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第二章〜ご主人様をワタワタさせます〜

14. ご主人様は気づいたのだ!

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 ※ブルクハルト視点

 拝啓、伯爵様。おやつを完食されたと伺いました。嬉しいです。今日はシンプルなバニラ味にしてみました。お口に合えば良いのですが。敬具。

「今日はバニラか」

 暮夜。僕はこの時間が一番の楽しみになっていた。本邸の執務室でドミニクから受け取る美しい箱。そう、ディアナの贈り物だ。

 ポリッ。ポリッ。

「うん。美味いな」

 彼女はお菓子作りも上手だった。だが気になる。このクッキーも生き物の形をしてるのだ。

「なぁ、これ何だろう」
「はて? 分かりかねますが」

 丸い型に小さな丸が上左右に二つ。作りづらいだろうに態々型取ってる。動物の耳の様な目の様な。うーむ……似てる。よもや。いや違うか。

 頭の中がある生き物を想像してしまう。

 カエルかな。

 まぁ深く考えるのはよそう。それよりディアナのことが知りたい。

「で、別邸の様子はどうだった?」
「いえ。特段変わったことは。いつも楽しそうに過ごされているかと」
「そう。……か」

 あまり情報は更新されないな。だが楽しそうなら少しは安心する。

「あ、そうだ。昨日の箱を返しといてくれ。毎日新しい箱を用意するのも大変だろう」
「かしこまりました。では」

 うん、明日が待ち遠しいな。

 ベッドルームへアロマに包まれた箱を飾り、僕は深く眠りについた。

 そして翌日の暮夜。

「今日は生薬とプレゼントを預かっております」

 ドミニクが二つの箱を差し出した。一つは生薬とおやつの箱。もう一つは大きめの箱だった。僕はワクワク感を抑えるのに必死だ。

「プレゼント? ふん。何だろう」

 綺麗にラッピングされた箱を慎重に開けると、何と手作りのぬいぐるみが現れたのだ。それはアロマの香りが漂っていた。

 アロマオイルを染み込ませてるのか。これを部屋へ飾れと言うんだな。なかなか気が利くな。

 だが。

 だが、このぬいぐるみ。何の動物だ? 手や尻尾が長くほっぺが赤い……よもや? ドミニクに聞こうか、いや聞くのが怖い。彼女が丁寧に作った物だ。これが何であれ有り難く受け取ろう。

 さらに翌日の暮夜。

 言葉が出なかった。今日のぬいぐるみはカエルの様相を呈している。まさかと思うが「態と?」と勘繰ってしまう。ドミニクに聞こうか、いや聞くのが怖い。僕は彼女からのメッセージカードに記されてる通り、城の執務室へ飾った。

 さらに翌日の暮夜。

「ひぃっ」

 今日のぬいぐるみを見て愕然とした。どっからどう見てもリアルな猿なのだ。その胸元には「ジョニー」と名札まで付いている。

 どう言うことだ……

「御坊ちゃま。これは見事なぬいぐるみですね。ディアナ様は手芸の才能もおありでは」
「ドミニク。僕は猿とカエルが苦手だ。君も知ってるだろう。彼女は……知らないのか?」 
「いえ。侍女から伝わってるかと」
「む、知っててこれを?」
「はい。侍女は止めたらしいのですが」

 つまり、態々わざわざ僕の苦手な生き物をご丁寧に作り贈っていたのか。これは、これは悪意を感じるぞ。彼女は嘲笑っていたんだ。きっとそうだ。ふん馬鹿馬鹿しい。ちょっとでも淡い恋心を抱いた自分が情けないわ!

 ディアナ。許さないっ。

「ドミニク、別邸へ行くぞ。ついて参れ!」
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