私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
7 / 135
ネストの村編 第1章 変わる日常

しおりを挟む
「――とりあえず状況を整理しようか」

  私は美奈を背負い山を下りながら皆に声をかける。
  幸い木々はまばらに生えており、枝葉も少なく日当たりがよくて見通しがいい。
  皆靴下しか履いておらず、ほとんど裸足みたいな状態だったが、落葉が絨毯のように敷き詰められており歩きづらくはなかった。
  私達は今は木々に視界を阻まれて見えなくなっている村の方向に当たりをつけながら、緩やかな山道を一列に並んで歩いた。

「私達は先程まで、美奈の部屋で夏休みの宿題をしていた。だが、気がつけば四人共この山の中腹にいた。飛ばされた……というべきか?」

「うん。そうなんだと思う。四人揃って夢遊病や記憶障害、幻覚なんてことになるわけないし、今もほんとは美奈の部屋に四人いる、なんて集団催眠みたいなこと、あると思う?」

  椎名はすっかりと元気を取り戻し、先頭を歩く私の後ろをすたすたと小気味良いリズムでついてきている。

「……いや、そうは思えない。今が夢を見ていたり現実でないと言うにはあまりにも意識がはっきりし過ぎている。だがそれでも夢ではないと説明できないようなことが起こり過ぎているのも事実だが……」

「……そう……だね」

「あー!  おまえら何真剣に考えこんでんだよ!そんなん考えるだけムダじゃねーか!  こんなのもうどう考えても異世界に飛ばされたんだよ!  異世界っ!  こんなのどう考えても異世界転移に決まってんだろーがよっ!」

「は?」

  真面目な話をしていると工藤が横から割り込んできた。
  工藤は何だかどや顔で得意気に鼻をこする。
  見ると工藤はいつの間に拾ったのか、その手には先程の石と、もう片方の手に頑丈そうな太い木の枝を所持している。

「何を言っているのだ工藤。そんな事……」

「いや、工藤くんの言う通りかも」

「――な……椎名まで」

  食い気味で椎名も工藤のぶっ飛んだ発想に同意する。
  そんな事を言われても俄には信じようがない。
  非現実的過ぎる。正直素直に受け入れるなど無理な話だ。
  椎名は髪を掻き上げふふんと鼻を鳴らす。

「だってさっきの生き物、どう見てもおかしかった。見たこともないし動物園にいるような、そんな可愛いげのあるものじゃない。私たちを殺そうとしていたし。あんな怖い野生動物普通駆除されるでしょ? それに今向かっている村だって、さっき上から見た感じだと、どう見ても日本の家じゃない。煙突があったり、レンガ造りだったり。それとも外国にテレポートしちゃった? まあどのみちこの先問題は山積みなんだし、いっそのことそんな突拍子もない考えでいた方がいちいちパニクらなくて済んで楽かもよ?」

「……」

  突拍子もない考え。確かに椎名の言うことも一理ある。
  どのみちどう考えようと今のところ答えは出ないのだ。
  確かにそれくらいの気構えでいた方がいいのかもしれない。
  ここは異世界で私達は突然こちらの世界へと連れて来られた。
  直後運悪く魔物に遭遇し、美奈が怪我を負った。
  とまあそんな感じか。
  何にせよとにかく今は前に進むしかない。
  うだうだ考え込むにしても、如何せんまだまだ情報が少な過ぎるのだ。

「あとね、私――ちょっと試したいことがあるの」

  椎名が急に小走りで私を追い抜き、とことこと前に出てきて一度足を止めて振り向いた。

「試したい事?」

「うん」

  椎名は頷くとおもむろに上を向き、ある一点を見つめた。
  視線の先には針葉樹の枝。そう思った矢先、彼女はそこ目掛けて飛び上がったのだ。

「なっ!?」

  私は思わず声を上げてしまう。
  その行動自体は何をしているのか、程度の事だったのだが問題はその高さだ。
  おそらく優に三メートルは跳び上がったのだ。
  椎名は枝をタッチしたかと思うとふわりと地に着地した。
  とさりと地を踏みしめ再び立ち上がる。

「やっぱりね」

「は? ……ど、どうなっているのだ椎名っ!?」

「おいっ、一体なんだよ今の!?」

  二人は驚きを通り越して呆れのような表情で椎名を見ている。
  椎名は嬉しそうにひらひらと手を振る。
  そこには先程枝についていた枯れ葉が一枚握られていたのだ。
しおりを挟む
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...