奴隷少年♡助左衛門

鼻血の親分

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助左よ、死んだらあかんでぇぇぇー⁈

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──42年の歳月が流れた。

 54歳を過ぎた助左衛門は、ロザリオを胸に下げ煌びやかな南蛮衣装をまとい、屋形船で淀川を下っていた。大阪城を背景に河岸は桜が咲き乱れ、春満開といった雰囲気に包まれている。
 京芸者を囲んで桜酒に酔った助左衛門は、普段は気が小さいが今日ばかりは興奮していた。

「あの太閤めに『ルソン壺』をくれてやったでーっ! ひゃーはっはっはっ!」

 助左衛門の片腕である作次郎(60歳)は冷ややかな目で主人を見ている。
 ふん! 献上させられたんやろ!

 京芸者が酒を注ぐ。
「助左衛門さまあ、太閤殿下ってどんなお方やのん?」
「あいつぅ⁈」
 なにが、あいつぅや!
「ええ奴やで♡ あいつ!」
 おのれのツレかっちゅーねん!!

「茶室でな、ごっつう美味いお菓子、食わせてもろてん。そんでな、あいつワイのことルソン助左衛門って呼ぶねんでえ! ひゃーはっはっははっ!」
「ルソ~ン! なんかかっこええやーん!」
「そうか? そやろ! 実は改名したろか思てんねん」

 ◎ 納屋助左衛門なやすけざえもん呂宋ルソン助左衛門)
 1594年(文禄3年)呂宋(フィリピン)との貿易により巨万の富を得た人物であるが、その生涯は謎に包まれている。
 この頃、かなりの日本人が人身売買により東南アジアへ流出しており、助左衛門は彼ら(奴隷、傭兵)と共に活発な海外交易を繰り広げていったのである。

「作次郎ーっ、ワイのニャンコちゃんは何処におんねんーっ⁈」
「ははっ、私めがお守りしておます」
 作次郎は黒猫を抱いている。
 助左衛門がふらふらしながら近づき、黒猫の額を撫でた。自慢のペットである。
「おーよちよち! ええ子してたんか、んん?」
「旦那はん。……朱印船貿易の件、太閤殿下から何かお話がありましたか?」
「ふん!! あの野郎、カンボジア、シャム(タイ)、高山国(台湾)、ルソン、マカオなど、全て自分の手中に治めたいらしいわ!!」
「それで、旦那はんには?」
「海賊にふさわしき仕事があると、ほざきおっての……ルソンにおる日本人奴隷を煽動してマニラ総督に圧力をかけろと、ぬかしやがんねん!!」
「東アジア征服計画でんな。……せやけど、そりゃ甘いでんな」
「せやろ! ルソンの民衆は皆キリシタンや。バテレン追放したあの男には、決して服せへんで!!」

 助左衛門は黒猫を見つめながらつぶやいた。
「せやからな、ことわってん」
 作次郎の顔色が変わった。

「ニャーァ!!」

 黒猫が急に泣く。とその時、
「ううっ!」
 助左衛門は気分が悪くなったのか、口に手をあてその場でうつ伏せに倒れた。
「旦那はん?」 
 ちっ、飲み過ぎかいな!
 助左衛門はピクリとも動かず、白目をむき口から泡を吹いている。
 お、おいおい……まじっすか⁈
「キャーッ!! 助左衛門さまァー!!」
 奉公人や芸者たちが心配そうに周りを取り囲む。
 こ、こりゃ、城で毒盛られたんとちゃうか⁈ 
「誰か、水をぎょうさん持ってこい! それから岸へ付けて薬師を呼ぶんや!」
 作次郎は助左衛門を起こし、強引に水を飲ませ背中を摩る。
「だ、旦那はん! 吐きなされ!」

 意識の薄れた助左衛門は暗闇の中で倒れている。周りには何も無い。しかし何処からともなく声が聞こえてくる。

──ボ~ク……。
 助左衛門が目を覚ます。
──ボ~ク……ボ~ク。
 助左衛門は顔を歪める。
──お前は一生奴隷じゃ……。一生奴隷じゃ……。
──や、やめてー!!

 黒装束の坊主の手が、助左衛門に襲いかかろうとする。坊主は笑っていた。

──うわぁぁぁぁぁー!!









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