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彼の言葉に、嘘はないようだ。
アナリスは、彼の瞳をまっすぐ見つめながらそう思った。
「だから、隣国からお一人で?」
「いいえ、まさか。第三王子なので少し気ままでいられますが、護衛も連れてきています」
ラファエルは、爽やかな笑顔で頷いた。
見ると、屈強な大男ふたりが、遠目でじっと二人を見つめている。
(衛兵かしらね。さすが王太子様、ちゃんと強そうな騎士さんばかりじゃないの)
妙に感心していると、ラファエルはふと表情を変え、真剣な声で言った。
「しかし、まさか貴女が婚約破棄されるなんて、思いもしなかった」
「え、まあ……」
(わたしだって同じだけど?)
アナリスが返答に困っていると、ラファエルは突然アナリスの両手を握った。
「あの、お願いがあります。どうか、わたしに、あなたの執筆のお手伝いをさせてはもらえないだろうか?」
(ええええ!?)
アナリスは驚いて固まってしまう。
その反応を見ると、彼は慌てて手を離した。
「迷惑でした?」
「え、そういうわけではありませんけど……」
(でも、なんでこのタイミング?)
アナリスは不思議に思いながらも、なんとか笑顔を取り繕う。
「ありがたい申し出ですが。ただ……どうして私なんかに?」
すると、彼は少し俯いて、静かに口を開いた。
「それは……貴女が私の大好きな作品の産みの親で、理想の女性だからです」
「理想っ…!」
ラファエルは、顔を上げてアナリスを見つめた。
その眼差しはとても真剣で熱いものだった。
「ヒロインのメイリーンは、あなたにそっくりだ。美しく、賢く、そして強い女性。貴女は、メイリーンがモデルに違いないです!」
(そ、そんなことないと思うけど……。確かに主人公のヒロインはわたしがモデルよ。でも、かなり話は盛ってるし、過大評価しすぎよ!)
アナリスが困っていると、ラファエルはそっと手を伸ばしてきた。
その手は彼女の頬に触れる寸前で止まり、優しく撫でるように動く。
「ベリーチェ……」
彼はそう呟きながらゆっくりと手を下ろした。アナリスは思わず顔を赤くする。
(わわわ)
「あの……その呼び方やめてもらえませんか? わたし、作家であることは秘密なんですから…」
アナリスは慌てて言った。
「では、なんとお呼びすれば?」
彼は首を傾げてこちらを見つめている。
アナリスは、少し考えて口を開いた。
「ええと……アナリスのままで大丈夫です!」
アナリスは、彼の瞳をまっすぐ見つめながらそう思った。
「だから、隣国からお一人で?」
「いいえ、まさか。第三王子なので少し気ままでいられますが、護衛も連れてきています」
ラファエルは、爽やかな笑顔で頷いた。
見ると、屈強な大男ふたりが、遠目でじっと二人を見つめている。
(衛兵かしらね。さすが王太子様、ちゃんと強そうな騎士さんばかりじゃないの)
妙に感心していると、ラファエルはふと表情を変え、真剣な声で言った。
「しかし、まさか貴女が婚約破棄されるなんて、思いもしなかった」
「え、まあ……」
(わたしだって同じだけど?)
アナリスが返答に困っていると、ラファエルは突然アナリスの両手を握った。
「あの、お願いがあります。どうか、わたしに、あなたの執筆のお手伝いをさせてはもらえないだろうか?」
(ええええ!?)
アナリスは驚いて固まってしまう。
その反応を見ると、彼は慌てて手を離した。
「迷惑でした?」
「え、そういうわけではありませんけど……」
(でも、なんでこのタイミング?)
アナリスは不思議に思いながらも、なんとか笑顔を取り繕う。
「ありがたい申し出ですが。ただ……どうして私なんかに?」
すると、彼は少し俯いて、静かに口を開いた。
「それは……貴女が私の大好きな作品の産みの親で、理想の女性だからです」
「理想っ…!」
ラファエルは、顔を上げてアナリスを見つめた。
その眼差しはとても真剣で熱いものだった。
「ヒロインのメイリーンは、あなたにそっくりだ。美しく、賢く、そして強い女性。貴女は、メイリーンがモデルに違いないです!」
(そ、そんなことないと思うけど……。確かに主人公のヒロインはわたしがモデルよ。でも、かなり話は盛ってるし、過大評価しすぎよ!)
アナリスが困っていると、ラファエルはそっと手を伸ばしてきた。
その手は彼女の頬に触れる寸前で止まり、優しく撫でるように動く。
「ベリーチェ……」
彼はそう呟きながらゆっくりと手を下ろした。アナリスは思わず顔を赤くする。
(わわわ)
「あの……その呼び方やめてもらえませんか? わたし、作家であることは秘密なんですから…」
アナリスは慌てて言った。
「では、なんとお呼びすれば?」
彼は首を傾げてこちらを見つめている。
アナリスは、少し考えて口を開いた。
「ええと……アナリスのままで大丈夫です!」
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