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助左よ、そない希望を持ってもなァ⁈
しおりを挟む1552年(天文21年)初夏
捕虜たちが戦乱の終わった村を歩いていた。快晴の空に奉公人の不安な声が聞こえてくる。
「作次郎はぁん、ワ、ワテら、どないなりますんやろ……」
「せやっ、戦に巻き込まれただけやんか!」
「うろたえるな、ワテも商人の端くれや。ちゃーんと交渉したるさかい……」
小袖に半袴、脚半と小綺麗な格好をしている作次郎(18歳)は奉公人を取りまとめる手代である。
一方、捕虜を監視している雑兵は歩きながら笑顔で大根を食っている、たくましい体つきの百姓であった。作次郎はその雑兵に揉み手をしながら近寄るが、首に縄がくくられ繋がっている奉公人らは、縄に引っ張られて全員コケそうになった。
「押すな、押すな。離れや」
「せやかて繋がってるやん」
「おい、静かにせえやー!」
作次郎は小袖の襟を直しながら作り笑いを浮かべ雑兵に交渉を試みた。
「ねぇねぇダンナァ、ワテら堺の子供たちやァ。今日たまたまな、この辺通りかかっただけで、この村とはなーんも関係あらしません。ねぇ助けたってぇなァー」
雑兵は笑顔のまま無視する。
「せや! 堺に使いを出してくれ、身代金出そうやないか! なァ1人、10文でどうや⁈」
「ゲップゥ ~」
雑兵は馬鹿にしている。
「作次郎ー、身代金の相場は2貫や……牛馬より安い値で言うたらあかん……」
奉公人の最後を歩く助左衛門がつぶやく。
当時の物価水準は1貫目で米3俵(180Kg)ほど買えたと言う。身代金の2貫目は現在の額にして約15万円と言ったところか。
「アホゥ!!」
作次郎がケリを入れる。助左衛門は顔からベチャっと音を立てて倒れた。
「旦那はんがワテらみたいな奉公人に、そないな大金払うわけないやろ!!」
大根を食べ終えた雑兵が真顔になる。
「ふんっ、捕虜はすでに商人に売り渡しておるワイ、あきらめろ!」
「なっ……!」
捕虜たち一同に絶望感が漂う。
そんな中、助左衛門がゆっくりと立ち上がった。
「我々は戦死してもおかしくなかってん。雑兵に捕らえられたことは、逆に考えれば生命を救ってもらったことにもなる……」
全員が助左衛門に注目した。
助左衛門は顔を赤らめながら空を指さす。
「バテレンさまが言ってはった。生きてる限り希望は、あるっ!!」
「このボケェ~! なに格好つけてんねん~!」
作次郎が再びケリを入れる。
「あううっ」と呻き声をあげて倒れる助左衛門。縄が繋がっている奉公人も引っ張られて共倒れした。
「はーっはははっ! 格好わり~のう、オマエら」
雑兵たちが一斉に笑った。
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