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11ー1  冒険と自由

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 アンティネットは、路地裏までセダルに連れて行かれると、

「手を離してください」

「ハハハハッ!」

「離してって!」

 アンティネットがセダルの手を振りほどくと、彼は大笑いした。

「何が可笑しいのよっ。きっと、スハンが心配するわ。スハルト様だって……」
 
「だから、どうしたって話だろ? 以前のアンティネットはどうだったよ?」

「……わたし、どうだったのかな。以前は……」 

(前には目標があったよ。お金を貯めて、グレッグと再会して、結ばれたい想いがあったはず)

「……夢があったの。だから、あんなにつらい毎日だって、乗り越えられたんだと思う」

「好きだった男爵家の坊ちゃんと、なんかあったか?」

「別に! 言うつもりはないけど」

 アンティネットは、路地裏に転がった木箱に座って、目を伏せた。

「ふん、そうかい。だったら俺は、お前がちっちゃい頃から、毎朝、市場でボロを着て働いてきたお前を見るだけで勇気づけられてたぜ」

「……セダル?」

「もし、お前が夢無くしたって落ち込んだって、何も無くなったわけじゃねえだろ。今、お前には何が残ってる?」

 アンティネットは、両手を広げてみた。

 親がいなかった。教育も受けられなかった。お金もなかった。たくさんのものがなかったけれど、生きるために努力して、その穴を埋めてきた。
 そして手にした、草の刺で厚くなった皮膚、たくましい体、それに傍にいて見ていてくれる仲間たち。そして……強い魔法の才能。

「わたし……まだ魔法を使える。わたし、まだ、夢をあきらめたくない。夢をなくしたら、また、夢を見ればいい」

 アンティネットは、ぎゅっと手に拳をつくって立ち上がった。

「ふん。やっと、本当のアンティネットになってきたじゃねえか」

「ありがとう。それで、セダル。どうやってここまで来れたの?」

 セダルは、得意げに鼻を上げ、

「付き合いのあった役人から、スハルト伯爵の家を聞き出せたんだ。運賃は、俺の金と、お前の秘密基地にあったものをいただいた」

「……場所、ちゃんと教えたことないけど?」

「だいたい、お前はあの裏山から市場から来ていたことは知っていたから。2日かけて、探り当てたぜ」

 アンティネットは、驚きでポカンと口を開けたまま、呆気にとられていたが、

「凄い執念だね、ふふっ」と笑い出した。

 セダルは満足したように、ズボンのポケットに片手を突っ込み、

「よし、じゃあ、俺はもう行くかな」

と、背伸びをした。

「どこに行くの? 帰りの運賃はあるの? わたし、お母様の財産があるらしいの。だから、ちゃんとお礼だってできる。それに、屋敷の仕事だって、お願いできるはずだし……」

「よせよ」

 セダルは首を振り、アンティネットの両肩に手を置いた。

「俺は、貴族連中とは性に合わないんだ。そいつらの御用聞きもごめんだ。お前の金で、ここまで来れたんだ。下町の平民街あたりで仕事でも探すさ。それに、お前には他にやらないといけないことがあるんじゃないか?」

「わたしにやれること……」

(スハルト様のお陰で、伯爵の地位を手に入れた。私にはこれまで行けなかった場所に行けるはず。わたし、まだ、グレッグをあきらめなくてもいいはずだわ!)

 アンティネットの顔がぱっと明るくなったのをセダルは見届けると、彼は風のように走り去った。


 ✳✳✳


「スハルト様、わたし、入学したいの。もっと魔法の勉強がしたいのよ」

 夜、彼が帰宅すると、アンティネットはすぐさま、玄関まで走り出て、早口でしゃべり出した。

「それから、フローレイン様の夜会にも出席するわ。まだグレッグをあきらめたくない。お母様の財産も引き継ぎ、正式に爵位を回復して、生活にも慣れてきたら……」

 アンティネットは、思わず、口ごもった。それから、意を決して、

「婚約を破棄したいの」

 しかし意外なことに、スハルトの表情は淡々としていた。

「分かった。その通りに取り計らう」

「えっ……」

「何を驚いている?」

「いえ。ただ、何か抵抗するかな、とか……」

「君の母親から、15才を過ぎたら、好きな生き方を選択させるように指示されている。まずは夕食を食べながら話をしよう」

「は、はい。あの、ありがとう」 

「礼などいい。何しろ、元気そうでなによりだ」 

 スハルトは、安堵したように、僅かに口先を緩ませた。
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