奴隷少年♡助左衛門

鼻血の親分

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助左よ、村はたいへんやでぇ⁈

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 尾張国中村(愛知県名古屋市)

 村人たちが慌てている。家財の入った荷車を運ぶ者、作物を運ぶ者など村は混乱していた。それを小高い丘へ陣取った源六たちが、薄笑いを浮かべながら村の様子を伺っている。助左衛門もオドオドしながら見守っていた。

 中村はもともと伊勢神宮の所領であったが、戦国時代には信秀の勢力圏へ吸収され、松葉城主、織田伊賀守信氏(信長の従兄弟)の支配を受けていた。
 信秀亡き後、清洲と通じた伊賀守は信長と敵対する事となり、中村はその最前線に近いため異様な雰囲気に包まれていた。

 村の有力者、築阿弥の屋敷は240坪。その庭で道服を着た茶人らしい格好をした筑阿弥が、下人に家財を埋めるよう指示していた。
「隠せる財産は、みな土の中に埋めるのじゃ。清洲勢はもうそこまで来ておる。明日には戦が始まるやもしれんぞ!」

 築阿弥の周りに村人たちが集まってくる。
「築阿弥殿。女、子供らは、いかが致す⁈ 」
「今、村を逃げ出せば清洲勢に捕らえられるやもしれん。やはり城上がり(領主の城に避難する事)するほうが良い」
「で、では上総介かずさのすけ(信長)様に敵対するんじゃな⁈」
「清洲勢が勝つんじゃな⁈」
「そんな事はしらん!! 誰が領主でも構わぬっ、大事なのは村を守ることじゃ!!」

 築阿弥は神妙な表情をする。
「ヘタに動かぬ方が良い。……わしに考えがある」
「築阿弥殿、猪熊様が参られました」
「なに、猪熊様が?」
 武装した侍が3人入ってくる。髭の濃い猪熊が築阿弥にケリを入れた。
「遅せぇぞ、築阿弥! 清七(加藤)は、もう村人集めて城へ駆けつけておるというのに!」
「これは、あいすいませぬ……築阿弥は茶坊主ゆえ、戦支度がヘタでございまして……」
 築阿弥は愛想良く振る舞う。
「ふん! ところで今夜、深田村へ乱入することと相成った。上中村(木下村)からも人数出してもらうぞ! よいな⁈ 」
「ははっ! 私の倅、小一郎を存分に使って下さいませ!! なっ! 小一郎! なっ!!」

 13歳の小一郎は俵を担いでいた。腑に落ちない顔をして猪熊に会釈する。
「……まだ子供の様じゃが……まぁ、お主よりは役に立ちそうじゃな」
 築阿弥は愛想笑いをする。猪熊は不満そうに、また何かを疑ってるような表情を築阿弥へ向けた。

 やがて村人達が城上がりを始める。それを丘の上から見ている天海の手下、源六がつぶやいた。
「……今のところ、松葉城下の村々は半手となる動きがねぇな」
「半手って、なんスか?」
 首に縄がくくられている助左衛門が、恐る恐る聞いた。
「半手ってのはよ……つまり敵対する双方の軍に年貢を半分づつ払って、軍による略奪を逃れて中立の立場をとる。まぁ決まり事だな」
「ここで言うと、清洲勢と上総介勢……⁈」
「へへへ……村人もバカじゃねぇ。今動けば清洲勢に襲われることを知ってやがる。ボクよ、半手になるには間合いがいるのよ。頃合いを見計らって、動かねぇとな」
「ころあいって?  めちゃむずいんじゃ……⁈ 」
「若頭よ、半手の仲介は後回しだ!」
「おう! まずは深田だな! ボクよ、走るぞ!」

 手下たちが走り出す。助左衛門は源六に縄で引っ張られながら走った。

──な、なんやねん⁈  何が始まんねや⁈
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