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助左よ、村は守れるんかいな⁈
しおりを挟む松葉城 (愛知県海部郡大治町)
村人の城上がり(避難)が完了した。ただ、城と言っても小山にある平屋の古い館であり、避難と言っても林の中に隠れている程度である。城の敷地内には入っていない。
そこで、築阿弥を中心とする村人たちが不安そうに過ごしていた。
「父ちゃんよォ……小一郎は大丈夫かのぅ? あの子は藤吉郎と違ごうて、優しい子じゃからのぅ」
藤吉郎の名を聞いて、嫌な顔をする築阿弥。
「大丈夫やろ……清七がついておる」
──さて、明日には上総介(信長)様が兵を挙げるであろうな。城上がりした以上、我らは伊賀守様に就いたと見られる。……じゃが村は荒らされとうない。中村が戦場となる前に村の安堵を買っておかねばならん。
築阿弥は身支度を整える。
「ナカ……忘れ物をした。村に行ってくるぞ」
「父ちゃん? 危ないよぅ……?」
築阿弥は山を降りた。それを林の陰から監視していた武装兵が3人、彼の後を追う。
***
尾張国中村(愛知県名古屋市)
築阿弥は屋敷の庭で、額に汗を垂らしながら穴を掘っている。やがて穴の中から小さな箱を取り出し、中身を手に取った。黒々とした茶器である。
「おおぅ! あったあった。……亡き信秀様より頂いた儂の宝物じゃあ! これを上総介様に御献上いたし、村の中立を願い出ようか」
じーっと茶器を見つめる築阿弥。
「はて……上総介様はこの茶器の価値がわかる御方かのー⁈ 」
背後で笑い声が聞こえる。築阿弥が驚き後ろを振り返った。そこへ武装兵が姿を現す。猪熊たちであった。
──し、しまったっ!!
「築阿弥……伊賀守様を裏切るつもりか?」
「い、いや決してそのようなことは」
「とぼけるな、聞いたぞ! それをうつけに献上するとな!」
「猪熊様っ、儂はただ、中村を荒らされとうないだけです!」
「ふん! うつけは気性が荒いと聞く。伊賀守様に就き、深田乱入に加担した中村を茶器一つで許すとは思えぬぞ? んん⁈ 」
猪熊らは不気味な笑みとともに刀を抜いた。
「……我らは伊賀守様の命で、お主を見張っておったのだ。築阿弥なる男、裏切るやもしれんと御心配なされてのぅー、フフフ……」
「む、村を守って何が悪い! あの時、伊賀守様に就かねば儂らを捕らえるつもりであったろう⁈ 」
「中村は伊賀守様の御領地じゃ。うつけの好きなようにはさせんわ! それとも我らが信用できんと申すか?」
猪熊が築阿弥の喉元に刃を向ける。
築阿弥は絶叫した。
「どっちが勝っても、村は生き残らねばならんのじゃあーっ!!」
横から武装兵が築阿弥を斬りつける。
「ぐわっ!!」
血が噴き出した築阿弥は片膝をつく。
その時である!
ビュンッと矢が飛んで来て武装兵の額を貫いた。
驚く猪熊は辺りを見回す。
「だ、誰じゃーっ⁈ 」
屋根の上から男が弓を引いていた。風が吹いて頭に巻いてある長い布がなびく。築阿弥はそれが誰だか直ぐにわかった。
「と、藤吉郎ーっ!!」
藤吉郎は無表情で猪熊に矢を放つ。矢は額に突き刺さり猪熊は倒れた。
配下が、すかさず残りの武装兵の首を刎ね、あっという間に全滅させた。
藤吉郎は屋根から飛び降り築阿弥に近づく。
築阿弥は流血が酷く苦しそうである。
「はぁ……はぁ……お、お前、今頃何しに帰って来た……家を飛び出し、村々の悪童集めて何をたくらんでおる⁈ 」
藤吉郎は築阿弥を見ていない。
「まさか……はぁはぁ……この村を襲うつもか⁈」
藤吉郎は一瞬のうちに築阿弥の喉元を突く。
築阿弥は絶命した。その光景を見た配下に冷や汗が落ちる。
「こ、このお方は……」
「こやつはもう助からん」
と、藤吉郎は空を見上げた。
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