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第二章〜ご主人様をワタワタさせます〜
15. ご主人様は激オコなのです
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※ブルクハルト視点
裏切られた気分だ。文句の一つでも言わなきゃ気が済まない。確かに僕は彼女に引け目を感じていたのは事実。形だけの婚姻だ。別邸へ追いやった彼女は伯爵夫人でも何者でもない。ただの『薬剤師』扱いだ。恨まれて当然だろう。
だが。
だが僕だって子爵家を救ってやった。支援しなければ今頃路頭に迷っていたはず。ここはお互い様だと思って欲しい。なのに嘲笑うとは。
直接会ってぬいぐるみの件、問い正してやる。場合によっては……
「御坊ちゃま。如何なさるおつもりで?」
「分からない。が、こんなに腹が立ったのは久しぶりだ。とにかく嫌がらせをやめさせなければ」
「お、御坊ちゃまがこんなにお怒りとは……」
ドミニクの前で感情を露わにするのは母親が亡くなって以来かもな。いつも冷静沈黙を心掛けていたから。だが今は自分でも分からないほど制御不能なのだ。
僕は勢いよく本邸の裏口扉を開け、子供の時以来足を踏み入れなかった別邸の敷地へ入った。
懐かしい。母親とよくここで遊んでいた。別邸でも寝泊まりしたっけ。今はその屋敷にあの女がいるが。
ふん、暮夜だが構わないぞ。
「おい、ディアナ!」
ズカズカと思い出の別邸に踏み込む。エントランスからサロンを抜けリビングへ。
ーーと。彼女がそこにいた。侍女もいる。が、凄い光景を見てしまった。何とディアナが子猿を抱いているのだ。
「な、何で猿がっ! ひぃっ!」
突然現れた僕に皆は目を丸くして驚いている。いや僕も猿に驚いてる。そして幼い侍女はディアナの後ろへ隠れてしまった。
「ご、ご主人様?」
カトリーヌが上ずった声を出す。ここに来るはずのない僕が登場すること自体、信じられないのだろう。だがディアナは冷静且つ堂々としていた。
「あら、お初に御目にかかります。ディアナでございます。ようこそ。ご主人様」
「何がようこそだ! 僕が猿やカエルが苦手なの知っておいてどういうつもりなんだ!」
「まぁ可愛いお猿さんですよ。ジョニーって名付けてますの。うふふ」
あのぬいぐるみだな。許さん。
「とにかく、悪意に満ちたプレゼントはいらん。君は生薬だけ作ってくれればいいのだ!」
「ご主人様。そんなに嫌ってはお猿さんやカエルくんが可哀想でございます」
何がカエルくんだ。
「どう可哀想だと言うのだ?」
「ご存知ないのですか? ご主人様に気を遣って森林のお猿さんや湖畔のカエルくんは処分されてきたのですよ」
「なに、処分だと?」
「ええ。ジョニーの母親も殺処分されました。カエルくんも本邸へ紛れ込むと『串刺しの刑』に遭います。だからわたくしが保護してるのです」
「い、いやそんな事実は。本当か、ドミニク?」
「それは存じませんでした。セリアが指示してるのかもしれません」
ゲコッ。
ひぃ。今度は何だ? 不気味な鳴き声が。
興奮して気付かなかったがリビングにある水槽の中にカエルの大群がいるではないか。
「き、君はカエルまで飼ってるのか、正気か」
「はい。捕まえて時々湖畔へ逃しております」
気持ち悪くないのか? こんな生き物飼って。僕の思い出の別邸を何だと思ってるんだ。
「不愉快だ! いいか、余計なことはするな!」
思っきり怒鳴ってやった。こんなに怒鳴ったのは初めてだ。心拍数が上がって興奮がおさまらない。このままでは暴れてしまう。
「帰るぞ、ドミニク!」
僕はクルッと反転し別邸を出て行こうとした。だがドミニクはついて来ない。
