62 / 135
間章2 椎名と工藤の腕試し
1
しおりを挟む
私こと椎名めぐみはつい最近、この異世界グラン・ダルシに足を踏み入れた。
と言ってもどういう仕組みか、自分がいた地球からこの場所にいきなり転移してしまう、という何とも非現実的な方法でたどり着いたのだ。
そして飛ばされてきたこの世界で、私が余りにも可愛かったものだからいきなり目の前に現れた虎みたいな魔物が涎を垂らして襲い掛かってきた。
けれど、風の力と超人的な身体能力を得たクールビューティーな私。何だかんだで障害を華麗に乗り越えて、今ではそこら辺の魔物なんて相手にならないくらい強く成長したのだ。
だけど、本当に怖いのは魔物なんかじゃない。この世界を滅ぼそうとしている種族、魔族だ。
現在私はその魔族に命を狙われている。
もちろんそれは私が可愛いすぎるから。
時に類い稀なる才能と美貌というものは敵を作ってしまうものなのだ。
こんな私に嫉妬した悪の権化たる魔族が、この世界に私を無理矢理引き入れて、私の全てを奪おうとしているのぴえん。
でも、私だってそれを黙って手を拱(こまね)いて見ているつもりは毛頭ない。
魔族を見事討ち滅ぼして、絶対に元の世界に帰ってみせる!
そしてその目的のために、私は更に強くなってみせる!
そんな事を思いながら、私は今日も修行に勤しむのだ。
うんうんこんな感じかな。
我ながら中々ドラマチックなあらすじになったんじゃないかしら。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ひゃっほーっ!」
ごうごうと私の耳を劈(つんざ)く風切り音と共に、私の体はどんどん上へ上へと上昇していく。
風を操る能力に目覚めてから、早いものでもう一週間以上が過ぎた。
私は最早、意のままに風を操り、鳥のように自由に空を滑空する事ができるようになった。
いや、空を滑空どころか、これはもう泳いでいると言っても過言ではない。
「ふんふふんふふ~ん♪」
鼻唄混じりに空を泳いでいく私。
最初の頃こそちょっと怖かったけれど、いざ慣れると本当に気持ちいいものだ。
この雲一つない異世界の澄みきった空を、今私だけが縦横無尽に駆け巡っているのだ。
と、思いきや。
ここから約二キロメートル程東の空に、中型の魔物を察知した。
察知と言っても雲一つないこの空を飛んでいる中型の魔物なのであれば感知能力に頼らなくてもすでに視界に捉えてはいるのだけれど、今特筆すべきはそんなことじゃない。
最初の頃はせいぜい三十メートルがやっとのことだった風による感知能力も、この一週間で半径五キロ圏内程にまでなったのだ。
その感度に達したのが二日前。そこからはさらに感度が上がるということはなくなったので、もしかするとこの辺で感知スキルは限界に達したのかもしれない。
けれど五キロ先の動向まで解るのならそれで充分と言えた。
私は風を操ってまっすぐにその魔物の方へと向かう。
「ギャアアッ!」
見通しのいい空に似つかわしくないしゃがれた鳴き声にその成り。
それは体長五メートル程のうす黒い大鷲のような魔物だった。
私の接近に気づいた魔物は、その場で大きく羽ばたいてこちらに突風を見舞ってきた。
挨拶もなしに攻撃してくるとかほんとデリカシーのないヤツ。
私は左手を一薙ぎして風を相殺。次に右手を振り上げて、風の刃を発生させた。
その風で魔物をあっという間に真っ二つ。
その魔物は一瞬にして完全に事切れて、森の中へと落下していった。
魔物は森へ到達する前に魔石へと変わり、私はその先に回り込んでそれを受け止める。
「ふう……もうこの辺の魔物じゃ相手にならないわね」
私はこの一週間でだいぶ強くなった……と思う。
現に始めの頃こそ苦戦したものの、ここ最近では魔物相手に終始楽勝ムードで戦えるようになったし、その分風の扱いも見違えて上手くなったと思える。
元々能力との相性が良かったのか、一日二日で出来るようになったことはたくさんあったけれど、それでもあの頃とは使える能力の規模も、威力も精度も比べ物にならない。
「……何か、そろそろ退屈かも」
私は風にぽしゅんと乗っかり、仰向けになって青い空を見ながらポツリと呟いた。
あと二日もすれば、王国からの使者が私たちのお世話になっている村、ネストにやって来る。
そしてそのまま四人揃って王国へと旅立つ予定なのだけれど、さすがに暇を持て余してきていた。
「ふ~む……」
私はあごに手を当て思案顔を作りながら、ふと周りの感知を始める。
空気の流れから様々な状況が脳裏に飛び込んでくる。
木々の揺れる様。動物。村の人々。
実際のところそこまで精密に把握できるわけじゃないのだけれど、ここかは半径五キロ圏内の風の感知により感じられる存在、動くものは余り多くない。
だから私は目的の彼をすぐに捉えることが出来た。
「せっかくだからちょっとちょっかい出しにいくか」
私は暇潰しにでもと、彼の元へと飛んでいくのだった。
と言ってもどういう仕組みか、自分がいた地球からこの場所にいきなり転移してしまう、という何とも非現実的な方法でたどり着いたのだ。
そして飛ばされてきたこの世界で、私が余りにも可愛かったものだからいきなり目の前に現れた虎みたいな魔物が涎を垂らして襲い掛かってきた。
けれど、風の力と超人的な身体能力を得たクールビューティーな私。何だかんだで障害を華麗に乗り越えて、今ではそこら辺の魔物なんて相手にならないくらい強く成長したのだ。
だけど、本当に怖いのは魔物なんかじゃない。この世界を滅ぼそうとしている種族、魔族だ。
現在私はその魔族に命を狙われている。
もちろんそれは私が可愛いすぎるから。
時に類い稀なる才能と美貌というものは敵を作ってしまうものなのだ。
こんな私に嫉妬した悪の権化たる魔族が、この世界に私を無理矢理引き入れて、私の全てを奪おうとしているのぴえん。
でも、私だってそれを黙って手を拱(こまね)いて見ているつもりは毛頭ない。
魔族を見事討ち滅ぼして、絶対に元の世界に帰ってみせる!
