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ジュニエスの戦い
56 分水嶺 3
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ベアトリスが形の良い眉を寄せて南の丘を凝視していると、その斜面を一騎の騎馬が勢いよく駆け下りてきた。
「騎馬が一騎……ずいぶん大型の馬です」
「あれはまさか……!」
ベアトリスは不安に顔を歪めて立ち上がった。
馬上の男は雄叫びを上げ、呼応するように次々と騎馬が続く。
ブリクストではない。騎馬の装いは特別奇襲隊のそれよりも重装備で、みな体高が大きく脚の太い頑強な馬を駆っており、その数も百や二百ではなかった。
騎馬の集団は一直線に、ハンメルト率いるノルドグレーンの前衛部隊に向かって突き進んでいる。
リースベットとともに前線に出ていたノアにも、その姿はすぐ見て取れた。ノアは確信とともに深くうなずき、剣を抜く。
「マイエル将軍だ! あのトールヴァルド・マイエルがこの戦場に駆けつけたぞ!」
ノアは剣を高く掲げ、声の限りに叫んだ。
「なんですと?!」
メシュヴィツが驚きの声を上げる。
開戦前、リードホルムの南方を守備するマイエルの参戦が不可能であることをノアに説明したのはメシュヴィツ自身であり、またレイグラーフの幕僚たちが共有する認識でもあった。
「よく見ろメシュヴィツ、あの旗や盾の紋章は、間違いなくマイエル将軍のものだ」
「……た、確かに」
「最短で来たな」
リードホルムの国章である翼竜のシンボルにMの文字が添えられた意匠は、マイエル軍のみに掲げることを許されたものだった。
「マイエル将軍だって……?」
「そんなバカな。南方から何日かかると思ってんだ」
「いや、間違いねえ。俺はあの姿をイェータ戦争で見たことがあるぞ!」
「無敵のマイエル騎兵隊が助けに来てくれたぞ!」
リードホルム兵たちが口々に叫ぶ。
そのマイエルを先頭として急斜面を駆け下りた騎馬部隊は、戦況の急変にうろたえるノルドグレーン前衛部隊の横腹に突撃した。マイエルは黄褐色の鎧を輝かせながら馬を大きく跳躍させ、大盾の防御陣を上から薙ぎ払った。
トールヴァルド・マイエルが増援として向かっている――ジュニエス河谷のリードホルム軍でその事実を知っていたのは、ラインフェルトとノア、それと前日にノアから打ち明けられていたリースベットだけだった。
この劇的な増援到来は、ラインフェルトが秘密裏に画策していたものだった。
ノアは六長官会議の後に、リースベットの参戦についての相談のためラインフェルトを訪ねた際、ひそかに本人から打ち明けられていた。
「なるほど……それでは私の悪巧みも、ひとつノア様にお話しておきましょうかな」
書物に埋もれたデスクの奥で、軍人というよりは学者や研究者のようなラインフェルトは眠たげな瞳を輝かせた。
「将軍の策略を悪巧みとは……」
「私がこれまで弄してきた詭計の中でも、これはずいぶん悪どい方です。なにしろ味方まで騙すのですからな」
味方を騙すと聞き、ノアは怪訝な顔をする。
「……先の六長官会議にて、私の部下のヘレニウスが東方の守備に当たっていると申しましたが……あれは嘘です」
「なんと……一体なぜ、そのような……」
「実際は、ヘレニウスは残存の兵をすべて率いて、南方地域のマイエルのもとへ向かっております。事前に早馬を飛ばし、マイエルにはジュニエスの戦いに参戦するよう促しましてな」
「では東方は……」
「もぬけの殻です」
淡々と語るラインフェルトに、ノアは不安と期待が綯い交ぜの複雑な印象を覚えていた。
「騎馬が一騎……ずいぶん大型の馬です」
「あれはまさか……!」
ベアトリスは不安に顔を歪めて立ち上がった。
馬上の男は雄叫びを上げ、呼応するように次々と騎馬が続く。
ブリクストではない。騎馬の装いは特別奇襲隊のそれよりも重装備で、みな体高が大きく脚の太い頑強な馬を駆っており、その数も百や二百ではなかった。
騎馬の集団は一直線に、ハンメルト率いるノルドグレーンの前衛部隊に向かって突き進んでいる。
リースベットとともに前線に出ていたノアにも、その姿はすぐ見て取れた。ノアは確信とともに深くうなずき、剣を抜く。
「マイエル将軍だ! あのトールヴァルド・マイエルがこの戦場に駆けつけたぞ!」
ノアは剣を高く掲げ、声の限りに叫んだ。
「なんですと?!」
メシュヴィツが驚きの声を上げる。
開戦前、リードホルムの南方を守備するマイエルの参戦が不可能であることをノアに説明したのはメシュヴィツ自身であり、またレイグラーフの幕僚たちが共有する認識でもあった。
「よく見ろメシュヴィツ、あの旗や盾の紋章は、間違いなくマイエル将軍のものだ」
「……た、確かに」
「最短で来たな」
リードホルムの国章である翼竜のシンボルにMの文字が添えられた意匠は、マイエル軍のみに掲げることを許されたものだった。
「マイエル将軍だって……?」
「そんなバカな。南方から何日かかると思ってんだ」
「いや、間違いねえ。俺はあの姿をイェータ戦争で見たことがあるぞ!」
「無敵のマイエル騎兵隊が助けに来てくれたぞ!」
リードホルム兵たちが口々に叫ぶ。
そのマイエルを先頭として急斜面を駆け下りた騎馬部隊は、戦況の急変にうろたえるノルドグレーン前衛部隊の横腹に突撃した。マイエルは黄褐色の鎧を輝かせながら馬を大きく跳躍させ、大盾の防御陣を上から薙ぎ払った。
トールヴァルド・マイエルが増援として向かっている――ジュニエス河谷のリードホルム軍でその事実を知っていたのは、ラインフェルトとノア、それと前日にノアから打ち明けられていたリースベットだけだった。
この劇的な増援到来は、ラインフェルトが秘密裏に画策していたものだった。
ノアは六長官会議の後に、リースベットの参戦についての相談のためラインフェルトを訪ねた際、ひそかに本人から打ち明けられていた。
「なるほど……それでは私の悪巧みも、ひとつノア様にお話しておきましょうかな」
書物に埋もれたデスクの奥で、軍人というよりは学者や研究者のようなラインフェルトは眠たげな瞳を輝かせた。
「将軍の策略を悪巧みとは……」
「私がこれまで弄してきた詭計の中でも、これはずいぶん悪どい方です。なにしろ味方まで騙すのですからな」
味方を騙すと聞き、ノアは怪訝な顔をする。
「……先の六長官会議にて、私の部下のヘレニウスが東方の守備に当たっていると申しましたが……あれは嘘です」
「なんと……一体なぜ、そのような……」
「実際は、ヘレニウスは残存の兵をすべて率いて、南方地域のマイエルのもとへ向かっております。事前に早馬を飛ばし、マイエルにはジュニエスの戦いに参戦するよう促しましてな」
「では東方は……」
「もぬけの殻です」
淡々と語るラインフェルトに、ノアは不安と期待が綯い交ぜの複雑な印象を覚えていた。
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