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ネストの村編 第1章 変わる日常
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「おい椎名っ!? しっかりしろって! ――って熱っ!」
工藤が慌てて椎名に駆け寄り、肩に手を触れた瞬間すぐに離した。
どうやら椎名の体が熱を帯びているようなのだ。
「く……体……が、熱いっ……」
そう言いうずくまる椎名。
直後、椎名の体からうっすらと光が灯り、もやもやと煙が立ち始める。
一体彼女の身に何が起こっているというのか。
「おい! 何がどうなってんだ!? ど、どうすりゃいいんだっ!? わけわかんねーよ隼人!」
「私もどうすればいいのか……」
「クソッ! クソッ! 椎名っ、しっかりしろっ!」
工藤はおろおろとした後、せめてもと背中をさすってやった。
それに効果があるようには思えないが、何かしてやりたいという気持ちの現れなのだろう。
私も最早何をどうするべきなのか、考えても何も答えは出せぬまま、黙って二人の様子を見ているしかなかった。
こんな状況で、混乱しないなど無理だ。
「う……。……大丈夫……治まって……きたかも……」
少しして椎名がそう呟いた。
一瞬やせ我慢かとも思ったが、そうではないようだ。
彼女の体の光は薄れ、立ち上っていた煙も消失したのだ。
弱まった光は最後には何事もなかったかのように消え、その場にうずくまったままの椎名。
横顔を覗くと彼女の目はしっかりと見開かれていた。
どこか不思議そうに、自身の手や体をまじまじと見つめている。
「椎名っ! 大丈夫なのか!?」
「……う、うん。ちょっと体が火照ってる感じはするけど、もう大丈夫!」
あれ程苦しんでいたにも関わらず、元気な笑顔を見せた。
スッと立ち上がり、ガッツポーズを決めた。
どうやら強がりで私達を安心させようと言っているとかそういうわけではなさそうだ。
それでも明らかな変化が彼女には訪れていた。
それは彼女の見た目という部分での意味だ。
「椎名……お前……髪が……」
「え? 何が? 私の髪がどうかしたの?」
彼女はきょとんとした顔をした。
椎名の髪はショートで肩口程の長さしかない。
自分では髪の変化には気づけないのだ。
「その……緑色になっているぞ?」
「――――は?」
そう告げるとさらにきょとんとした表情を見せる。
そうなのだ。彼女の黒髪が光が収まったと同時に濃緑へと変化していたのだ。
「何なの? これ」
椎名は不思議そうに自分の手の平を見つめていた。
人は強いストレスを受けると髪が全て白髪になったりすることがあると聞く。
それに似たような現象なのではとそんな事を考える。
「椎名、何ともないか? どこか痛いところなどは?」
「ううん? もうなんともないよ? むしろさっきより元気なくらい」
そう言う椎名の顔色はとても血色が良く、混乱の中誰よりも元気に見えた。
ここへ来てから私の考えの及ばないことばかりだ。
まさか夢でも見ているのではと思う。それか集団催眠の類いか何かか。
次の瞬間にはまた美奈の部屋へと舞い戻り、再び勉強を再開する。
そうはならないだろうか。
そう考えつつ自嘲気味な笑顔を浮かべる。
「隼人くん?」
そんな私を怪訝な表情で見つめる椎名。
「あ、いや。大丈夫なのだ」
こんなはっきりした意識の中で催眠状態などあり得ない話だ。
私は半ば諦めにも似た気持ちを抱えながらため息を吐いた。
「椎名! ホントになんともねーのかよ!?」
工藤が椎名を心配そうに覗きこむ。声が少し震えていた。
それが興奮なのか、怯えや恐怖といった感情から来るのか。俄には分かりづらい。
工藤は元々物事をあまり深く考えるようなタイプではないのだ。
「……そうね。とにかく体は何ともないみたいだから。私のことよりも早く美奈を安全な場所に連れていって治療しないと。今のこの状態、絶対普通じゃないもん。もしさっきの動物の毒が原因で、それが致死性のものだったりしたら取り返しのつかないことになる。私、そんなの絶対に嫌! 耐えられないっ」
そんな工藤の心配をよそに、椎名は美奈の方へと駆け寄り、額に手を当てた。
