山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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ジュニエスの戦い

55 分水嶺 2

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 戦闘開始から四日目に至るまで、ベアトリス・ローセンダールが採った愚直ぐちょくなまでの正攻法は、近衛兵とラインフェルトに付け入る隙を与えぬための最善策だった。それは着実に功を奏し、兵員の損耗そんもうが激しいリードホルム軍は、他に比べれば被害の少ないラインフェルト軍の一部をレイグラーフの主力軍に組み込むことで、辛うじて戦線を維持していた。
 これが崩されたが最後、リードホルムには戦局打開のために温存していた騎兵部隊が残るのみである。その活躍の機会を歩兵部隊が作れなければ、騎兵部隊には不利な突撃であたら命を散らす未来しか残されていない。
 それを知るベアトリスは、余裕の表情で戦場に臨んでいた。
「さあ、今日で終わりにいたしましょうか」
「降伏勧告でも出しますか?」
「難しいところね……。ふつうの野戦ならまだしも、今はおそらく、伝令兵の命をひとつ無駄にするだけに終わるわ。あのノア王子が総指揮官だというなら、送ってみるのも良いのだけれど」
「総指揮官はあくまで、軍人のレイグラーフでしたね」
「そう。政治を交えた交渉はできないわ。あちらから講和でも申し出てくるなら、その時ようやく潮目しおめが変わったと見て良いでしょう」
 リードホルム軍がここで降伏するということは、王都ヘルストランドを明け渡すという誓約書に署名をするに等しい。ソルモーサン砦の背後には、ヘルストランドまでの道のりを塞ぐ砦も、守る兵も存在しないのだ。
 ソルモーサン砦が陥落した場合、城塞都市であるヘルストランドまで後退し、籠城ろうじょうして最後の抵抗を試みる――リードホルム軍の総指揮官レイグラーフは最悪の場合を想定し、そうした戦術も選択肢として検討していた。だが降伏するという選択肢は、彼の脳裏には存在しなかった。
「……変ね、敵の援護射撃が少ないわ」
 戦況の微妙な変化にベアトリスが不審の声を漏らした。
 南の丘に布陣するリードホルム軍弓兵部隊からの攻撃が、散発的になってきている。
「おかしいですね……我が軍が丘を制圧した様子もなく、無論そのような報告も届いておりません」
 親衛隊長ロードストレームも、違和感と不快感をその顔に同居させている。
 高台の戦況は、ベアトリスのいる位置からでは目視での確認は難しい。戦闘が起きているのであれば、喚声かんせいや立ち上る砂煙である程度の推測は可能だが、そんな様子もなかった。
「一体何が……?」
 ベアトリスが形の良い眉を寄せて南の丘を凝視ぎょうししていると、その斜面を一騎の騎馬が勢いよく駆け下りてきた。
「騎馬が一騎……ずいぶん大型の馬です」
「あれはまさか……!」
 ベアトリスは不安に顔を歪めて立ち上がった。
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