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第2章 ピスタ襲来、限界を越えたその先に
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ピスタの街は普段は一体どんな様相を見せていたのだろう。
街の人々の笑い声や通りを走り回る子供達。このレンガ造りの街並みを見ていると、そんな平和そのものな日常風景がふと脳裏に浮かび上がる。
だがそんな街の表情は今は一切鳴りを潜め、悲鳴や街が壊される音が黒煙に混じり耳に届いてくる。
確かに私は世界の平和のために戦うとか、魔王を見事打ち倒す勇者と讃えられる栄誉などには全く興味がない。
出来る事なら穏やかに四人でこの世界を旅し、何とか元の世界へ帰還出来るその日まで緩やかに日々を重ねていければそれで良い。今でもそんな風に思っている。
だがこんな凄惨な状況を目の当たりにして、何もせずに黙って見て見ぬ振りを決め込んで。自分達だけ良ければ良いなどと、そんな簡単に自分と他人をすっぱりと割り切って考えられる程利口な人間ではないのだ。
沸々と湧き上がる、言葉に尽くしきれないほどの衝動が胸を打つ。
「隼人くん、大丈夫?」
美奈が私の背中に手を置いて声を掛けてきた。
スッと一撫でされるだけで私の心は一旦落ち着きを取り戻す。
この何気無い動作に一体私はどれ程救われるのか。
「――ああ。大丈夫なのだ」
「出来るだけのこと、しよう?」
私の顔を覗き込んだ美奈の表情も決して胸中穏やかと言った風には見えなかった。
それでも私を気使い、そう言葉を掛けてもらえている自分自身が急に情けなくなってくる。
私はフッと微笑んで美奈の頭に手を乗せる。
「ありがとう、美奈。本当にもう大丈夫だ」
「うんっ」
ようやく美奈も笑顔を見せてくれた。
お互い落ち着きを取り戻した所で私は街の中心の方を見据える。
ここから西の方向だ。そこには何だか黒い靄が漂っているように見える。私の能力の影響だろう。
恐らくその方角が最も魔族が集まっていると思われる。
煙の数や悲鳴もそちらから一番耳に入ってくるのだ。
そういった状況下に置かれている場所はそこかしこにあるというわけではない。
街の中にいる魔族が散り散りになり、あちこちで問題を起こしているのではないようだ。
そうされてはとてもではないがこちらの人数では対処しきれない。
ある程度塊になり、数ヶ所に集まっているだけならば好都合。
一気に敵を叩き、少ないアクションで事を治める事が可能だ。
「美奈、では街の中心へと向かおう」
私はその方角を見据え、歩を進めていく。美奈もこくりと頷き、一歩後をついてきてくれる。
――その時だった。
「隼人くん! 美奈!」
空から見知った顔が現れた。椎名だ。
「――し、椎名……それは一体……」
私は椎名の様子に目を見張った。
正確には椎名が担いで連れているアリーシャの変わり果てた姿にだ。
「アリーシャさんっ!? すごい怪我!?」
彼女は顔面蒼白でぐったりとし、腹部から多量の出血の痕があった。
かなりの重傷で手当てしなければまずい状況だという事は明白であった。
「美奈! 治してあげて!」
「うんっ!」
慌てて美奈が駆け寄り、椎名が地面にアリーシャを横たえる。
美奈は直ぐ様彼女の傷口に手を当てた。
「すごい出血……これじゃあ傷は塞がっても安静にしてた方が良さそう」
美奈の能力でみるみるうちに傷は塞がっていくが、それでもアリーシャは血を流しすぎたのか顔面蒼白のまま。勿論目を覚ますこともない。
美奈の能力、その原理は魔法を掛けた相手の自然回復力を早める事により傷の修復を行うというもの。
なので今のように傷の回復は出来ても失った血液を増加させたり、体力の回復までは行えないのだ。
