192 / 247
ジュニエスの戦い
65 野心と偏執 3
しおりを挟む
「ふん、やはりそう来おったか」
「おのれ……奇襲を読んでいただと……」
マリーツ隊はノルドグレーンの陣を前にして、リードホルムが誇る騎馬部隊の精鋭に退路を断たれた状態で立ち尽くしている。
レーフクヴィスト連隊の前衛部隊はまだ事態を飲み込めていないようで、リードホルム軍同士がにらみ合うさまを呆然と眺めていた。
マイエルが前に進み出ると、マリーツは馬首を返して槍を構える。猛禽の目で先頭のマリーツを隊長と見定めると、鈎槍の穂先を向けながら言った。
「小童、貴様ラインフェルトの弟子であったな。この期に師を裏切ってなんとする」
「……知れたこと。先のない国など捨て、ノルドグレーンで武人としての栄達を図るのだ」
「ほう、大した自信じゃな。多士済々の彼の国で、その力が通じると申すか」
「こんな国よりはな」
「それが師に叛する理由か。下らん」
マリーツは意に介さず鼻で笑う。
「その歳にしては、貴様は大した地位におるぞ。この上なにが不満か」
「地位だと……それが公正でないと言っているのだ! いつまでも年寄りに頭を押さえつけられ、功を求めて戦場に出てすらも貴様のような老いぼれが幅を利かせている。俺がカッセルの出身だと言うだけで、このざまだ!」
「それは奇遇じゃな、我もカッセルの出よ」
「……そういう貴様が、いちばん邪魔なんだよ!」
激昂したマリーツが、槍を水平に構えてマイエルに突進した。陽光にきらめく穂先の光跡とともにマリーツが鋭い突きを連続で放ち、マイエルはそれを辛うじて受け流す。
部隊の指揮官同士が率先して前に出たことで、しぜんに一騎打ちを囲む円陣が出来上がっていた。ふたりは互いに馬体を横にして激しく切り結んでいる。
「どうしたトールヴァルド・マイエル! 動きが遅いぞ!」
マリーツが挑発するように叫ぶ。その言葉通り、マリーツが五度攻撃するうちにマイエルは一度返すのがやっとで、こと個人の武勇に関しては若いマリーツに分があるように思われた。
「名将だかなんだか知らねえが……いけるぜマリーツの奴」
マリーツ隊の副長スオヴァネンが、期待に震えて口角を釣り上げる。
マイエルは突き出されたマリーツの槍先を鈎槍の先端に引っ掛け、それを振り払って一旦距離を置いた。
「言うだけのことはあるようじゃの、小童」
「ほざくがいい、どのみち今日が貴様の命日だ!」
勢いに乗るマリーツが毒蛇のように攻めかかり、いっそう鋭さを増した突きを繰り出す。だがマリーツの手癖にマイエルが対応してきたのか、攻撃を的確に捉えて防御する頻度が増えてきていた。
マイエルの鈎槍が幾度目かマリーツの槍を捉え、その穂先を上方へ跳ね上げる。
「……それで見切ったつもりか、じじい!」
マイエルに槍を弾き飛ばされ体勢を崩したように見えたマリーツだったが、その槍は握っていた手を中心にくるりと半回転し、柄尻の石突がマイエルの黄褐色の鎧を打った。
強打とは言え、鎧の上からでは致命傷になりえない――とくにマイエルの部下たちはそう見ていたが、マリーツが槍を引くと、鎧の上に鮮血が筋を作った。
「マイエル様?!」
「おのれ……奇襲を読んでいただと……」
マリーツ隊はノルドグレーンの陣を前にして、リードホルムが誇る騎馬部隊の精鋭に退路を断たれた状態で立ち尽くしている。
レーフクヴィスト連隊の前衛部隊はまだ事態を飲み込めていないようで、リードホルム軍同士がにらみ合うさまを呆然と眺めていた。
マイエルが前に進み出ると、マリーツは馬首を返して槍を構える。猛禽の目で先頭のマリーツを隊長と見定めると、鈎槍の穂先を向けながら言った。
「小童、貴様ラインフェルトの弟子であったな。この期に師を裏切ってなんとする」
「……知れたこと。先のない国など捨て、ノルドグレーンで武人としての栄達を図るのだ」
「ほう、大した自信じゃな。多士済々の彼の国で、その力が通じると申すか」
「こんな国よりはな」
「それが師に叛する理由か。下らん」
マリーツは意に介さず鼻で笑う。
「その歳にしては、貴様は大した地位におるぞ。この上なにが不満か」
「地位だと……それが公正でないと言っているのだ! いつまでも年寄りに頭を押さえつけられ、功を求めて戦場に出てすらも貴様のような老いぼれが幅を利かせている。俺がカッセルの出身だと言うだけで、このざまだ!」
「それは奇遇じゃな、我もカッセルの出よ」
「……そういう貴様が、いちばん邪魔なんだよ!」
激昂したマリーツが、槍を水平に構えてマイエルに突進した。陽光にきらめく穂先の光跡とともにマリーツが鋭い突きを連続で放ち、マイエルはそれを辛うじて受け流す。
部隊の指揮官同士が率先して前に出たことで、しぜんに一騎打ちを囲む円陣が出来上がっていた。ふたりは互いに馬体を横にして激しく切り結んでいる。
「どうしたトールヴァルド・マイエル! 動きが遅いぞ!」
マリーツが挑発するように叫ぶ。その言葉通り、マリーツが五度攻撃するうちにマイエルは一度返すのがやっとで、こと個人の武勇に関しては若いマリーツに分があるように思われた。
「名将だかなんだか知らねえが……いけるぜマリーツの奴」
マリーツ隊の副長スオヴァネンが、期待に震えて口角を釣り上げる。
マイエルは突き出されたマリーツの槍先を鈎槍の先端に引っ掛け、それを振り払って一旦距離を置いた。
「言うだけのことはあるようじゃの、小童」
「ほざくがいい、どのみち今日が貴様の命日だ!」
勢いに乗るマリーツが毒蛇のように攻めかかり、いっそう鋭さを増した突きを繰り出す。だがマリーツの手癖にマイエルが対応してきたのか、攻撃を的確に捉えて防御する頻度が増えてきていた。
マイエルの鈎槍が幾度目かマリーツの槍を捉え、その穂先を上方へ跳ね上げる。
「……それで見切ったつもりか、じじい!」
マイエルに槍を弾き飛ばされ体勢を崩したように見えたマリーツだったが、その槍は握っていた手を中心にくるりと半回転し、柄尻の石突がマイエルの黄褐色の鎧を打った。
強打とは言え、鎧の上からでは致命傷になりえない――とくにマイエルの部下たちはそう見ていたが、マリーツが槍を引くと、鎧の上に鮮血が筋を作った。
「マイエル様?!」
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる