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ジュニエスの戦い

22 開戦間近 2

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狡猾こうかつな……とも言えませぬな。この情勢下では」
「ああ。いくらか希望があるとすれば……戦いを長引かせれば、まだ我らにノルドグレーンと拮抗きっこうする力があると見て、動いてくれるかも知れない」
「カッセルとて、一国でノルドグレーンと対峙たいじしたくはないでしょうからな」
 ブリクストはそう言って腰に両手を当て、背筋を伸ばすように胸郭きょうかくを拡げた。
「さて、私も隊に戻らねば」
「ブリクスト、死ぬなよ」
「……初戦後の軍議にで、またお会いしましょう」
 いつもよりも長めに敬礼し、ブリクストはノアの前から歩き去った。

 それと入れ替わるように、別の男がノアを見つけて近付いてきた。その背後には十五人ほど、揃いの軍装に身を包んだ者たちを連れている。青と金で彩られた、きらびやかな近衛兵の軍装だ。
 先頭の、大柄で短髪の男は、ノアの前に来て儀礼的にひざまずいた。
「ノア大公であらせられますな。小官は第七十代近衛兵隊長、エリオット・フリークルンドであります」
 いかにも武人然とした風貌ふうぼうと立ち居振る舞いのフリークルンドは、貴族のように居丈高いたけだかな者の多い近衛兵の中にあっては異質な存在だ。事実近衛兵たちは、ノア以外の軍人たちとは必要最低限の会話しかせず、一般兵に至ってはその存在を完全に無視してソルモーサン砦を闊歩かっぽしている。その点に関してはフリークルンドも変わることはなく、彼の異質さは外面的な要素に限られていた。
けいがそうであったか。父に代わって、私がこの戦場での指揮を任せてもらう」
御意ぎょい
此度こたびの戦は、卿らの働きにかかっているところが大きい。よろしく頼む」
「お任せを。ノルドグレーン軍など、ものの数ではありません」
「レイグラーフ将軍たちと協議した上で、卿らの採るべき戦術を伝える。それまで休んでいてくれ」
 近衛兵たちは一糸乱れぬ所作で同時に敬礼し、きびすを返して立ち去った。
 ノアはフリークルンドたち近衛兵の背中を、不安げな顔で見送った。彼らのうちの幾人かは、国王に代わってノアが近衛兵の指揮を執ることに不満を抱いているようだった。

 翌日の昼前には、ジュニエス河谷に両軍の布陣が完了していた。
 ランガス湖の南側には総指揮官であるレイグラーフ将軍の主力軍約4000が布陣し、ノアと近衛兵もそれに帯同している。
 湖を挟んで北側にはラインフェルト将軍の部隊2400と、その後方に彼の高弟マリーツの予備部隊600が控えていた。
 南の丘の上には急場でかき集められた数百の弓兵が配置され、前進してくるノルドグレーン軍の主力を狙い撃つ。その弓兵たちの前方に茂る林の中には、ブリクストたち特別奇襲隊が潜んでいた。彼らの役割は、南の丘を制圧して弓兵を排除しようとするノルドグレーン軍別働隊の迎撃と、状況に応じて丘の急斜面を駆け下り敵主力部隊に奇襲をかけることだ。
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