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助左よ、売られるんか⁈
しおりを挟む人々で賑わい活気に溢れる城下町の市場で、路上にムシロを広げ、食料や日用品などが売られている。そのど真ん中で捕虜たちが、冷や汗かきながら座っていた。助左衛門も自分が商品であることを自覚しているのか、ちょこんと可愛らしく座っている。通りすがりの民衆は彼らをまるで物のように品定めし、平然と売買されていた。
「いらっしゃい! いらっしゃい! この娘どうだい⁈ たったの1貫だよ~!」
「よし買ったー!」
「まいどありー!」
地主らしき風格のある男が小娘を連れて行く。
別の男が作次郎を指差した。
ドキッとする作次郎。
「おう このガキいくらだ?」
「へい! 100文でございます」
「ワテは、たったの100文か~い!!」
「高けぇなー いらんわ」
な、なんやねんコイツ、はらたつわー!!
怒りに震える作次郎。
今度は侍風の荒々しい男が娘の腕を掴む。いやらしい目を向け、ニタニタとしている。娘は16歳で器量が良く帷子姿で品がある。助左衛門はさっきから気になって思わず見惚れていた。
──ハッ! あ、あんな可愛い娘までが売られていくんか? しかもあんな変態オヤジに!!
「へへへ……おい この娘、いくらだぁ~⁈」
「お客さん、目が高いっス! その娘は地侍の娘にて、本日の目玉でございます。ずばり、3貫!!」
「さ、さ、3貫だと~⁈」
市場全体がざわつく。と、その時、
「買ったァー!!」
助左衛門が立ち上がる。顔が赤い。
「アホか!!」作次郎がごつんっと殴る。
「おのれも 売られる立場やろうがっ!」
「……せやかて、可愛いやんか」
助左衛門はいじけて座る。
侍が気を取り直し、売り子に詰め寄った。
「なんじゃいコラ~! もっとまけんかい!!」
「お、お客さん、興奮しないでくださいよっ」
後方より馬上の坊主が酒を飲みつつ進んでくる。坊主は黒装束で手下らしき者を引き連れていた。
「てめぇ この俺様を誰だと思ってんだァ!!」
侍が売り子の胸元をつかむ。その時、後ろから酒樽が飛んできて侍の後頭部にぶち当たった。
コンッ!
「い、いってェ~」
馬上の坊主は白髭をたくわえ50歳を過ぎているように見える。そして陽気であった。
「そこのヘタレ侍……さっさと消えよ」
「こ、こ、この無礼者がぁーっ!」
侍がボロボロの刀を抜き、威圧する。
坊主は馬から飛び降り間髪入れず侍の首を蹴る。
ゴキイッ!!
にぶい音がした。
侍はアワを吹いて助左衛門の前に倒れた。
──ヒッ! ……し、死んでるやん!!
坊主は何事もなかったかの様に怯える娘のあごを掴んで顔を見る。
「ふ~んんんん! こりゃ上玉! よし、今日からマロの共をするがよいぞ。……かっはっはっ!」
助左衛門は動揺しながらも目の前にいる死んだ侍に十字を切りお祈りをした。
「ん……ボ~ク? そこのボ~ク? ひょっとして、キリシタン⁈ 」
助左衛門はビビって目を合わせず無言である。
坊主が助左衛門のムシロを破く。
ビリィ!
「あ、いやん」
その胸にはロザリオが輝いていた。
「は~ん……良いロザリオじゃな」
坊主がロザリオを取り上げる。
「あっ! な、な何してはるんスか⁈ 」
「ボクにはもったいないョ」
「い……いや、せやけどそれはトルレス様からですね……あの……頂いた大切なモノですねん」
◎ トルレス
フランシスコ・ザビエルと共に布教活動を行い、イエズス会日本布教長となる人物である。
坊主は胸にロザリオを掛け、大げさに十字を切ってみせた。
「にあうか?」
「お、お坊さまには 似合いまへん!!」
「かっはっはっ! マロは坊主じゃない」
──どっからどう見てもクソ坊主やないかい!
坊主が娘を連れ出して一緒に馬へ乗る。そして振り返った。
「マロは奴隷商人、天海じゃ。覚えておけ!」
「ど、奴隷商人ー⁈ 」
馬がゆっくりと進んでいく。手下もそれに続いて歩き出す。売り子らはお見送りをした。
「いってらっしゃいませ! 天海さま!!」
捕虜たちが、怒りや悲しみの目で連れ去れていく娘の後ろ姿を見つめていた。
「お、おい、どうやらアイツが奴隷市場の親玉みたいやな……」
「かわいそうやな……あの娘」
助左衛門と作次郎は眉間にシワを寄せている。
「何がマロや! アホか!!」
馬上の娘がチラッと振り返る。助左衛門と目と目が合った。助左衛門は息を大きく吸い拳を挙げる。
「またんか~い! ワイのロザリオと、その娘を置いていかんかい~!!」
「ええぞー助左ァ! もっと言ったらんかいっ」
「じじィ~~~っ! 返せ~~~!!」
助左衛門は何度も叫ぶと天海は馬を止めた。
「……やかましいボクを連れてまいれ」
「手打ち……にいたしましょうか?」
「キリシタンの子供か。……マロの奴隷にしよう」
「……しかし」
「なあに構わぬ、旅の途中で食うもん困ったらボクを売るか、食べるまでのこと。かっはっはっ!」
手下たちが顔を見合わせ、苦虫を潰したような表情を見せる。
「……まずそうだな」
「う、売りましょう」
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