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(私を知ってる?)

 アナリスは驚いて目を見開いた。

(じゃあ、これは私のファンってこと?)

 そう思うと、何だか少しほっとしてしまった。

 しかし、まだ油断はできない。

 どうやって、わたしが『べリーチェ・アダムス』だと突き止めたのか、確認しなければならない。

「私のことをどうして知っているのですか?」

「それは……内緒です」

 ラファエルはそう言うと、アナリスの瞳をじっと見つめた。

(内緒って……まあ、王家だからいろいろ密偵とかしているんでしょうよ。ふう、ここまでご執心なんて、やっぱり王太子様ね……)

 アナリスは頷きながら、次の言葉を待つことにした。

「私は、幼い頃から人付き合いが苦手でした。王族としてのたしなみばかりで、学問と武道にのめり込んで気難しい顔つきになり、そのせいで周りからは『冷血王子』などと呼ばれるようになってしまって……友達と呼べる相手もいませんでした」

 ラファエルは、遠い目をして話し始める。

「そんなとき、貴女の本に出会ったのです」

「わたしの本?」

「ええ、貴女の作品に出会ってからというもの、私はすっかりファンになってしまったのですよ。読むと、ほっこり笑顔になるんですよ」

(私なんかの小説で?)

 アナリスは半信半疑で聞いていたが、彼の真剣な眼差しを見ていると本当なのかもしれないと思うようになっていた。

 彼は続ける。

「私は、貴女の小説に救われたんです。物語の中に出てくる主人公の、子爵令嬢メイリーンの生き方に共感し、自分も何かやりたいと前向きな気持ちになることができました!」

 ラファエルはそう言いながら、アナリスの手を握る手に力を込めた。

 そして、熱のこもった口調で続ける。

「だから、どうしても貴女に直接会って、お礼を言いたかったのです。おかげで、私はこれまで自信を持って過ごすことができました。ありがとう!」
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