「ありがとうございました。また明日お伺い致します。ディアナ様。いえ、奥様……」
裏切られた気分だ。文句の一つでも言わなきゃ気が済まない。確かに僕は彼女に引け目を感じていたのは事実。形だけの婚姻だ。別邸へ追いやった彼女は伯爵夫人でも何者でもない。ただの『薬剤師』扱いだ。恨まれて当然だろう。
だが。
だが僕だって子爵家を救ってやった。支援しなければ今頃路頭に迷っていたはず。ここはお互い様だと思って欲しい。なのに嘲笑うとは。
直接会ってぬいぐるみの件、問い正してやる。場合によっては……
「御坊ちゃま。如何なさるおつもりで?」
「分からない。が、こんなに腹が立ったのは久しぶりだ。とにかく嫌がらせをやめさせなければ」
「お、御坊ちゃまがこんなにお怒りとは……」
ドミニクの前で感情を露わにするのは母親が亡くなって以来かもな。いつも冷静沈黙を心掛けていたから。だが今は自分でも分からないほど制御不能なのだ。
僕は勢いよく本邸の裏口扉を開け、子供の時以来足を踏み入れなかった別邸の敷地へ入った。
懐かしい。母親とよくここで遊んでいた。別邸でも寝泊まりしたっけ。今はその屋敷にあの女がいるが。
ふん、暮夜だが構わないぞ。
「おい、ディアナ!」
ズカズカと思い出の別邸に踏み込む。エントランスからサロンを抜けリビングへ。
ーーと。彼女がそこにいた。侍女もいる。が、凄い光景を見てしまった。何とディアナが子猿を抱いているのだ。
「な、何で猿がっ! ひぃっ!」
突然現れた僕に皆は目を丸くして驚いている。いや僕も猿に驚いてる。そして幼い侍女はディアナの後ろへ隠れてしまった。
「ご、ご主人様?」
カトリーヌが上ずった声を出す。ここに来るはずのない僕が登場すること自体、信じられないのだろう。だがディアナは冷静且つ堂々としていた。
「あら、お初に御目にかかります。ディアナでございます。ようこそ。ご主人様」
「何がようこそだ! 僕が猿やカエルが苦手なの知っておいてどういうつもりなんだ!」
「まぁ可愛いお猿さんですよ。ジョニーって名付けてますの。うふふ」
あのぬいぐるみだな。許さん。
「とにかく、悪意に満ちたプレゼントはいらん。君は生薬だけ作ってくれればいいのだ!」
「ご主人様。そんなに嫌ってはお猿さんやカエルくんが可哀想でございます」
何がカエルくんだ。
「どう可哀想だと言うのだ?」
「ご存知ないのですか? ご主人様に気を遣って森林のお猿さんや湖畔のカエルくんは処分されてきたのですよ」
「なに、処分だと?」
「ええ。ジョニーの母親も殺処分されました。カエルくんも本邸へ紛れ込むと『串刺しの刑』に遭います。だからわたくしが保護してるのです」
「い、いやそんな事実は。本当か、ドミニク?」
「それは存じませんでした。セリアが指示してるのかもしれません」
ゲコッ。
ひぃ。今度は何だ? 不気味な鳴き声が。
興奮して気付かなかったがリビングにある水槽の中にカエルの大群がいるではないか。
「き、君はカエルまで飼ってるのか、正気か」
「はい。捕まえて時々湖畔へ逃しております」
気持ち悪くないのか? こんな生き物飼って。僕の思い出の別邸を何だと思ってるんだ。
「不愉快だ! いいか、余計なことはするな!」
思っきり怒鳴ってやった。こんなに怒鳴ったのは初めてだ。心拍数が上がって興奮がおさまらない。このままでは暴れてしまう。
「帰るぞ、ドミニク!」
僕はクルッと反転し別邸を出て行こうとした。だがドミニクはついて来ない。
「ありがとうございました。また明日お伺い致します。ディアナ様。いえ、奥様……」
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