山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

文字の大きさ
201 / 247
ジュニエスの戦い

74 ヒュードラ 3

しおりを挟む
「ノア王子、できれば私の部隊に、ご助力いただけないでしょうか」
 その言葉の真に意味するところ――ラインフェルトが誰の力を必要としているのかを、ノアはすぐに察した。
 ラインフェルトに対してだけは、傭兵アネモネの正体――リースベットの存在を知らせていたのだ。そしてその申し出は、ノアにとっても得難えがたいものだった。
 マイエルの部隊は、指揮系統を統一するため生え抜は ぬきの者たちだけで行動することになっていたし、近衛兵とリースベットを同行させては彼女の正体を知られる危険がある。フリークルンド隊には、過去の戦いでリースベットの顔を見ているアムレアン隊の生き残りが編入されているのだ。
 かと言って、この状況下でリースベットほどの実力者を手持ち無沙汰ぶさたにしておく手はない。ラインフェルトの部隊に同行するというのが、最良にして唯一の選択肢なのだ。
「わかった」
「……ありがたき幸せ。私の持てる力を尽くして戦います」
「むろん私も、ラインフェルト将軍の部隊とともに行動する。彼女を一人にはしておけないからな」
「……心強い申し出ですが、くれぐれも御身おんみにはお気をつけください」
「心配するな。私はここで死ぬつもりはない」

「この期に及んで、ラインフェルトが前に出てきましたわね」
 ランガス湖北側に展開するノルドグレーン軍グスタフソン連隊が、ラインフェルトの第三攻撃部隊に圧倒されている。
 これまで互角に近い戦いを続けていたグスタフソンの苦戦は、それ自体がベアトリスにとって貴重な情報でもあった。リードホルム軍という毒を秘めた体から伸びる三つの蛇の頭のうち、ウルフ・ラインフェルトという名の頭が最も強い毒牙を持っている――ベアトリスにそう判断させるだけの勢いが、名将の陣頭指揮とリースベットをようするラインフェルトの部隊にはあった。
「近衛兵はラインフェルトの部隊に紛れ込んでいるようね」
「分散しているのでしょうか……湖南岸の騎兵部隊に近衛兵がいるような節はありますが、勢いは明らかに弱いのです」
「そちらには主力を割いていないか、あるいは隊服だけ似せた欺瞞ぎまんか……そんなところね。そしてマイエルは相変わらずの無軌道な暴れよう……どうやらリードホルム軍の最後の切り札ヴィルダコールが知れたわ。おそらくこのために、ラインフェルトはここに至るまで戦力を温存していたのでしょう」
 ベアトリスは興奮気味に、座席からわずかに身を乗り出した。
「リドマン連隊を湖北部へ。ラインフェルトの頭を押さえつけておしまいなさい」
 状況に応じて配置を決めるため、移動しやすいランガス湖西端付近に待機していた部隊を、ベアトリスはついに動かした。これによって湖北部の両軍は、リードホルム軍1400に対しノルドグレーン軍は5000ほどにふくれ上がり、ほとんど絶望的な戦力差となる。

 リースベットは最前線で戦いながら、その差を嫌というほど思い知らされていた。
 目の前の敵を何度打ち破っても、その後ろ、その横から次々と新たな敵が襲いかかってくる。もう出てくるなとうめいても、戦場では誰も聞き入れてはくれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...