63 / 135
間章2 椎名と工藤の腕試し
2
しおりを挟む
「……いい感じだ」
俺は手の中の塊に意識を向け続けながら呟いた。
それと同時に額に吹き出した汗を拭う。
この一週間、暇を見つけては繰り返すこの行為に流石にだいぶ慣れてきてはいた。
かなりの根気はいったけど、ちょっとやそっとで根をあげるつもりは毛頭なかったのだ。
まず始めに土の中から一際硬そうな岩を見つけ、それを先日目覚めた土を操る能力を駆使して地中から取り出した。
そこから直径一メートルはあろうかというその岩に、何度も何度も圧力を加えていった。
地味な作業だったが丁寧に丁寧に少しずつ、隙間を埋めるように。
理論的なことは俺にはよく分からない。
だが全方向から圧力を掛けられた岩は段々と小さく固まっていき、カチコチに硬くなっていってくのが分かった。
その岩は延々と繰り返されるその作業の中で、やがて直径三十センチ程の大きさの灰色の石というよりは金属の塊のようになった。
それが昨日。
一晩寝て今朝からは周りの粗を少しずつ削ぎ落とす作業に入った。
相当に硬い石となったそれは、最終的に色艶のある直方体の物質へと変化した。
ここまでくればそれは石というよりステンレスとか、見たことはないけど鋼とか、そんな言葉がしっくり来るんじゃないかっていうほどのものになったのだ。
そして最後に仕上げとして形を思い描いていたように整える。
細やかな作業はかなりの時間と精神力を擁したが、それはようやくイメージ通りのものになったのだった。
修行の合間とはいえかなり頑張った。
「……ふう~」
長いため息とも取れる空気が肺から外に送られて、その勢いでというわけじゃないが、俺はそのまま後ろに倒れ込み、天を仰いだ。
見上げた空は青々と澄みきっていて、今の俺を祝福しているようにすら感じる。
やってやった……。
とにかくイメージ通りのものが出来た。
心は疲労感と同時に心地よい達成感に満たされて、その場に寝転がりながら、俺は一つ大きく伸びをした。
「はーっ!! ……やっと、やっとできたぜっ!」
「何が?」
「わひゃあっ!!?」
不意に掛けられた思いもよらない返答に柄にもない声が漏れ出て跳び上がる。
心臓が口から飛び出るかと思うくらいびっくりした。
俺は思わず脇に置いていたそれに手を伸ばし、後ろに隠す。
彼女は幸いなことに、俺が隠したそれの存在に気づいてはいないようだった。
不思議そうにこちらを見るその瞳には未だはてと疑問が浮かんでいる
俺は今しがた完成したそれを、腰に提げた巾着袋の中に慌てて押し込んだ。
別に気づかれても構いはしないのだが、こういうものはタイミングというものがある。
俺はきょとんとした表情でこちらを見ている彼女に出来る限り平静を装っていつものように振る舞った。
「いや椎名っ! お前心臓に悪いから! いきなり出てくんなよなっ!」
「おーげさね~。ちょっと声掛けただけじゃない」
特に悪びれる様子もなく、彼女は眉根を寄せて腕を組み、その場にすっくと立ってこちらを見下ろしていた。
俺は手の中の塊に意識を向け続けながら呟いた。
それと同時に額に吹き出した汗を拭う。
この一週間、暇を見つけては繰り返すこの行為に流石にだいぶ慣れてきてはいた。
かなりの根気はいったけど、ちょっとやそっとで根をあげるつもりは毛頭なかったのだ。
まず始めに土の中から一際硬そうな岩を見つけ、それを先日目覚めた土を操る能力を駆使して地中から取り出した。
そこから直径一メートルはあろうかというその岩に、何度も何度も圧力を加えていった。
地味な作業だったが丁寧に丁寧に少しずつ、隙間を埋めるように。
理論的なことは俺にはよく分からない。
だが全方向から圧力を掛けられた岩は段々と小さく固まっていき、カチコチに硬くなっていってくのが分かった。
その岩は延々と繰り返されるその作業の中で、やがて直径三十センチ程の大きさの灰色の石というよりは金属の塊のようになった。
それが昨日。
一晩寝て今朝からは周りの粗を少しずつ削ぎ落とす作業に入った。
相当に硬い石となったそれは、最終的に色艶のある直方体の物質へと変化した。
ここまでくればそれは石というよりステンレスとか、見たことはないけど鋼とか、そんな言葉がしっくり来るんじゃないかっていうほどのものになったのだ。
そして最後に仕上げとして形を思い描いていたように整える。
細やかな作業はかなりの時間と精神力を擁したが、それはようやくイメージ通りのものになったのだった。
修行の合間とはいえかなり頑張った。
「……ふう~」
長いため息とも取れる空気が肺から外に送られて、その勢いでというわけじゃないが、俺はそのまま後ろに倒れ込み、天を仰いだ。
見上げた空は青々と澄みきっていて、今の俺を祝福しているようにすら感じる。
やってやった……。
とにかくイメージ通りのものが出来た。
心は疲労感と同時に心地よい達成感に満たされて、その場に寝転がりながら、俺は一つ大きく伸びをした。
「はーっ!! ……やっと、やっとできたぜっ!」
「何が?」
「わひゃあっ!!?」
不意に掛けられた思いもよらない返答に柄にもない声が漏れ出て跳び上がる。
心臓が口から飛び出るかと思うくらいびっくりした。
俺は思わず脇に置いていたそれに手を伸ばし、後ろに隠す。
彼女は幸いなことに、俺が隠したそれの存在に気づいてはいないようだった。
不思議そうにこちらを見るその瞳には未だはてと疑問が浮かんでいる
俺は今しがた完成したそれを、腰に提げた巾着袋の中に慌てて押し込んだ。
別に気づかれても構いはしないのだが、こういうものはタイミングというものがある。
俺はきょとんとした表情でこちらを見ている彼女に出来る限り平静を装っていつものように振る舞った。
「いや椎名っ! お前心臓に悪いから! いきなり出てくんなよなっ!」
「おーげさね~。ちょっと声掛けただけじゃない」
特に悪びれる様子もなく、彼女は眉根を寄せて腕を組み、その場にすっくと立ってこちらを見下ろしていた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!

兄貴がイケメンすぎる件
みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。
しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。
しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。
「僕と付き合って!」
そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。
「俺とアイツ、どっちが好きなの?」
兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。
それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。
世奈が恋人として選ぶのは……どっち?
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる