私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
61 / 135
間章1 隼人と美奈の魔法修行

しおりを挟む
  広場にはチャドルさんのウィンドの魔法の音で、何人かの村人が集まってきていた。
  私達勇者が修行しているのを見物したいという想いからか、それは分からなくはない。
  だが初めての魔法。それを眺める人々。
  美奈にとってそれはかなり緊張感の高まる状況であり、彼女の表情には明らかな戸惑いの色が浮かんでいた。

「美奈、大丈夫そうか?  無理しなくとも、まだ修行は始まったばかりなのだ。時間はまだまだある」

「あ、うん」

  私の言葉に彼女は俯いた顔を上げ、それから深呼吸を1つ。

「明日にしてもかまわないのだぞ?」

  懸念して掛けた言葉に、けれど美奈は微笑み首を振った。

「ううん。大丈夫、やってみるよ」

  とはいえ落ち着かないのか、もう一度深呼吸。

「はあ~、ふう~」

  そんな仕草も愛らしく可愛らしい。
  一生懸命頑張ろうという様が伝わってきて、応援したくなる気持ちが自然と湧いてくるのだ。
  それでもこちらとしては気が気でないのは確か。
  何というか、子を見守る保護者のような気持ちか。

「お姉ちゃんっ、頑張ってっ」

  唐突に少し離れて事を見守っていた少女がそんな声援を送ってくれた。
  美奈は微笑みこくりと頷く。

「ありがとう。頑張ってみるね?」

  彼女の言葉に気持ちが和んだのか、やがて意を決したように美奈は真剣な表情になった。

「――チャドルさん。私、やってみます」

「おう、いつでもいいぜっ。ぶちかましてみせてくれやっ」

  ニヤリと笑うチャドルさん。
  今は茶化すことなく静かに美奈の動向を見守っている。
  やはり自身も魔法を使うだけあってここは黙っているべきだと判断したのか。その辺の気づかいはまあ、流石と言っておこう。
  美奈はもう一度ふうと短い息を吐いた。
  そのままぴたと動きを止め、今度こそ岩を見据え、精神を集中させるように目を閉じたのだ。
  それに呼応するように周りに静寂が訪れる。
  直後、美奈の体がぼんやりと輝いているように見えた。
 ――息を飲む私やチャドルさん、そして村の人達。

「この身に宿りし光のマナよ この手に集いて一条の光の矢となれ」

  美奈の詠唱が始まり一息に言いきった。その最中から、淡い光はより強い光となったのである。
  光が彼女の手の先へと集まり、指先で留まったかと思うと、それは光の球体となりビクンと力強く脈打った。

「ライトニングスピア!」
 
  力ある言葉と共に光は矢となり一直線に飛んでいった。かと思えば次の瞬間には目の前の岩へと直撃していた。
  当たった衝撃で光は一層その輝きを増し、ズドンッ、と落雷のような大きな音を辺りに響かせた。
  その光景に思わずどよめく観衆。さんざめく残響。
  音の余韻が途切れたら、静寂が訪れ――やがてその静寂はすぐに歓声へと変わったのだ。

「すごいぞっ!  ミナちゃん!」

  チャドルさんも感心したように寄ってきて美奈の肩を叩く。

「えへへ……できちゃいましまね」

  未だ自分が起こした事象が信じられないのか、美奈は頭をぽりぽりと掻きながらはにかんだ笑みを浮かべていた。
  そんな折、ちらとこちらを見た彼女と視線がかち合う。
  私も彼女に近づきにこやかな笑みを見せた。

「美奈、本当に凄いのだ」

「……へへ。嬉しいな」

  美奈は賞賛の言葉に恥ずかしそうにしながらも、素直に喜び笑顔を浮かべていた。
  嬉しそうな彼女の顔を見ていると、こちらまで幸せな気持ちになってしまう。
  思わず彼女の手を取り見つめ続けてしまう。

「美奈」

  私の熱い視線に応えるように頬を上気させて見つめ返す瞳は憂いを帯び、吸い寄せられるようだ。

「……隼人……くん」

「おいおいっ、皆見てるんだがっ!?」

「「おわっ!?」」

  完全に自分達の世界へと入り込みそうなところをチャドルさんに止められ私達は慌てて離れた。

「……たくよお」

  恨めしそうなチャドルさんの声を聞きながら流石に反省する。
  場所をわきまえねばな。
  そう思いつつちらと横を見ると美奈はやっぱりこちらを見ていて、にこやかに微笑んでくれていた。
  それが堪らなく可愛らしくて愛おしいと思ってしまうのだ。
  今回は私自身、魔法という能力を得られなかった。
  それは勿論残念なことではあるが、美奈にはその才能があった。
  そのことが今は、自分のことのように誇らしい。
  さて、私もここからは自分自身の特性を活かした修行に切り替えていくとするか。
  そんな事を思いながら空を見上げる。
  陽の光はどこまでも晴れやかで、空は空気の淀みが一切ないかのように澄みきっている。
  空は私の心をスッと穏やかに、心地よくしてくれるのだ。
しおりを挟む
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...