私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
89 / 135
第2章 ピスタ襲来、限界を越えたその先に

2-17

しおりを挟む
「――はっ?  ……バカな……」

  口から吐き捨てるような言葉が漏れた。
  剣術の師匠。
  それはつまり魔族が人間の世界に深く入り込んでいる事を意味する。
  その三級魔族はヒストリアに侵攻するために向かったのではない。
  単純に自身の本拠地へ帰還したということだ。
  しかしそれでも良く分からない事がある。

「椎名……お前は何故無事でいられたのだ?」

  椎名はその魔族を敵わないからと黙って見過ごしてここまで戻って来たのだろうか?
  彼女の性格からそれは考えにくい。 
  仮にそうだとしてもそこまでの実力者に遭遇して無傷でいられるのか。
  アリーシャも致命傷を受けはしたが命までは取られなかった。

「――あ……そういうことか……」

「なんとなく分かった?」

「うむ……大体察しはついた。要するに今我々と戦うつもりはなかったということか」

  椎名は神妙ながら頷き肯定を示す。

「ご名答。要するにさ、魔族は私たちの今の力じゃ満足できないんですって。せめてこの街の魔族を全てやっつけて、力を上げて、ヒストリアに一回りも二回りも強くなった状態で戦いに来いってのよ」

「……」

  やはりそうだ。あいつら魔族は私達で楽しんでいる。
  そう思いながらいつかのグリアモールの顔が脳裏に浮かぶ。
  やはり奴らは時間潰しの遊戯にでも興じているつもりなのか。
  私達を自分達の退屈凌ぎの道具だとでも思っているのではないか。

「――あ」

「???」

  ふと私はまたある事に気づく。椎名は今度は不思議そうに私の顔を見ていたが、私は今、正直生きた心地がしなかった。自分の侵した失敗に、どんどんと顔が青ざめていくのだ。

「隼人くん?  一体どうしたってのよ?」

  私はこくりと唾を飲み込み、喉を鳴らす。
  この後の彼女の気持ちを考えると、口の中がどうしようもなく乾いて仕方なかった。

「椎名、……工藤はどうしたのだ?  私達より先にここに向かったはずだが?」  

「え――」

  工藤という言葉を聞いて、予想通り椎名の顔色が変わる。

「……うそ……うそよ……」

  椎名は戦慄き震えながらそのか細い両腕で自身の体を抱き、その場にしゃがみ込んだ。
  と思うといきなり私の胸ぐらを掴み、いつになくすごい剣幕で私を睨みつけた。

「隼人くんっ!  どうして工藤くんを一人にしたのっ!!」

「――っ」

「工藤くんがいなくなっちゃったのよ!?  多分魔族に連れ去られちゃったの!  それに、フィリアさんは!?  こんな敵地に彼らを一人にするなんて迂闊すぎるわよ!」

「……すまない」

  椎名の言葉に私は黙ってうなだれる事しか出来なかった。
  完全に迂闊だった。
  皆をバラバラにしてしまった事は私の判断が招いた結果だ。
  どうして敵がもっと強大であると考えなかったのか。
  皆一緒に行動した方が危険が少ないのは火を見るより明らかではないか。
  私の心に自分達の力に対する過信が無かったかと言えば嘘になる。
  ここに来るまでの道中で魔物との戦いに於いて一度たりとも危うい場面などなかった。それで力を過信した。

「めぐみちゃんっ!」

  食って掛かる椎名を見かねた美奈が間に入ってきた。
  椎名は美奈の顔を見てハッと気づいたようになった。すると掴んだ腕の力は弱まり、そのまま私から離れた。
  罰が悪そうに地面を見据え右手で左手の二の腕を強く握る椎名。

「……ごめん、隼人くん。こんなの皆の責任なはずなのに……責めるようなこと言って。私、バカだ。もっと冷静にならなきゃ」

「いや、いい。椎名は悪くない。謝って済む問題ではないかもしれないが、それでも謝らせてくれ」

  椎名は首を振り暗く沈んだ表情を見せる。彼女のこんな姿を見るのは初めてだった。

「めぐみちゃん……」

  そんな椎名を優しく抱き止める美奈。
  椎名は泣いてこそいなかったが、とても辛そうで、見ている私も胸が苦しくなった。
  一方で私は今回の事に微かな違和感を感じていた。
  街が襲われている事が問題であるはずなのに、その問題を明らかに利用されている。
  それに、この結果を得るためには幾つかの要因が必要なはず――。
  何にせよ、色々とタイミングが良すぎるのだ。
  改めて思う。
  魔族は私達が思っている以上に周到に罠を仕掛けてきているのかもしれない。
  その上で、私達を弄ぶように痛めつける事を楽しんでいるように思えた。

「椎名、すまないとは思うが、落ち込んでいる暇はない。先ずはこの街の状況を打破したい。力を貸してくれ」

  抱き合い、慰め合う二人には悪いとは思いながらも、そう声を掛けた。
  また椎名に睨まれるかもしれないと思ったが、彼女はすぐに美奈から離れ、パンッと自身の頬を張った。

「ええもちろん!  やってやろうじゃない!」

  その瞬間、いつもの明るく元気な椎名がもう目の前にはいたのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに 撥ねられてしまった。そして良太郎 が目覚めると、そこは異世界だった。 さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、 ゴーレムと化していたのだ。良太郎が 目覚めた時、彼の目の前にいたのは 魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は 未知の世界で右も左も分からない状態 の良太郎と共に冒険者生活を営んで いく事を決めた。だがこの世界の裏 では凶悪な影が……良太郎の異世界 でのゴーレムライフが始まる……。 ファンタジーバトル作品、開幕!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~
ファンタジー
何処にでもいそう………でいない女子高校生「公塚 蓮」《きみづか れん》 家族を亡くし、唯一の肉親のお爺ちゃんに育てられた私は、ある日突然剣と魔法が支配する異世界 【エルシェーダ】に飛ばされる。 そこで出会った少女に何とプロポーズされ!? しかもレベル?ステータス?………だけど私はレベル・ステータスALLゼロ《システムエラー》!? 前途多難な旅立ちの私に、濃いめのキャラをした女の子達が集まって……… 小説家になろうで先行連載中です https://ncode.syosetu.com/n1658gu/

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...