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第1章 人と魔族と精霊と
アリーシャの過去2
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アリーシャから見たライラという女性は、物腰も柔らかく、温和な印象を受けた。
それに、随分若く見える。
副団長とは、アリーシャにとっては俄には信じがたい出来事だった。
彼女の胸中は決して穏やかでは無い。
そんな最中、ライラの表情が柔らかい微笑みを作った。
それが酷くアリーシャの癇に触った。
「アリーシャで構わない。しかし副団長とはな。よほど剣の腕が立つのか?」
ぶっきらぼうに答えるアリーシャに、ベルクートが嬉しそうにニヤリと笑んだ。
「そうだ。こいつは入団僅か一年で我が国の剣術師範の腕前まで行った言わば剣の天才ってやつさ。単純な技の競い合いとなるともはや俺でも敵わねえよ。」
ベルクートがさらっとそんな事を言う。
アリーシャは内心驚愕しつつもそれでもやはり半信半疑な気持ちもあった。
だが普段は明るく少しふざけた部分もあるベルクートだが、剣の事にかけては嘘や冗談を言うような人ではない。
アリーシャは無意識に奥歯を強く噛み締めていた。
「ベルクート様、ご謙遜を。私があなたから一本取った事などまだ一度もないでしょう?」
訝しげなアリーシャの表情を察してか、さらりとベルクートの発言にフォローを入れるライラ。
だがそれは今のアリーシャにとっては逆効果だ。
その発言にはアリーシャから見ると、剣に対する自身と余裕を感じざるを得ない。
「はははっ! まあ実戦ではまだ負ける気はねえよ! ただ、技の競い合いで敵わねえって言ったのは本音だ。アリーシャ、お前ももう十三歳だ。王家の血筋としてそろそろ本格的にヒストリア流剣術を習得していくべきだと思うんだ。そこで、ライラに教わるのはどうかと思ってる」
「――は? 私が……こんな者に?」
豪快に笑いつつ言うベルクートの言葉はアリーシャには俄には信じられない事だった。
それは自然と声が漏れ出てしまうほどに。
副団長をこんな者扱いなど。彼女に対して侮蔑となる表現にも関わらず、そう言わずにはいられなかった。
「そうだ。お前の剣は俺やと違って速さと技のキレが優れている。教わるならライラのようなタイプに教わった方が伸びると思ったんだ。王の許可は取ってある。後はお前次第だ」
アリーシャは俊巡した。
いきなりそんな事を言われてもライラとは今日会ったばかり。
何よりアリーシャは尊敬するベルクートから教わる事を願っているのだ。
その上で、更に父の許可を得ているという事実もアリーシャの気を逆撫でさせた。
父は最近全く剣の手合わせをしてくれなくなってしまったのだ。
幼いアリーシャにとってそれは、自分が見捨てられたのだと。容易にそんな想像を掻き立てられることたのだ。
更にライラに師事するという事。それはこれからの自身の剣の腕前を左右する事に直結する。
尚更即答は出来なかった。
ライラは思考を巡らせているアリーシャを見つめつつ薄く微笑んだ。それからこんな提案を申し出てきたのだ。
「アリーシャ。そんな事を突然言われても困ってしまうでしょう? 大丈夫よ、決めるのはあなたで構わないのですから。ただ、もしよろしければ、一度手合わせいただけないかしら。私もアリーシャの剣の腕前を見てみたいですもの」
「……」
それはアリーシャも望む所だと思った。
僅か一年でヒストリア流剣術師範まで辿り着いたライラの剣の腕前とはどれ程のものなのか。
自然と握る剣に力がこもる。最早あれこれ考える必要などない。
「――承知した。ではライラ、私からも手合わせお願いしたい」
アリーシャは最後は迷いなくライラの申し出を受けた。彼女の瞳が一際大きく輝いた。
「――ふむ。中々のものね」
「?? 何か言ったか?」
何かを呟いたライラの顔を伺うが、彼女は薄く微笑むだけ。首を左右に振る。
「いいえ。何も。さあ、やりましょうか」
「――分かった」
二人は互いに前に出て向き合い一つ握手を交わす。
いよいよだ。
手が触れあった途端、アリーシャの身体に緊張が走る。
普段から幾人もの剣の道を志す者達と手合わせをしているアリーシャだから分かった。
このライラという剣士は、やはりベルクートが言うように強い。
だが今更引き下がる訳にもいかない。当然そんな気など毛頭ないのだが。
相当剣を使い込んでいる者の感触。それに呼応するように、アリーシャの肩が震えた。
