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ジュニエスの戦い
64 野心と偏執 2
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「あいつは今ノルドグレーンとの喧嘩にお熱だ。トールヴァルド・マイエルの首、これ以上の手土産はねえぞ」
「そうだな。証がなければ欺瞞を疑われるだろう」
「よしんば討ち取れねえまでも、奴の部隊に損害を与えりゃローセンダールとかいう指揮官も信用するだろう。ラインフェルトやレイグラーフを討っても、抜け出す前に他のリードホルム軍に囲まれるだろうが……前線にいるマイエルはちょうどいい獲物だ」
「カッセル出身の俺たちでは、どうせ出世も遅れるばかりだが……ノルドグレーンは分け隔てなく取り立てると聞く。賭けてみるか」
「その意気だ」
スオヴァネンはマリーツの言葉に傷跡だらけの顔を歪め、野心的な笑みを浮かべた。
「それにあのローセンダールってのは、ノルドグレーンいちの金持ちだってな。褒美も出るかも知れねえぞ」
「……小隊長たちに伝えてくれ。これから何があっても、俺の命令に従えとな」
「よしきた!」
スオヴァネンは馬首を翻し、部隊の内側へ向かう。
マリーツは眦を決し、右手に長槍をきつく握った。
「老いぼれどもめ、道を開けろ。もう貴様らの時代ではない」
マイエルは主力軍の騎兵部隊が参戦したことを受け、連携してノルドグレーン軍レーフクヴィスト連隊、ならびにノルランデル連隊への攻撃を繰り返していた。
態勢を立て直したノルドグレーンの防御陣はこれまでよりも遥かに強固で、その後ろに控えるベアトリスまでの道を決して開けようとはしない。
「ようやく主力軍の奴らが動けるようになってきたか」
交戦開始直後はノルドグレーンの防御陣に歯が立たなかった主力軍の騎兵部隊が、幾度かの試行と犠牲の末にようやく、戦果を挙げられるようになってきていた。正面からの突撃を避け、わずかに手薄な密集陣形の左端から攻撃を加えたり、ある者は大盾ごと敵兵を飛び越えるなど、めいめいが死力を尽くし、この好機を逃さぬべく奮戦を続けている。
快進撃を続けていたとは言え、マイエルの部隊も無傷ではなく、少しずつではあるがその数を減じ続けている。
ジュニエス河谷への到着時は2000騎あまりいた重装騎兵は、その数1800ほどまでに損耗し、主力軍の騎兵二大隊1200と合わせても3000に満たない。これは負傷や戦死ばかりでなく、800キロメートル以上の距離を移動してきたマイエルの部隊はそれ相応の疲労もあり、戦いが長引くに連れ脱落者が出てしまうのだった。
それでも攻撃の手を休めないマイエルは、円軌道の突撃と離脱を繰り返し、ノルドグレーン軍に損害を与え続けている。
その背後に、リードホルム軍の増援が到着した。
「全軍、突撃だ! 前方の騎馬部隊を突き破れ!」
マイエル軍が描く円弧の内側、割線上の一点から喚声が上がる。その中心にいるのは、アルフレド・マリーツだ。
マリーツの部隊は、始めはやや気後れがちに、やがてひとかたまりの飛礫となって、マイエルの部隊に襲いかかった。
ノルドグレーン軍への攻撃途中だったマイエルの部隊は、長く延び切った陣形の横腹にくさびを打つように突撃され、部隊は前後に切り離された。分断された先方部隊の先頭をゆくマイエルは、円弧に沿って線を延長するように駆け抜け、マリーツ隊の右側背に出るように進路を取る。
後方部隊は可能な限りの急旋回を試み、マリーツ隊と戦いながら、放物線を描くように右方向へ進路を変え、マリーツ隊の左側面に移動した。
さらにマリーツ隊の後方に、別の騎馬部隊が姿を表した。ブリクストたち特別奇襲隊だ。
