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ジュニエスの戦い

21 開戦間近

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 リードホルム軍がノルドグレーン軍を迎え撃つ戦場に選んだジュニエス河谷かこくは、幅5キロメートルほどの、河谷としては広大な、だが戦場としては狭い、山あいの窪地くぼちである。
 南北を急峻きゅうしゅんな斜面に囲われ、とくに北側は人がよじ登ることさえ不可能な急斜面だ。東西に長く、リードホルム側は袋の口を閉じるようにソルモーサン砦がそびえ立つ。
 その狭い平地は細長いランガス湖によって分断されており、主力部隊が戦う湖南側と、相手の後方を狙って攻撃部隊が激突する狭い北側に分かれている。
 山あいの河谷であるため起伏の激しい場所が散在し、地表は地衣ちい類や背の低い草花に覆われ、その間から無数の岩が顔をのぞかせている。
 そんな険しく荒涼とした地形であっても、両国を分かつようにそびえるノーラント山脈のなかで数千の集団が行軍できる場所は、このジュニエス河谷だけなのだ。ノルドグレーン軍が山脈を迂回うかいしようとした場合は、南側はすでに両国の主力軍がにらみ合いを続けており、北側の迂回路は戦争中の隣国テーレとカッセル王国に行き当たる。
 そしてこのジュニエス河谷は、守る側に有利な天然の要害ようがいであり、国力では大きく劣後れつごするリードホルムがなぜノルドグレーンの侵攻をまぬがれ続けてきたのか、その理由の一翼を担う戦場だった。

「18000対7000……地の利はあれど、あまりに数が違いすぎますな」
 ソルモーサン砦の物見台から遠くジュニエス河谷を見渡しながら、トマス・ブリクストがつぶやいた。彼のかたわらでは、ノアが腕組みをして、同じように戦場となるU字谷を眺めている。
「10000以上とは聞いていたが、まさかこちらの倍以上にまでふくれ上がるとはな」
「攻める側が、守る側に対して倍する数を揃えるというのは戦の常道じょうどうとも言えます。しかしよもや、この場所でそんな数を相手にすることになろうとは……」
「ブリクストの部隊は、どこに配置されたのだ?」
「話が二転三転してまだ未決定なのですが、おそらく南側高台の防衛が主務となるかと」
「この期に及んで何を揉めている?」
「レイグラーフ将軍とラインフェルト将軍の意見が対立しているようで……我々が高台へ回るというのはラインフェルト将軍の案です」
「ということは、レイグラーフ将軍は主力軍の騎馬部隊に組み込むつもりか。そのほうが有効なように思えるが……南の丘も重要だが、結局のところ主力軍で圧倒できねば、この戦いに勝利はない」
「そうなのです」
「ラインフェルト将軍のこと、なにか考えがあってのことだろうが……」
 今回の戦いでは、ブリクストの指揮する部隊も当然のように戦力として組み入れられた。
 特別奇襲隊は、数としては百名足らずの騎馬部隊ではある。だが他に類を見ないその馬術と練度の高さから、彼らの配置の妙は戦局に大きな影響をもたらし得るものと目されていた。
「せめてあと2000もあれば、長期化した際の兵の負担がだいぶ軽減できるそうだが……」
「2000……カッセルに援軍の要請はできませぬか?」
「使者は送っている。だが……少なくとも、今は動かないだろう」
「今は、と申されるのは……」
「ラインフェルト将軍が言っていたが、カッセルはいま様子見を決め込んでいる。ノルドグレーンの侵攻があまりにも大規模だからな。我らが優勢ならばそれを見て援軍を出し、これまで通り連衡れんこうしてノルドグレーンに当たる。我らが負ければ、素知そしらぬ顔でリードホルム東部地域を平定して回るだろう」
狡猾こうかつな……とも言えませぬな。この情勢下では」
「ああ。いくらか希望があるとすれば……戦いを長引かせれば、まだ我らにノルドグレーンと拮抗きっこうする力があると見て、動いてくれるかも知れない」
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