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助左よ、逃げるんや、逃げるんやで⁈
しおりを挟む「深田城攻め」とは清洲城主、織田信友の重臣である坂井大膳が松葉城主、織田伊賀守(信長の従兄弟)と通じ、勢力拡大を狙って深田城を襲撃した戦闘である。
だが実際のところ、若い伊賀守は家臣の策略により清洲に人質を取られた為、やも得ず協力したと言うのが真相らしい。(諸説あり)
坂井大膳は深田城を襲撃すると城主、織田信次ら(信秀の弟で信長の叔父)を人質に取り、立て篭もった。
8月16日早朝
深田乱入の報を受けた信長は素早く行動した。
那古野城を出陣すると、庄内川畔で守山城から駆けつけて来た織田信光(信長の叔父で信次の兄)と合流し、進軍してきた清洲勢と萱津(愛知県あま市上萱津付近)にて激しく戦闘を交わした。
──いわゆる「萱津の合戦」である。
この時、上総介(信長)勢は別働隊を松葉城、深田城へと向かわせている。
川原付近で天海一行が戦見物をしていた。今にも矢が飛んで来そうな距離である。
やがて天海が信長を見つけ興奮する。
「おおぅ……あそこにおるのが、うつけか⁈ 」
「構え、放てぇー!!」
バーン、バーンと少数の鉄砲隊を指揮する馬上の信長がいた。うつけではなく美しい甲冑を身にまとい凛々しくも威厳を感じさせる若い武将であった。
蜂須賀小六ら生駒勢も加わり、また前田利家もこの時、初陣を飾っている。
そして上総介勢が圧倒的な強さで押していた。
天海が嬉しそうにニヤっとする。
「ほ~~う……やりおるわ」
そこへ源六らが、深田から捕虜を連れて戻って来た。怪我をした数名の女、子供が絶望的な表情で歩いている。その捕虜の縄を助左衛門が渋々引っ張っていた。
「天海様、深田の捕虜でございます!」
「うむ、ご苦労である。……で、そっちはどうなっておる?」
「はっ、既に上総介勢との戦闘が始まっておりまする」
「ふん、それで?」
「深田城は既に清州勢を追い払い、松葉城も時間の問題かと」
「ほう、強いな。では村の乱捕りはいかがじゃ?」
「上総介勢の別働隊は、各村々を進軍したに過ぎず雑兵の掠奪はしていない様子。また領民は城上がりのようで……まぁこれは、いずれ捕まるかと。よって、配下を松葉城へ向かわせてます」
「なるほどの」
天海が助左衛門に気づく。
「ボ~ク……どうだ? 楽しかったか⁈ 」
助左衛門はブスっとしている。
「おや?」
天海はやつれた捕虜のアゴを、ひとりひとり乱暴に掴む。
「放っておけば、こいつらは死んでたかもしれぬ。マロはそれを助けた……わかるな⁈ 」
助左衛門は下を向いている。
「ボクよ、奴隷を木に繋げとけ!!」
「……!!」
──な、なんやねん、こいつら……女、子供に何の罪があるっちゆーねん!!
捕虜を引き連れ大木までトボトボと歩く助左衛門は、川原に短刀が落ちているのを見つけ、さりげなく拾った。
──も~う、我慢できへん!!
大木にかける気のない縄を持つ手が、心の葛藤で震えていた。見兼ねた娘が手助けしようと縄を掴んで大木へかけようとする。
その手を助左衛門が止めた。
「そんな事したらあかん!!」
娘が驚いた。
「ワ、ワイと一緒に逃げるんや!! みんなも、みんなも逃げるんやァーー!!」
助左衛門は捕虜の縄を次々と短刀で引きちぎった。そして走り出す。捕虜も奇声を上げて一斉に走り出した。
「ワーーーーッ!!」
──さらばやァ! ワイは自由やァーー!!
「ああっ、天海様っ、捕虜が逃げ出しましたァ!」
「なに~~~~ィ!!」
丘を必死に駆け抜ける助左衛門と娘、そして捕虜たち。しかし助左衛門は石につまづきスッテンコロリンとコケた。近くにいた雑兵がそれに気がつき、捕えようとする。
その時である。娘が雑兵の刀を奪い、その雑兵へ斬りつけた。
「!!」
娘が振り返る。
「お前は逃げぬほうがよい!!」
助左衛門は立ち尽くし唖然とする。
雑兵たちが娘に襲いかかった。
「このアマーっ!」
娘は高く飛び、攻撃をかわし一回転する。そして雑兵を斬り倒す。
「天海のそばにおれ! それがお前にとって一番の幸せなのじゃ!!」
「なっ!」
娘が逃げて行く。天海がそれを見ていた。
「やはり……な」
「な、何者や、あの娘……じ、冗談やないでぇ!! 誰があんな奴の!」
合戦の最中である。兵士と兵士が殺し合いをしている。その横で雑兵が倒れた兵士の武具を剥がし、逃げる村人を捕らえる。それを売り物にしようと奴隷商人が暗躍する。
助左衛門は戦場の恐怖と残酷さが、イヤでイヤでたまらなかった。
「ワイは逃げる!!」
助左衛門はふたたび走り出した──。
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