マイエルの部隊に損害がなかったわけではないが、背後からの奇襲を受けたわりには、その損害は軽微なものだった。
「ふん、やはりそう来おったか」
「おのれ……奇襲を読んでいただと……」
「そうだな。証がなければ欺瞞を疑われるだろう」
「よしんば討ち取れねえまでも、奴の部隊に損害を与えりゃローセンダールとかいう指揮官も信用するだろう。ラインフェルトやレイグラーフを討っても、抜け出す前に他のリードホルム軍に囲まれるだろうが……前線にいるマイエルはちょうどいい獲物だ」
「カッセル出身の俺たちでは、どうせ出世も遅れるばかりだが……ノルドグレーンは分け隔てなく取り立てると聞く。賭けてみるか」
「その意気だ」
スオヴァネンはマリーツの言葉に傷跡だらけの顔を歪め、野心的な笑みを浮かべた。
「それにあのローセンダールってのは、ノルドグレーンいちの金持ちだってな。褒美も出るかも知れねえぞ」
「……小隊長たちに伝えてくれ。これから何があっても、俺の命令に従えとな」
「よしきた!」
スオヴァネンは馬首を翻し、部隊の内側へ向かう。
マリーツは眦を決し、右手に長槍をきつく握った。
「老いぼれどもめ、道を開けろ。もう貴様らの時代ではない」
マイエルは主力軍の騎兵部隊が参戦したことを受け、連携してノルドグレーン軍レーフクヴィスト連隊、ならびにノルランデル連隊への攻撃を繰り返していた。
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「ようやく主力軍の奴らが動けるようになってきたか」
交戦開始直後はノルドグレーンの防御陣に歯が立たなかった主力軍の騎兵部隊が、幾度かの試行と犠牲の末にようやく、戦果を挙げられるようになってきていた。正面からの突撃を避け、わずかに手薄な密集陣形の左端から攻撃を加えたり、ある者は大盾ごと敵兵を飛び越えるなど、めいめいが死力を尽くし、この好機を逃さぬべく奮戦を続けている。
快進撃を続けていたとは言え、マイエルの部隊も無傷ではなく、少しずつではあるがその数を減じ続けている。
ジュニエス河谷への到着時は2000騎あまりいた重装騎兵は、その数1800ほどまでに損耗し、主力軍の騎兵二大隊1200と合わせても3000に満たない。これは負傷や戦死ばかりでなく、800キロメートル以上の距離を移動してきたマイエルの部隊はそれ相応の疲労もあり、戦いが長引くに連れ脱落者が出てしまうのだった。
それでも攻撃の手を休めないマイエルは、円軌道の突撃と離脱を繰り返し、ノルドグレーン軍に損害を与え続けている。
その背後に、リードホルム軍の増援が到着した。
「全軍、突撃だ! 前方の騎馬部隊を突き破れ!」
マイエル軍が描く円弧の内側、割線上の一点から喚声が上がる。その中心にいるのは、アルフレド・マリーツだ。
マリーツの部隊は、始めはやや気後れがちに、やがてひとかたまりの飛礫となって、マイエルの部隊に襲いかかった。
ノルドグレーン軍への攻撃途中だったマイエルの部隊は、長く延び切った陣形の横腹にくさびを打つように突撃され、部隊は前後に切り離された。分断された先方部隊の先頭をゆくマイエルは、円弧に沿って線を延長するように駆け抜け、マリーツ隊の右側背に出るように進路を取る。
後方部隊は可能な限りの急旋回を試み、マリーツ隊と戦いながら、放物線を描くように右方向へ進路を変え、マリーツ隊の左側面に移動した。
さらにマリーツ隊の後方に、別の騎馬部隊が姿を表した。ブリクストたち特別奇襲隊だ。
マイエルの部隊に損害がなかったわけではないが、背後からの奇襲を受けたわりには、その損害は軽微なものだった。
「ふん、やはりそう来おったか」
「おのれ……奇襲を読んでいただと……」
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