そしてその目的のために、私は更に強くなってみせる!
そんな事を思いながら、私は今日も修行に勤しむのだ。
うんうんこんな感じかな。
我ながら中々ドラマチックなあらすじになったんじゃないかしら。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ひゃっほーっ!」
ごうごうと私の耳を劈(つんざ)く風切り音と共に、私の体はどんどん上へ上へと上昇していく。
風を操る能力に目覚めてから、早いものでもう一週間以上が過ぎた。
私は最早、意のままに風を操り、鳥のように自由に空を滑空する事ができるようになった。
いや、空を滑空どころか、これはもう泳いでいると言っても過言ではない。
「ふんふふんふふ~ん♪」
鼻唄混じりに空を泳いでいく私。
最初の頃こそちょっと怖かったけれど、いざ慣れると本当に気持ちいいものだ。
この雲一つない異世界の澄みきった空を、今私だけが縦横無尽に駆け巡っているのだ。
と、思いきや。
ここから約二キロメートル程東の空に、中型の魔物を察知した。
察知と言っても雲一つないこの空を飛んでいる中型の魔物なのであれば感知能力に頼らなくてもすでに視界に捉えてはいるのだけれど、今特筆すべきはそんなことじゃない。
最初の頃はせいぜい三十メートルがやっとのことだった風による感知能力も、この一週間で半径五キロ圏内程にまでなったのだ。
その感度に達したのが二日前。そこからはさらに感度が上がるということはなくなったので、もしかするとこの辺で感知スキルは限界に達したのかもしれない。
けれど五キロ先の動向まで解るのならそれで充分と言えた。
私は風を操ってまっすぐにその魔物の方へと向かう。
「ギャアアッ!」
見通しのいい空に似つかわしくないしゃがれた鳴き声にその成り。
それは体長五メートル程のうす黒い大鷲のような魔物だった。
私の接近に気づいた魔物は、その場で大きく羽ばたいてこちらに突風を見舞ってきた。
挨拶もなしに攻撃してくるとかほんとデリカシーのないヤツ。
私は左手を一薙ぎして風を相殺。次に右手を振り上げて、風の刃を発生させた。
その風で魔物をあっという間に真っ二つ。
その魔物は一瞬にして完全に事切れて、森の中へと落下していった。
魔物は森へ到達する前に魔石へと変わり、私はその先に回り込んでそれを受け止める。
「ふう……もうこの辺の魔物じゃ相手にならないわね」
私はこの一週間でだいぶ強くなった……と思う。
現に始めの頃こそ苦戦したものの、ここ最近では魔物相手に終始楽勝ムードで戦えるようになったし、その分風の扱いも見違えて上手くなったと思える。
元々能力との相性が良かったのか、一日二日で出来るようになったことはたくさんあったけれど、それでもあの頃とは使える能力の規模も、威力も精度も比べ物にならない。
「……何か、そろそろ退屈かも」
私は風にぽしゅんと乗っかり、仰向けになって青い空を見ながらポツリと呟いた。
あと二日もすれば、王国からの使者が私たちのお世話になっている村、ネストにやって来る。
そしてそのまま四人揃って王国へと旅立つ予定なのだけれど、さすがに暇を持て余してきていた。
「ふ~む……」
私はあごに手を当て思案顔を作りながら、ふと周りの感知を始める。
空気の流れから様々な状況が脳裏に飛び込んでくる。
木々の揺れる様。動物。村の人々。
実際のところそこまで精密に把握できるわけじゃないのだけれど、ここかは半径五キロ圏内の風の感知により感じられる存在、動くものは余り多くない。
だから私は目的の彼をすぐに捉えることが出来た。
「せっかくだからちょっとちょっかい出しにいくか」
私は暇潰しにでもと、彼の元へと飛んでいくのだった。
0
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

コンバット
サクラ近衛将監
ファンタジー
藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。
ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。
忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる