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第2章 ピスタ襲来、限界を越えたその先に
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レンガ造りの街並。普段であれば街の人々が賑やかに行き交い、陽光に照らされて温かな雰囲気を持つ和やかな街であったに違いない。
けれど今はその建物の所々が破損し、中には倒壊して原形を留めていないものまであった。
火の手が上がり、建物の性質上次々と燃え移っていくことはないものの、凄惨な有り様を私達に十二分に見せつけてくる。
大通りを少し駆けていくと、やがて街の中心であろう広場に出た。
そこには天使のような石像が真ん中に佇む円形の噴水があり、サラサラと涼しげな体裁を掲げていたが、噴水を挟んで向こう側に、この街には似つかわしくない風景が視界の中に飛び込んできた。
魔族。その数ざっと四十。椎名の話から鑑みるに、三級魔族でありアリーシャの剣術の師匠であるライラは私達を試している。
自分の所に辿り着くまでに私達が越えるべき試練を用意してきたのだ。
簡単に言うとこれらの魔族を全て返り討ちにしてみせろ、という事だ。
「へへへ……。逃げずに来るとはいい度胸だなあ」
私達の姿を捉えると、真ん中にいる魔族がしゃがれた野太い声を上げる。
レッサーデーモンの群れの中に、特異な格好をした魔族が五体。その内の一体。
一見人型をしているが、頭を始め、各所は鷲のそれである。大きな翼は恐らく空を自由に飛び回れる。真っ先に声を上げた所から察するに、この群れの一応の長という事なのだろう。
他の四級魔族も同じように人型で、それぞれ狼、亀、大木、蜥蜴を思わせる様相であった。
「これでこの街の魔族は全部か」
魔族は満足そうに頷く。この街に残る魔族は私達が話をしている間にライラから命令が下されたのか、椎名が感知した頃にはこの場所に待機していた。
当たり前であるが周りには人の気配は何も無い。
人を襲い街を破壊する事を止めてこの場所に集まって来た魔族。そんな一群の魔族に掛かっていくような勇気のある戦士はどうやらこの街にはいないようである。
「ああそうだ。なあ人間よ、俺たちとゲームをしようぜ」
「ゲームだと?」
奇しくもいつかの私と同じような提案を持ち出される。
鷲の魔族は鷲の顔をしながらも、人の嘲笑を思わせる表情を作り、こちらに話してきた。
魔族に人間のような喜怒哀楽の感情は薄いとは聞いていたが、四級魔族はその殆どが人間に対して嘲りや蔑みという感情しか持ち合わせていないように感じる。
今回のような提案もその最たるものだ。
最も私の時とは目的も内情も別物だが。
「そうだ、ゲームだよ。俺たち40の魔族と、お前たち4人の人間でよぉ。バトル・ロワイアルってのはどうだ? 最も、お前たちに拒否権は無いがな」
ニヤニヤと人間を舐めくさった表情からは、四級魔族が例外無く低能な会話しか出来ないという事を容易に想像させた。
だが私も言われるままとするつもりは無い。
「人間ごときを相手に随分と御大層ではないか」
「ああん?」
「そうであろう。人よりも高位の存在である筈の魔族が、寄ってたかってたった四人の人間に戦いを挑むとは。滑稽だな」
「ちっ、てめえっ! 舐めた口聞いてくれんじゃねえかぁ。覚悟は出来てんだろうなあ」
途端に鷲の魔族を始め、魔族達の目が血走っていく。今にも襲い掛かってきそうな勢いだ。
「まあ待て」
「何だコラァ!」
「私は正直言うと、強い。はっきり言って四体程度では物足りない位だ」
より一層勢いを増していく魔族の気勢に火に油を注ぐような話を敢えてけしかける。
「ハァッ!?」
案の定どんどん目が血走っていく。
「だから更に譲歩しようではないか。この戦い、後ろの姫と一緒にいる者、この二人は一切お前達に攻撃をしないと誓おう。私と隣の椎名の二人だけで相手をしようではないか。その代わりお前達も私達二人への攻撃のみとしてもらう。それでいかがかな? 鷲頭よ」
現在アリーシャは気を失ったまま。とてもでは無いが戦いに参加出来ない。更に言うと美奈もどちらかと言えば補助や回復に回るタイプだ。手負いの騎士と戦闘タイプで無い者を含めて四人で戦うくらいなら最初から私と椎名だけで迎え撃つ方がマシだというだけの話だ。
それにこう言っておけば二人に手出しする事は一旦避けられるだろう。というか私や椎名を中心に狙うよう仕向けたのだからそうしてもらわなければ困る、というのが本音だ。
その辺は粗暴な知能や品位しか持たない四級魔族をある意味信頼しての行動でもあるのだが。
鷲の魔族は案の定私の顔を鬼の形相で睨めつけ、わなわなと肩を震わせ怒号の限りに叫んだ。
