をちらっと向き、その場の土を抉るほどの脚力でこちらへと飛びつき、頬に手をあててきた。

「!!? 突然なんでしゅか……!」

 頬を触られ、つねったり伸ばしたりしてくるのに対して声を出そうと思っても上手く喋れない。
 そして、僕の頬を触って顔を近くで見て大きく頷くと僕を抱き上げてきた。

「ンンッ!! この子っ! めっちゃ可愛い!!!」

「か、かわいい……?」

「見て! このぷにぷにした頬! 白い……いや、白銀の髪の毛! そしてくせっ毛! 小さいしぃ! 目もクリクリしてて私と同じ黒色――アレ?」

「……?」

 興奮した様子で僕の体を触りまくった挙句、ピタッと眼帯に手を止めて止まった。

「ちょっとレヴィ! この前倒した魔女の眼帯じゃない! これどうしたの?」

「ん? いや……私には不要のものであるし。その少年にあげたのだ」

「んだそりゃレヴィ。アレ、換金した方が金入るんだぞ?」

 ゆっくりとこちらに歩いてきたムロさんはニヤニヤと笑いながら会話に入ってきた。

「金よりその少年にあげたほうが有効的に使ってくれると思ったからだ」

「待ってレヴィ、魔女の眼帯はレアドロップよ。たしかにこの子は可愛いわ。うん。可愛い。けれどもあなたがレアドロップをあげる理由にはならないとは思うのだけれど」

 話がどんどんと進む中、僕は聞き逃さなかった。
 えっ、これ高価な物なのか!!? そんなもの受け取るわけにはいかない! 
 焦って眼帯を外そうと手を後ろに回すが、外し方がわからないんだった。

「実を言うとその少年、眼帯をしている方の目に怪我をしていたのだ」

「そうなの!?」

「そうだ」

「……うん??」

 エルシアさんがレビィさんの方から僕の方へ勢いよく振り向き、眼帯の近くを撫でた。

「なので、ポーションを使って悪化しないようにと眼帯をしたのだ」

 なんだそれは。
 嘘をつかないといけないほど、この目って見せたらいけないもの……なのか?? 
 いやっ、だとしても命の恩人達に嘘はつくのは僕のポリシーに反する!

「いや、あのですね――」

「そうだったのかレヴィ!! そうかそうか。俺も暗くてよくわからなかったのに、空中で受け止めた時に見つけてやったんだな?」

 オーバーな仕草でレヴィさんに近づいて肩を組んだ。

「あの! 実は――」

「そうだったのレヴィ!? あなたもいい事するじゃない! たしかに目は大事だわ……」

「そうだろう。そこまで深い傷ではなかったのだが、ソフィスウルフに襲われていたという事なら軽く爪でも当たったのかもな」

 え? え??? なんだこれ。なんだこの人たち……?
 本当にこの世界でのエリルを除いてファーストコンタクトなのに、完全にこの人たちのペースで事が運んでる気がする。

「そうと分かれば、こいつ、どうする?」

「私は連れて行くべきだと思う、ここであったのも何かの縁だろう」

「私も連れていくべきだと思う! だって後はクエスト終わりで帰るだけなんだし、その間のんびり過ごすというのもありだとおもうわ」

「とりあえずはそうだな。まぁ詰めた話は向こうでしたらいいか」

「あのぉ………」

「「「ほら、いくぞ(いくよ)」」」

 エルシアさんに抱き上げられてた僕を降ろし、手を握りムロさんは歩き出した。
 僕の気持ちは無関係なのね……?
 こうして僕はまだ少し不安が残ったまま、ムロさんの大きな歩幅になんとかついていき、3人が移動手段と使ってる車のような場所まで歩いていった。
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