この世界の回復魔法ヒールならば、マナの力で失われた血液や壊れた組織を再生する事が出来るらしいのだが、生憎今そんな事が出来る者が私達の周りには存在していない。
唯一フィリアが使えるが、彼女は危険だと思い街の外に置いてきた。
まさかこんなに簡単にアリーシャが重傷を負う事まで想定していなかったので今回それが仇となった。
今からフィリアの元へとアリーシャを連れて行く事も不可能ではないが、それでこの街が持ちこたえられるかどうか。
二手に分かれてもいいがそれでは大幅な戦力ダウンとなる。
ただでさえ少ない人数だというのに、これ以上数を減らして戦うのは残る面子も相当危険に晒されるのだ。流石にそれは避けた方がいいだろう。
しかし――――。
「一体何があったのだ? アリーシャがこれほどの傷を負わされる相手とは……」
色々思案しつつも斥候部隊であった椎名にこの街の状況を聞き、情報を集める事から始める。
椎名は予想以上に切迫した表情。そこからは少なからず恐怖の気持ちが感じ取れた。
「……三級魔族に会ったわ。私も相対したけどかなりの強さだった。正直今の私じゃ勝てっこない」
「――むう……」
三級魔族。
その言葉と椎名の態度に私は戦慄する。
アリーシャの実力ならば、四級魔族が数匹でも遅れは取らないはすだ。
それは先のネストの村での戦いで実証されている。そこに椎名も加わっているのであれば尚更だ。
それが三級魔族一体だけでこんなにも戦況が覆されてしまうのか。
「でもね、そいつはもうこの街にはいない。四級以下の魔族を残してヒストリアに行ったわ」
「ヒストリア? それは一体どういうことなのだ?」
更に続けられた椎名の言葉に、私は若干の違和感を覚える。
三級魔族がこの街を去り、ヒストリアに行く。という事はヒストリアを滅ぼしに行ったという事なのだろうか。いまいち得心がいかない。
そんな私の心の内を見透かすように、椎名は衝撃的な事実を私に告げたのだ。
「隼人くん、アリーシャをこんなにした三級魔族はね、彼女の剣術の師匠だったのよ」
街の人々の笑い声や通りを走り回る子供達。このレンガ造りの街並みを見ていると、そんな平和そのものな日常風景がふと脳裏に浮かび上がる。
だがそんな街の表情は今は一切鳴りを潜め、悲鳴や街が壊される音が黒煙に混じり耳に届いてくる。
確かに私は世界の平和のために戦うとか、魔王を見事打ち倒す勇者と讃えられる栄誉などには全く興味がない。
出来る事なら穏やかに四人でこの世界を旅し、何とか元の世界へ帰還出来るその日まで緩やかに日々を重ねていければそれで良い。今でもそんな風に思っている。
だがこんな凄惨な状況を目の当たりにして、何もせずに黙って見て見ぬ振りを決め込んで。自分達だけ良ければ良いなどと、そんな簡単に自分と他人をすっぱりと割り切って考えられる程利口な人間ではないのだ。
沸々と湧き上がる、言葉に尽くしきれないほどの衝動が胸を打つ。
「隼人くん、大丈夫?」
美奈が私の背中に手を置いて声を掛けてきた。
スッと一撫でされるだけで私の心は一旦落ち着きを取り戻す。
この何気無い動作に一体私はどれ程救われるのか。
「――ああ。大丈夫なのだ」
「出来るだけのこと、しよう?」
私の顔を覗き込んだ美奈の表情も決して胸中穏やかと言った風には見えなかった。
それでも私を気使い、そう言葉を掛けてもらえている自分自身が急に情けなくなってくる。
私はフッと微笑んで美奈の頭に手を乗せる。
「ありがとう、美奈。本当にもう大丈夫だ」
「うんっ」
ようやく美奈も笑顔を見せてくれた。
お互い落ち着きを取り戻した所で私は街の中心の方を見据える。
ここから西の方向だ。そこには何だか黒い靄が漂っているように見える。私の能力の影響だろう。
恐らくその方角が最も魔族が集まっていると思われる。
煙の数や悲鳴もそちらから一番耳に入ってくるのだ。