ライラの手を離し、互いに視線を交えた後、二人は訓練場の木剣に手を掛けた。
アリーシャの脳裏に、ライラの微笑がやけに焼きついていた。
それに、随分若く見える。
副団長とは、アリーシャにとっては俄には信じがたい出来事だった。
彼女の胸中は決して穏やかでは無い。
そんな最中、ライラの表情が柔らかい微笑みを作った。
それが酷くアリーシャの癇に触った。
「アリーシャで構わない。しかし副団長とはな。よほど剣の腕が立つのか?」
ぶっきらぼうに答えるアリーシャに、ベルクートが嬉しそうにニヤリと笑んだ。
「そうだ。こいつは入団僅か一年で我が国の剣術師範の腕前まで行った言わば剣の天才ってやつさ。単純な技の競い合いとなるともはや俺でも敵わねえよ。」
ベルクートがさらっとそんな事を言う。
アリーシャは内心驚愕しつつもそれでもやはり半信半疑な気持ちもあった。
だが普段は明るく少しふざけた部分もあるベルクートだが、剣の事にかけては嘘や冗談を言うような人ではない。
アリーシャは無意識に奥歯を強く噛み締めていた。
「ベルクート様、ご謙遜を。私があなたから一本取った事などまだ一度もないでしょう?」
訝しげなアリーシャの表情を察してか、さらりとベルクートの発言にフォローを入れるライラ。
だがそれは今のアリーシャにとっては逆効果だ。
その発言にはアリーシャから見ると、剣に対する自身と余裕を感じざるを得ない。
「はははっ! まあ実戦ではまだ負ける気はねえよ! ただ、技の競い合いで敵わねえって言ったのは本音だ。アリーシャ、お前ももう十三歳だ。王家の血筋としてそろそろ本格的にヒストリア流剣術を習得していくべきだと思うんだ。そこで、ライラに教わるのはどうかと思ってる」
「――は? 私が……こんな者に?」
豪快に笑いつつ言うベルクートの言葉はアリーシャには俄には信じられない事だった。
それは自然と声が漏れ出てしまうほどに。
副団長をこんな者扱いなど。彼女に対して侮蔑となる表現にも関わらず、そう言わずにはいられなかった。
「そうだ。お前の剣は俺やと違って速さと技のキレが優れている。教わるならライラのようなタイプに教わった方が伸びると思ったんだ。王の許可は取ってある。後はお前次第だ」
アリーシャは俊巡した。
いきなりそんな事を言われてもライラとは今日会ったばかり。
何よりアリーシャは尊敬するベルクートから教わる事を願っているのだ。
その上で、更に父の許可を得ているという事実もアリーシャの気を逆撫でさせた。
父は最近全く剣の手合わせをしてくれなくなってしまったのだ。
幼いアリーシャにとってそれは、自分が見捨てられたのだと。容易にそんな想像を掻き立てられることたのだ。
更にライラに師事するという事。それはこれからの自身の剣の腕前を左右する事に直結する。
尚更即答は出来なかった。
ライラは思考を巡らせているアリーシャを見つめつつ薄く微笑んだ。それからこんな提案を申し出てきたのだ。
「アリーシャ。そんな事を突然言われても困ってしまうでしょう? 大丈夫よ、決めるのはあなたで構わないのですから。ただ、もしよろしければ、一度手合わせいただけないかしら。私もアリーシャの剣の腕前を見てみたいですもの」
「……」
それはアリーシャも望む所だと思った。
僅か一年でヒストリア流剣術師範まで辿り着いたライラの剣の腕前とはどれ程のものなのか。
自然と握る剣に力がこもる。最早あれこれ考える必要などない。
「――承知した。ではライラ、私からも手合わせお願いしたい」
アリーシャは最後は迷いなくライラの申し出を受けた。彼女の瞳が一際大きく輝いた。
「――ふむ。中々のものね」
「?? 何か言ったか?」
何かを呟いたライラの顔を伺うが、彼女は薄く微笑むだけ。首を左右に振る。
「いいえ。何も。さあ、やりましょうか」
「――分かった」
二人は互いに前に出て向き合い一つ握手を交わす。
いよいよだ。
手が触れあった途端、アリーシャの身体に緊張が走る。
普段から幾人もの剣の道を志す者達と手合わせをしているアリーシャだから分かった。
このライラという剣士は、やはりベルクートが言うように強い。
だが今更引き下がる訳にもいかない。当然そんな気など毛頭ないのだが。
相当剣を使い込んでいる者の感触。それに呼応するように、アリーシャの肩が震えた。
ライラの手を離し、互いに視線を交えた後、二人は訓練場の木剣に手を掛けた。
アリーシャの脳裏に、ライラの微笑がやけに焼きついていた。
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