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 大広間を出たところで、後ろから追いかけてくる足音に追いつかれた。

 アナリスが振り返ると、そこには息を切らした青年がいた。

「アナリス・キャンベル伯爵令嬢」

「……」

「またの名を、べリーチェ・アダムスですね?」

 アナリスは立ち止まった。

「え!」

(作家名を知っている?)

 青年はアナリスの腕を掴むと、強引に振り向かせた。

 そして、驚いた表情を浮かべている彼女の手を取ると、跪いて手の甲に口づけをする。

「ちょっと…あなたは誰ですか? どうして名前をご存じ?」

 アナリスが訊ねると、彼はゆっくりと立ち上がった。

 そして、まっすぐにこちらを見つめてくる。

 その瞳は吸い込まれそうなほど深い青色をしていた。

「実際にこうしてお会いすることができた……レディ!」

 彼は熱のこもった声でそう言った。

 アナリスは思わずドキッとする。

「あなたは誰ですの?」

 再び質問を繰り返すと、青年はうっとりとした表情を浮かべて口を開いた。

「ああ、そんなに身構えないでください。 私は隣国アルメニアの第三王太子、ラファエル・ランドールといいます」

 青年はそう言いながらアナリスの手をぎゅっと握った。

 そして顔を近づけると、じっと覗き込んでくる。

(な……なに?)

 アナリスは戸惑いながら彼の目を窺った。

 彼はとても美しい青年だった。

 金色に輝く柔らかそうな髪に、吸い込まれそうなほど深く青い瞳が印象的だ。

「隣国の王太子様が……どうしてここにいらして?」

 アナリスは小声で質問しながら、周りを見回した。

 大広間からはだいぶ離れており、貴族たちの姿は見られない。

 廊下には二人しかいないようだった。

「どうしてって、貴女に会いに来たのです」

 ラファエルはそう言うと、じっとアナリスを見つめたまま微笑んだ。

 アナリスは妙な胸騒ぎを覚えながら、彼に向かって質問を続けた。

「私に会いに来たって……何のためにですの?」

 警戒して尋ねると、ラファエルは少し恥ずかしそうに微笑み、静かに口を開いた。

「実は、私は貴女のことをよく知っていたのです。貴女の作品を、ずっと愛読していますからね……」
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