そういった状況下に置かれている場所はそこかしこにあるというわけではない。
街の中にいる魔族が散り散りになり、あちこちで問題を起こしているのではないようだ。
そうされてはとてもではないがこちらの人数では対処しきれない。
ある程度塊になり、数ヶ所に集まっているだけならば好都合。
一気に敵を叩き、少ないアクションで事を治める事が可能だ。
「美奈、では街の中心へと向かおう」
私はその方角を見据え、歩を進めていく。美奈もこくりと頷き、一歩後をついてきてくれる。
――その時だった。
「隼人くん! 美奈!」
空から見知った顔が現れた。椎名だ。
「――し、椎名……それは一体……」
私は椎名の様子に目を見張った。
正確には椎名が担いで連れているアリーシャの変わり果てた姿にだ。
「アリーシャさんっ!? すごい怪我!?」
彼女は顔面蒼白でぐったりとし、腹部から多量の出血の痕があった。
かなりの重傷で手当てしなければまずい状況だという事は明白であった。
「美奈! 治してあげて!」
「うんっ!」
慌てて美奈が駆け寄り、椎名が地面にアリーシャを横たえる。
美奈は直ぐ様彼女の傷口に手を当てた。
「すごい出血……これじゃあ傷は塞がっても安静にしてた方が良さそう」
美奈の能力でみるみるうちに傷は塞がっていくが、それでもアリーシャは血を流しすぎたのか顔面蒼白のまま。勿論目を覚ますこともない。
美奈の能力、その原理は魔法を掛けた相手の自然回復力を早める事により傷の修復を行うというもの。
なので今のように傷の回復は出来ても失った血液を増加させたり、体力の回復までは行えないのだ。
この世界の回復魔法ヒールならば、マナの力で失われた血液や壊れた組織を再生する事が出来るらしいのだが、生憎今そんな事が出来る者が私達の周りには存在していない。
唯一フィリアが使えるが、彼女は危険だと思い街の外に置いてきた。
まさかこんなに簡単にアリーシャが重傷を負う事まで想定していなかったので今回それが仇となった。
今からフィリアの元へとアリーシャを連れて行く事も不可能ではないが、それでこの街が持ちこたえられるかどうか。
二手に分かれてもいいがそれでは大幅な戦力ダウンとなる。
ただでさえ少ない人数だというのに、これ以上数を減らして戦うのは残る面子も相当危険に晒されるのだ。流石にそれは避けた方がいいだろう。
しかし――――。
「一体何があったのだ? アリーシャがこれほどの傷を負わされる相手とは……」
色々思案しつつも斥候部隊であった椎名にこの街の状況を聞き、情報を集める事から始める。
椎名は予想以上に切迫した表情。そこからは少なからず恐怖の気持ちが感じ取れた。
「……三級魔族に会ったわ。私も相対したけどかなりの強さだった。正直今の私じゃ勝てっこない」
「――むう……」
三級魔族。
その言葉と椎名の態度に私は戦慄する。
アリーシャの実力ならば、四級魔族が数匹でも遅れは取らないはすだ。
それは先のネストの村での戦いで実証されている。そこに椎名も加わっているのであれば尚更だ。
それが三級魔族一体だけでこんなにも戦況が覆されてしまうのか。
「でもね、そいつはもうこの街にはいない。四級以下の魔族を残してヒストリアに行ったわ」
「ヒストリア? それは一体どういうことなのだ?」
更に続けられた椎名の言葉に、私は若干の違和感を覚える。
三級魔族がこの街を去り、ヒストリアに行く。という事はヒストリアを滅ぼしに行ったという事なのだろうか。いまいち得心がいかない。
そんな私の心の内を見透かすように、椎名は衝撃的な事実を私に告げたのだ。
「隼人くん、アリーシャをこんなにした三級魔族はね、彼女の剣術の師匠だったのよ」
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