山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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落日の序曲

17 禁じられた再訪 2

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 バックマンはリースベットに目を向けた。彼女は興味なさげに、眉間にしわを寄せて天を仰いでいる。――お前に任せるよ、という意思表示でもあった。
 リースベットの見上げる空には、雨粒がぱらつき始めている。
「副長さんよう、おれからも頼むぜ。暴れたことはこの通り謝るしよ」
「……あんたはこの前、ごつい鎧着て暴れてた奴か。ぶっ壊した坑道を修理しろ……と言いてえところだが、まあその分もまとめて払ってくれりゃいいや」
「おお、では受けてくれるか!」
「金額次第だぜ。あたしらは義賊様じゃねえんだ」
 リースベットが目をつぶって腕組みをしたまま口を挟む。
「その通りだ。はした金じゃ動かねえし、やるにしたって中身も金額で変わる」
「……前金で10万と成功後に20万、合計30万クローナ出そう」
「マジかよ!」
 フェルディンを囲む三人が異口同音に叫んだ。
 通常ならば、ここから倍の金額を吹き掛けて釣り上げ交渉を始めるはずのバックマンとリースベットが、それを忘れて驚きの声を上げてしまった。二人は視線でお互いを非難し合っている。
 街の安宿であれば十年気楽になが逗留とうりゅうしていられるほどの金額を、それほど難事とも思えない窃盗仕事に出すという。
 リースベットたちにしてみれば、これほど割の良い仕事も近年珍しい。
「はー兄貴、金持ちだったんだな」
「カッセルは賞金首に出す金額が比較的大きいのだ。それに、宿代以外ではあまり使いみちもなかったしな」
「……まあいいだろ。そんだけ積まれりゃ、こっちとしても文句はねえ」
 リースベットは両腕を上げて手のひらを空に向け、あきらめたように笑っている。
「しゃーねえ受けてやる。まったく、そうまでして情報が欲しいかよ」
「それ以外に、生きる目標がないのだ。僕にはな」
 フェルディンが真摯しんしな面持ちで答えると、雨脚が激しくなってきた。彼の真顔は雨雲を呼ぶようだ。
「強くなってきやがったな。雪が降ってもいい時期だってのに」
「おいアホマント、話はこれで終わりだよな? あたしらは戻るぞ」
「ま、待ってくれ」
「何だ、今更値引きはしねえぞ」
「この寒空の下、野宿は厳しい。雨が止むまで泊めてくれないか」
 いつの間にか雲は厚く空一面に広がり、どうやらしばらくは晴れそうにない。寒空の下の雨は急激に体温を奪い、雪よりも旅人の命を危険に晒す。
 リースベットとバックマンは顔を見合わせて頷き合った。
「あたしらは旅の宿は本業じゃねえが……いくら出す?」
「一人500クローナ」
「ずいぶん雨が好きらしいな」
「……1000」
「2000」
「1500で何とか……」
「いいだろう。このまえ完成したばっかりの新部屋が空いてる」
「もうすぐ晩飯もできる頃だ。食って驚け、町の安宿とは比較にならねえぞ」
「……食事は別料金か?」
「そこまで阿漕あこぎじゃねえよ。さあとっとと入るぞ」
 四人が入口に向かって走ってきたため、様子をずっと覗き見ていたアウロラは慌てて奥に引っ込んだ。
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