150 / 247
ジュニエスの戦い
23 開戦間近 3
しおりを挟む
戦闘馬車上で指揮を執るレイグラーフとノアは、ノアはまとめて精鋭部隊に護衛されており、その場所がノルドグレーン軍の本陣とも言える。
ノア自身は戦闘馬車には乗らず騎乗し、一人の精強な軍人と轡を並べていた。その男は名をメシュヴィツといい、ノアを補佐するよう任命されたレイグラーフの参謀だった。
「南北を丘と岩山に挟まれたジュニエスは、例えば兵を分散して時間差で後方を突くような搦手など使えぬ戦場です。基本的には、弓兵の効果的な配置場所である南の丘の奪い合いと、正面からの力押し以外に採れる策はありません」
ノアはメシュヴィツから、ジュニエス河谷に関する説明を聞いていた。
すでにラインフェルトなどから受けていた説明とほぼ同じ内容ではあったが、ノアは確かめるように何度も、複数の相手から同じ説明を受けている。彼は今回がほぼ初陣であり、そうでもしないと不安感に圧し潰されそうになるのだ。
「確かにノルドグレーンは、力押しができるだけの数を揃えてきている。軍略家として知られるラインフェルト将軍などにとっては、面白味に欠ける戦場だろうな」
「両軍ともに打てる策が少ないからこそ、我が軍の地の利が生きる戦場でもあります」
「なるほど。……過去、このジュニエスで我が国が敗れたことはあるのか?」
「リードホルム側が窮地に陥った例としては……主力部隊が戦功に逸るあまり、ノルドグレーンが敷く包囲陣まで突出してしまったことによる戦線の崩壊、それのみです」
「基本的には守っていればよい、というわけか」
「左様です。そしてレイグラーフ様もラインフェルト将軍も、どちらかと言えば守勢の戦いを得意とされるお方。……しかしながら、今回はどうにも数が足りません」
「攻めに強い将軍はいないのか?」
「いまラインフェルト将軍の後方に控えているマリーツ殿は、師に似ず攻勢を得意とされており、武勇にも秀でているそうです」
「ほう、そんな逸材がいるのか」
ノアは右前方を見やった。その視線の彼方にはラインフェルトが布陣してる。
「あとは何より、この場にいないマイエル将軍こそ、こうした状況に風穴を開ける戦いができるお方なのですが……」
「そのマイエル将軍は遠く南方地域にある、か……」
トールヴァルド・マイエルはラインフェルトと並び称されるリードホルムの軍人で、六年前のイェータ国侵攻戦では、前線に立ち最大の戦功を挙げた武人である。だが今回はリードホルム南方地域でノルドグレーン軍と向き合っており、そこから離れることができないでいた。
「仮に守備を放棄して駆けつけたとしても、任地が遠すぎて、おそらく到着前にこの戦いが終結すると……いえ、これは失言を」
「構わない。事実をありのまま話してくれ」
メシュヴィツは悲観的な見立てを訂正したが、無論ノアはそのような発言を咎めたりはしない。不都合な真実に耳をふさぎ、楽観論だけで戦略を組み立てて戦った国が勝った例はないのだ。
ノア自身は戦闘馬車には乗らず騎乗し、一人の精強な軍人と轡を並べていた。その男は名をメシュヴィツといい、ノアを補佐するよう任命されたレイグラーフの参謀だった。
「南北を丘と岩山に挟まれたジュニエスは、例えば兵を分散して時間差で後方を突くような搦手など使えぬ戦場です。基本的には、弓兵の効果的な配置場所である南の丘の奪い合いと、正面からの力押し以外に採れる策はありません」
ノアはメシュヴィツから、ジュニエス河谷に関する説明を聞いていた。
すでにラインフェルトなどから受けていた説明とほぼ同じ内容ではあったが、ノアは確かめるように何度も、複数の相手から同じ説明を受けている。彼は今回がほぼ初陣であり、そうでもしないと不安感に圧し潰されそうになるのだ。
「確かにノルドグレーンは、力押しができるだけの数を揃えてきている。軍略家として知られるラインフェルト将軍などにとっては、面白味に欠ける戦場だろうな」
「両軍ともに打てる策が少ないからこそ、我が軍の地の利が生きる戦場でもあります」
「なるほど。……過去、このジュニエスで我が国が敗れたことはあるのか?」
「リードホルム側が窮地に陥った例としては……主力部隊が戦功に逸るあまり、ノルドグレーンが敷く包囲陣まで突出してしまったことによる戦線の崩壊、それのみです」
「基本的には守っていればよい、というわけか」
「左様です。そしてレイグラーフ様もラインフェルト将軍も、どちらかと言えば守勢の戦いを得意とされるお方。……しかしながら、今回はどうにも数が足りません」
「攻めに強い将軍はいないのか?」
「いまラインフェルト将軍の後方に控えているマリーツ殿は、師に似ず攻勢を得意とされており、武勇にも秀でているそうです」
「ほう、そんな逸材がいるのか」
ノアは右前方を見やった。その視線の彼方にはラインフェルトが布陣してる。
「あとは何より、この場にいないマイエル将軍こそ、こうした状況に風穴を開ける戦いができるお方なのですが……」
「そのマイエル将軍は遠く南方地域にある、か……」
トールヴァルド・マイエルはラインフェルトと並び称されるリードホルムの軍人で、六年前のイェータ国侵攻戦では、前線に立ち最大の戦功を挙げた武人である。だが今回はリードホルム南方地域でノルドグレーン軍と向き合っており、そこから離れることができないでいた。
「仮に守備を放棄して駆けつけたとしても、任地が遠すぎて、おそらく到着前にこの戦いが終結すると……いえ、これは失言を」
「構わない。事実をありのまま話してくれ」
メシュヴィツは悲観的な見立てを訂正したが、無論ノアはそのような発言を咎めたりはしない。不都合な真実に耳をふさぎ、楽観論だけで戦略を組み立てて戦った国が勝った例はないのだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
逃れる者
ヤマサンブラック
大衆娯楽
昭和四十九年も終わろうとしている冬のある日、藤岡が出入りする雀荘『にしむら』に、隻腕の男・石神がやってきた。
左手一本でイカサマ技を使い圧倒的な強さを見せる石神に対し、藤岡たちは三人で組むことにしたが……。
『絶対防御が結局最強』異世界転生って若い奴らの話じゃなかったのかよ、定年間近にはキツイぜ!
綾野祐介
ファンタジー
異世界って何?美味しいの?
異世界転生を綾野が書くとこうなってしまう、という実験です。
定年間際の転生者はどうなるのでしょう。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる