105 / 135
第1章 人と魔族と精霊と
アリーシャの過去1
しおりを挟む
「おうアリーシャ! 今日もやってるな! そういえばお前、また騎士団の訓練生どもを張り倒したらしいじゃねえか!」
「……フン」
今日もヒストリアの訓練場にて剣を振るうアリーシャ。
彼女に声を掛ける騎士団長のベルクートの声は何やら嬉しそうであった。
それとは裏腹にアリーシャは素っ気無い素振りで剣を振り続けている。
ベルクートの方は見向きもしないのだ。
アリーシャが十三歳の頃であった。
彼女は幼い頃から女であるにも関わらず、秀でた剣の才を見せていた。
同い年の中では相手になる者はほとんどいない。
その実力は天才と呼称するに充分な程であったが周りからそう思われない理由があった。
双子の兄アストリアの存在だ。
アストリアもまた剣に対し、天賦の才を持っていた。
それは天才であるアリーシャの、更にその上をいくものであったのだ。
彼にはアリーシャですら全く以て歯が立たない。
文字通り手も足も出ない程の相手であったのだ。
同期のナンバー2。
そういう中途半端な立ち位置にいる事により、アリーシャは孤立していた。
とは言っても彼女が孤立するには、それだけではなく幾つかの理由があった。
それは剣を極めていくという男社会の中にあって、強いだけではなく女であるという点。
闇魔法の適正があってしまった点。
無口で無愛想である、というような点だろうか。
アリーシャは幼い頃からアストリアと共に、国王である父アンガス王から直々に剣の鍛練を受け、厳しく育てられてきた。
男社会に身を置く事が多かったのも手伝って、周りがどうであろうと気にも留めないあっさりとした性格となる。
それはある意味では美徳となったのかもしれない。
だが彼女の美しさとそれに相反するその性格が逆に周りの反感を買う結果となってしまったのだ。
そしてアストリアは、そんなアリーシャとは対称的であった。
友好的で、温和で聡明。
剣の腕もアリーシャの上を行っている。
そんな兄を身近に持てば周りの者は必然的にアストリアの周りに集まっていく。
物心ついた頃には、既に二人を取り巻く環境には雲泥の差がついていたのだ。
アリーシャは実際の所、そんな事は気にも留めなかったが、双子の兄であるアストリアには強い対抗心を持っていた。
きっかけは特に覚えてはいない。理由など無いようにすら思える。
別段仲が悪いというわけではなかったが、何故か心の底から兄だけには負けたくないという強烈な意地のような気持ちが、アリーシャの胸の奥底には居座り続けていたのだ。
いつからだろうか。
もしかしたらこの世に生を受けたその瞬間から、というのが一番しっくり来るかもしれない。
アリーシャは兄であるアストリアは絶対的に自身の越えるべき存在だと魂が認識しているような。そんな運命めいたものを幼いながらに感じていた。
だからアリーシャが剣を振る理由は専らアストリアだったのだ。
勿論単純に強さに憧れ、剣の道に魅入られてもいた。
そんなアリーシャにとっては、騎士団長であるベルクートは憧れの存在であったのだ。
アリーシャの数少ない心許せる存在であると言ってもいいだろうか。
「なんだ、また一人で訓練か? もう訓練の時間はとっくに終わってるぜ?」
ベルクートは素振りを続けるアリーシャの剣筋を眺めながら、満足気な笑みを浮かべた。
「皆と同じでは人並みの力しか得られないのは道理。一国の姫として……いや、剣の道を極めていく者として人並み程度の努力で私が満足するはずが無いだろう。ましてや兄に追い付くためには、これでも足りないくらいだ」
アリーシャは当たり前のようにそう語る。
出来すぎる兄を持つ事で、その非凡さに気づく事すら難しいのだ。
ベルクートと言葉を交わしつつ、不意にその後ろにきる存在に気づいた。
今日ここに来たのはベルクートだけでない。
見知らぬその顔。だが明らかに騎士の装備。
「…………」
新入りだろうか。
騎士団長であるベルクートが連れだって歩く者というのが気に掛かった。
それに、特に気になったのは、その者は女であるということだ。
アリーシャは一旦剣を振る手を止め彼女を見つめる。
その視線にベルクートは嬉しそうにニヤリと笑う。
「へへっ、アリーシャ! コイツは先日騎士団の副団長に任命されたライラだ。アリーシャに紹介しようと思って連れてきた」
「ライラです。よろしくお願いしますね。王女」
「副……団長……」
これがアリーシャとライラが初めて出会った瞬間であった。
「……フン」
今日もヒストリアの訓練場にて剣を振るうアリーシャ。
彼女に声を掛ける騎士団長のベルクートの声は何やら嬉しそうであった。
それとは裏腹にアリーシャは素っ気無い素振りで剣を振り続けている。
ベルクートの方は見向きもしないのだ。
アリーシャが十三歳の頃であった。
彼女は幼い頃から女であるにも関わらず、秀でた剣の才を見せていた。
同い年の中では相手になる者はほとんどいない。
その実力は天才と呼称するに充分な程であったが周りからそう思われない理由があった。
双子の兄アストリアの存在だ。
アストリアもまた剣に対し、天賦の才を持っていた。
それは天才であるアリーシャの、更にその上をいくものであったのだ。
彼にはアリーシャですら全く以て歯が立たない。
文字通り手も足も出ない程の相手であったのだ。
同期のナンバー2。
そういう中途半端な立ち位置にいる事により、アリーシャは孤立していた。
とは言っても彼女が孤立するには、それだけではなく幾つかの理由があった。
それは剣を極めていくという男社会の中にあって、強いだけではなく女であるという点。
闇魔法の適正があってしまった点。
無口で無愛想である、というような点だろうか。
アリーシャは幼い頃からアストリアと共に、国王である父アンガス王から直々に剣の鍛練を受け、厳しく育てられてきた。
男社会に身を置く事が多かったのも手伝って、周りがどうであろうと気にも留めないあっさりとした性格となる。
それはある意味では美徳となったのかもしれない。
だが彼女の美しさとそれに相反するその性格が逆に周りの反感を買う結果となってしまったのだ。
そしてアストリアは、そんなアリーシャとは対称的であった。
友好的で、温和で聡明。
剣の腕もアリーシャの上を行っている。
そんな兄を身近に持てば周りの者は必然的にアストリアの周りに集まっていく。
物心ついた頃には、既に二人を取り巻く環境には雲泥の差がついていたのだ。
アリーシャは実際の所、そんな事は気にも留めなかったが、双子の兄であるアストリアには強い対抗心を持っていた。
きっかけは特に覚えてはいない。理由など無いようにすら思える。
別段仲が悪いというわけではなかったが、何故か心の底から兄だけには負けたくないという強烈な意地のような気持ちが、アリーシャの胸の奥底には居座り続けていたのだ。
いつからだろうか。
もしかしたらこの世に生を受けたその瞬間から、というのが一番しっくり来るかもしれない。
アリーシャは兄であるアストリアは絶対的に自身の越えるべき存在だと魂が認識しているような。そんな運命めいたものを幼いながらに感じていた。
だからアリーシャが剣を振る理由は専らアストリアだったのだ。
勿論単純に強さに憧れ、剣の道に魅入られてもいた。
そんなアリーシャにとっては、騎士団長であるベルクートは憧れの存在であったのだ。
アリーシャの数少ない心許せる存在であると言ってもいいだろうか。
「なんだ、また一人で訓練か? もう訓練の時間はとっくに終わってるぜ?」
ベルクートは素振りを続けるアリーシャの剣筋を眺めながら、満足気な笑みを浮かべた。
「皆と同じでは人並みの力しか得られないのは道理。一国の姫として……いや、剣の道を極めていく者として人並み程度の努力で私が満足するはずが無いだろう。ましてや兄に追い付くためには、これでも足りないくらいだ」
アリーシャは当たり前のようにそう語る。
出来すぎる兄を持つ事で、その非凡さに気づく事すら難しいのだ。
ベルクートと言葉を交わしつつ、不意にその後ろにきる存在に気づいた。
今日ここに来たのはベルクートだけでない。
見知らぬその顔。だが明らかに騎士の装備。
「…………」
新入りだろうか。
騎士団長であるベルクートが連れだって歩く者というのが気に掛かった。
それに、特に気になったのは、その者は女であるということだ。
アリーシャは一旦剣を振る手を止め彼女を見つめる。
その視線にベルクートは嬉しそうにニヤリと笑う。
「へへっ、アリーシャ! コイツは先日騎士団の副団長に任命されたライラだ。アリーシャに紹介しようと思って連れてきた」
「ライラです。よろしくお願いしますね。王女」
「副……団長……」
これがアリーシャとライラが初めて出会った瞬間であった。
0
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

戦国記 因幡に転移した男
山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。
カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる