私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
90 / 135
第2章 ピスタ襲来、限界を越えたその先に

2-18

しおりを挟む
 レンガ造りの街並。普段であれば街の人々が賑やかに行き交い、陽光に照らされて温かな雰囲気を持つ和やかな街であったに違いない。
 けれど今はその建物の所々が破損し、中には倒壊して原形を留めていないものまであった。
 火の手が上がり、建物の性質上次々と燃え移っていくことはないものの、凄惨な有り様を私達に十二分に見せつけてくる。

 大通りを少し駆けていくと、やがて街の中心であろう広場に出た。
 そこには天使のような石像が真ん中に佇む円形の噴水があり、サラサラと涼しげな体裁を掲げていたが、噴水を挟んで向こう側に、この街には似つかわしくない風景が視界の中に飛び込んできた。

 魔族。その数ざっと四十。椎名の話から鑑みるに、三級魔族でありアリーシャの剣術の師匠であるライラは私達を試している。
 自分の所に辿り着くまでに私達が越えるべき試練を用意してきたのだ。
 簡単に言うとこれらの魔族を全て返り討ちにしてみせろ、という事だ。

「へへへ……。逃げずに来るとはいい度胸だなあ」 

 私達の姿を捉えると、真ん中にいる魔族がしゃがれた野太い声を上げる。
 レッサーデーモンの群れの中に、特異な格好をした魔族が五体。その内の一体。
 一見人型をしているが、頭を始め、各所は鷲のそれである。大きな翼は恐らく空を自由に飛び回れる。真っ先に声を上げた所から察するに、この群れの一応の長という事なのだろう。
 他の四級魔族も同じように人型で、それぞれ狼、亀、大木、蜥蜴を思わせる様相であった。

「これでこの街の魔族は全部か」

 魔族は満足そうに頷く。この街に残る魔族は私達が話をしている間にライラから命令が下されたのか、椎名が感知した頃にはこの場所に待機していた。
 当たり前であるが周りには人の気配は何も無い。
 人を襲い街を破壊する事を止めてこの場所に集まって来た魔族。そんな一群の魔族に掛かっていくような勇気のある戦士はどうやらこの街にはいないようである。

「ああそうだ。なあ人間よ、俺たちとゲームをしようぜ」

「ゲームだと?」

 奇しくもいつかの私と同じような提案を持ち出される。
 鷲の魔族は鷲の顔をしながらも、人の嘲笑を思わせる表情を作り、こちらに話してきた。 
 魔族に人間のような喜怒哀楽の感情は薄いとは聞いていたが、四級魔族はその殆どが人間に対して嘲りや蔑みという感情しか持ち合わせていないように感じる。
 今回のような提案もその最たるものだ。
 最も私の時とは目的も内情も別物だが。

「そうだ、ゲームだよ。俺たち40の魔族と、お前たち4人の人間でよぉ。バトル・ロワイアルってのはどうだ? 最も、お前たちに拒否権は無いがな」

 ニヤニヤと人間を舐めくさった表情からは、四級魔族が例外無く低能な会話しか出来ないという事を容易に想像させた。
 だが私も言われるままとするつもりは無い。

「人間ごときを相手に随分と御大層ではないか」

「ああん?」

「そうであろう。人よりも高位の存在である筈の魔族が、寄ってたかってたった四人の人間に戦いを挑むとは。滑稽だな」

「ちっ、てめえっ! 舐めた口聞いてくれんじゃねえかぁ。覚悟は出来てんだろうなあ」

 途端に鷲の魔族を始め、魔族達の目が血走っていく。今にも襲い掛かってきそうな勢いだ。

「まあ待て」

「何だコラァ!」

「私は正直言うと、強い。はっきり言って四体程度では物足りない位だ」

 より一層勢いを増していく魔族の気勢に火に油を注ぐような話を敢えてけしかける。

「ハァッ!?」

 案の定どんどん目が血走っていく。

「だから更に譲歩しようではないか。この戦い、後ろの姫と一緒にいる者、この二人は一切お前達に攻撃をしないと誓おう。私と隣の椎名の二人だけで相手をしようではないか。その代わりお前達も私達二人への攻撃のみとしてもらう。それでいかがかな? 鷲頭よ」

 現在アリーシャは気を失ったまま。とてもでは無いが戦いに参加出来ない。更に言うと美奈もどちらかと言えば補助や回復に回るタイプだ。手負いの騎士と戦闘タイプで無い者を含めて四人で戦うくらいなら最初から私と椎名だけで迎え撃つ方がマシだというだけの話だ。
 それにこう言っておけば二人に手出しする事は一旦避けられるだろう。というか私や椎名を中心に狙うよう仕向けたのだからそうしてもらわなければ困る、というのが本音だ。
 その辺は粗暴な知能や品位しか持たない四級魔族をある意味信頼しての行動でもあるのだが。
 鷲の魔族は案の定私の顔を鬼の形相で睨めつけ、わなわなと肩を震わせ怒号の限りに叫んだ。

「いい度胸じゃねえかっ! クソ人間があっ!! たっぷりと後悔させてやるぜえぇぇぇっっ!! 先ずはお前ら二人をぶち殺して、その後で後ろの二人もたっぷり可愛がってやるぜえっ! ははあっ!!」

 そして戦いの火蓋は切って落とされた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヘリオンの扉

ゆつみかける
ファンタジー
見知らぬ森で目覚める男。欠落した記憶。罪人と呼ばれる理由。目覚め始める得体のしれない力。縁もゆかりもない世界で、何を得て何を失っていくのか。チート・ハーレム・ざまあ無し。苦しみに向き合い、出会った人々との絆の中で強くなっていく、そんな普通の異世界冒険譚。 ・第12回ネット小説大賞 一次選考通過 ・NolaブックスGlanzの注目作品に選ばれました。 2024.12/06追記→読みやすくなるように改稿作業中です。現在43話まで終了、続きも随時進めていきます。(設定や展開の変更はありません、一度読んだ方が読み直す必要はございません) ⚠Unauthorized reproduction or AI learnin.

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...