「いい度胸じゃねえかっ! クソ人間があっ!! たっぷりと後悔させてやるぜえぇぇぇっっ!! 先ずはお前ら二人をぶち殺して、その後で後ろの二人もたっぷり可愛がってやるぜえっ! ははあっ!!」
そして戦いの火蓋は切って落とされた。
けれど今はその建物の所々が破損し、中には倒壊して原形を留めていないものまであった。
火の手が上がり、建物の性質上次々と燃え移っていくことはないものの、凄惨な有り様を私達に十二分に見せつけてくる。
大通りを少し駆けていくと、やがて街の中心であろう広場に出た。
そこには天使のような石像が真ん中に佇む円形の噴水があり、サラサラと涼しげな体裁を掲げていたが、噴水を挟んで向こう側に、この街には似つかわしくない風景が視界の中に飛び込んできた。
魔族。その数ざっと四十。椎名の話から鑑みるに、三級魔族でありアリーシャの剣術の師匠であるライラは私達を試している。
自分の所に辿り着くまでに私達が越えるべき試練を用意してきたのだ。
簡単に言うとこれらの魔族を全て返り討ちにしてみせろ、という事だ。
「へへへ……。逃げずに来るとはいい度胸だなあ」
私達の姿を捉えると、真ん中にいる魔族がしゃがれた野太い声を上げる。
レッサーデーモンの群れの中に、特異な格好をした魔族が五体。その内の一体。
一見人型をしているが、頭を始め、各所は鷲のそれである。大きな翼は恐らく空を自由に飛び回れる。真っ先に声を上げた所から察するに、この群れの一応の長という事なのだろう。
他の四級魔族も同じように人型で、それぞれ狼、亀、大木、蜥蜴を思わせる様相であった。
「これでこの街の魔族は全部か」
魔族は満足そうに頷く。この街に残る魔族は私達が話をしている間にライラから命令が下されたのか、椎名が感知した頃にはこの場所に待機していた。
当たり前であるが周りには人の気配は何も無い。
人を襲い街を破壊する事を止めてこの場所に集まって来た魔族。そんな一群の魔族に掛かっていくような勇気のある戦士はどうやらこの街にはいないようである。
「ああそうだ。なあ人間よ、俺たちとゲームをしようぜ」
「ゲームだと?」
奇しくもいつかの私と同じような提案を持ち出される。
鷲の魔族は鷲の顔をしながらも、人の嘲笑を思わせる表情を作り、こちらに話してきた。
魔族に人間のような喜怒哀楽の感情は薄いとは聞いていたが、四級魔族はその殆どが人間に対して嘲りや蔑みという感情しか持ち合わせていないように感じる。
今回のような提案もその最たるものだ。
最も私の時とは目的も内情も別物だが。
「そうだ、ゲームだよ。俺たち40の魔族と、お前たち4人の人間でよぉ。バトル・ロワイアルってのはどうだ? 最も、お前たちに拒否権は無いがな」
ニヤニヤと人間を舐めくさった表情からは、四級魔族が例外無く低能な会話しか出来ないという事を容易に想像させた。
だが私も言われるままとするつもりは無い。
「人間ごときを相手に随分と御大層ではないか」
「ああん?」
「そうであろう。人よりも高位の存在である筈の魔族が、寄ってたかってたった四人の人間に戦いを挑むとは。滑稽だな」
「ちっ、てめえっ! 舐めた口聞いてくれんじゃねえかぁ。覚悟は出来てんだろうなあ」
途端に鷲の魔族を始め、魔族達の目が血走っていく。今にも襲い掛かってきそうな勢いだ。
「まあ待て」
「何だコラァ!」
「私は正直言うと、強い。はっきり言って四体程度では物足りない位だ」
より一層勢いを増していく魔族の気勢に火に油を注ぐような話を敢えてけしかける。
「ハァッ!?」
案の定どんどん目が血走っていく。
「だから更に譲歩しようではないか。この戦い、後ろの姫と一緒にいる者、この二人は一切お前達に攻撃をしないと誓おう。私と隣の椎名の二人だけで相手をしようではないか。その代わりお前達も私達二人への攻撃のみとしてもらう。それでいかがかな? 鷲頭よ」
現在アリーシャは気を失ったまま。とてもでは無いが戦いに参加出来ない。更に言うと美奈もどちらかと言えば補助や回復に回るタイプだ。手負いの騎士と戦闘タイプで無い者を含めて四人で戦うくらいなら最初から私と椎名だけで迎え撃つ方がマシだというだけの話だ。
それにこう言っておけば二人に手出しする事は一旦避けられるだろう。というか私や椎名を中心に狙うよう仕向けたのだからそうしてもらわなければ困る、というのが本音だ。
その辺は粗暴な知能や品位しか持たない四級魔族をある意味信頼しての行動でもあるのだが。
鷲の魔族は案の定私の顔を鬼の形相で睨めつけ、わなわなと肩を震わせ怒号の限りに叫んだ。
「いい度胸じゃねえかっ! クソ人間があっ!! たっぷりと後悔させてやるぜえぇぇぇっっ!! 先ずはお前ら二人をぶち殺して、その後で後ろの二人もたっぷり可愛がってやるぜえっ! ははあっ!!」
そして戦いの火蓋は切って落とされた。
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