山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

文字の大きさ
149 / 247
ジュニエスの戦い

22 開戦間近 2

しおりを挟む
狡猾こうかつな……とも言えませぬな。この情勢下では」
「ああ。いくらか希望があるとすれば……戦いを長引かせれば、まだ我らにノルドグレーンと拮抗きっこうする力があると見て、動いてくれるかも知れない」
「カッセルとて、一国でノルドグレーンと対峙たいじしたくはないでしょうからな」
 ブリクストはそう言って腰に両手を当て、背筋を伸ばすように胸郭きょうかくを拡げた。
「さて、私も隊に戻らねば」
「ブリクスト、死ぬなよ」
「……初戦後の軍議にで、またお会いしましょう」
 いつもよりも長めに敬礼し、ブリクストはノアの前から歩き去った。

 それと入れ替わるように、別の男がノアを見つけて近付いてきた。その背後には十五人ほど、揃いの軍装に身を包んだ者たちを連れている。青と金で彩られた、きらびやかな近衛兵の軍装だ。
 先頭の、大柄で短髪の男は、ノアの前に来て儀礼的にひざまずいた。
「ノア大公であらせられますな。小官は第七十代近衛兵隊長、エリオット・フリークルンドであります」
 いかにも武人然とした風貌ふうぼうと立ち居振る舞いのフリークルンドは、貴族のように居丈高いたけだかな者の多い近衛兵の中にあっては異質な存在だ。事実近衛兵たちは、ノア以外の軍人たちとは必要最低限の会話しかせず、一般兵に至ってはその存在を完全に無視してソルモーサン砦を闊歩かっぽしている。その点に関してはフリークルンドも変わることはなく、彼の異質さは外面的な要素に限られていた。
けいがそうであったか。父に代わって、私がこの戦場での指揮を任せてもらう」
御意ぎょい
此度こたびの戦は、卿らの働きにかかっているところが大きい。よろしく頼む」
「お任せを。ノルドグレーン軍など、ものの数ではありません」
「レイグラーフ将軍たちと協議した上で、卿らの採るべき戦術を伝える。それまで休んでいてくれ」
 近衛兵たちは一糸乱れぬ所作で同時に敬礼し、きびすを返して立ち去った。
 ノアはフリークルンドたち近衛兵の背中を、不安げな顔で見送った。彼らのうちの幾人かは、国王に代わってノアが近衛兵の指揮を執ることに不満を抱いているようだった。

 翌日の昼前には、ジュニエス河谷に両軍の布陣が完了していた。
 ランガス湖の南側には総指揮官であるレイグラーフ将軍の主力軍約4000が布陣し、ノアと近衛兵もそれに帯同している。
 湖を挟んで北側にはラインフェルト将軍の部隊2400と、その後方に彼の高弟マリーツの予備部隊600が控えていた。
 南の丘の上には急場でかき集められた数百の弓兵が配置され、前進してくるノルドグレーン軍の主力を狙い撃つ。その弓兵たちの前方に茂る林の中には、ブリクストたち特別奇襲隊が潜んでいた。彼らの役割は、南の丘を制圧して弓兵を排除しようとするノルドグレーン軍別働隊の迎撃と、状況に応じて丘の急斜面を駆け下り敵主力部隊に奇襲をかけることだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...