椎名は最早完全に問題なしと見える。
それよりも彼女にとっては美奈の方が心配で、気が気ではないらしい。
自分の不甲斐なさに責任を感じているのか。
かくいう私も腕の中にいる彼女の熱をひしひしと感じ、先程から嫌な予感が胸をズキズキと締めつけていた。
「……わかったのだ。今は椎名が元気に戻っただけでもよしとしようではないか。では、行こう」
私は抱えている形だった美奈をおんぶしつつ二人に呼びかけた。
こんな時なのに、美奈の体の柔らかさにドキドキしてしまう私は薄情なのか、危機感が足りていないのか。
それでもそのお陰で幾分か悲観的な気持ちを和らげることが出来たのも事実なのだ。
「え? 行くってどこへ?」
椎名は再びきょとんとした。
さっきからきょとんとしっぱなしの彼女。普段は頭の回転が良い印象なのだが、バタバタしていてまだ呆けているのだろうか。
彼女は悲観的な雰囲気な時程お茶らけたり明るく振る舞おうとしたりする部分がある。
だからふとそんな考えが脳裏を過ったが、今の彼女の様子を鑑みるに色々な情報が一気に押し寄せてきて単純に余裕がないのかもしれない。
私は小さく息を吐き出す。
「ここは山の中腹。さっきここへ来る時に裾野の方に集落のようなものが見えてな。そこへ行けば誰か人がいるかもしれない」
「え!? そうなのか?」
工藤は驚き目を見開く。さっきからリアクションがオーバーだ。
元々こういう奴なのだが、今はそれが暑苦しくて、面倒な気持ちになる。
「私達が来た道を戻ればすぐ見えるはずだ。恐らく今から行けば夕方にはつけるだろう」
そう言って私は美奈を背負い歩きだした。
不安が消えたわけではない。
今も耳元で美奈の荒い吐息が聞こえてくる。
その度に焦りややるせなさが次々と胸に去来しては積み重なっていく。
だがそれでも私は顔を上げて前を向いた。動かなければ結局何も状況は変わりはしないのだ。
工藤が慌てて椎名に駆け寄り、肩に手を触れた瞬間すぐに離した。
どうやら椎名の体が熱を帯びているようなのだ。
「く……体……が、熱いっ……」
そう言いうずくまる椎名。
直後、椎名の体からうっすらと光が灯り、もやもやと煙が立ち始める。
一体彼女の身に何が起こっているというのか。
「おい! 何がどうなってんだ!? ど、どうすりゃいいんだっ!? わけわかんねーよ隼人!」
「私もどうすればいいのか……」
「クソッ! クソッ! 椎名っ、しっかりしろっ!」
工藤はおろおろとした後、せめてもと背中をさすってやった。
それに効果があるようには思えないが、何かしてやりたいという気持ちの現れなのだろう。
私も最早何をどうするべきなのか、考えても何も答えは出せぬまま、黙って二人の様子を見ているしかなかった。
こんな状況で、混乱しないなど無理だ。
「う……。……大丈夫……治まって……きたかも……」
少しして椎名がそう呟いた。
一瞬やせ我慢かとも思ったが、そうではないようだ。
彼女の体の光は薄れ、立ち上っていた煙も消失したのだ。
弱まった光は最後には何事もなかったかのように消え、その場にうずくまったままの椎名。
横顔を覗くと彼女の目はしっかりと見開かれていた。
どこか不思議そうに、自身の手や体をまじまじと見つめている。
「椎名っ! 大丈夫なのか!?」
「……う、うん。ちょっと体が火照ってる感じはするけど、もう大丈夫!」
あれ程苦しんでいたにも関わらず、元気な笑顔を見せた。
スッと立ち上がり、ガッツポーズを決めた。
どうやら強がりで私達を安心させようと言っているとかそういうわけではなさそうだ。
それでも明らかな変化が彼女には訪れていた。
それは彼女の見た目という部分での意味だ。
「椎名……お前……髪が……」
「え? 何が? 私の髪がどうかしたの?」
彼女はきょとんとした顔をした。
椎名の髪はショートで肩口程の長さしかない。
自分では髪の変化には気づけないのだ。
「その……緑色になっているぞ?」
「――――は?」
そう告げるとさらにきょとんとした表情を見せる。
そうなのだ。彼女の黒髪が光が収まったと同時に濃緑へと変化していたのだ。
「何なの? これ」
椎名は不思議そうに自分の手の平を見つめていた。
人は強いストレスを受けると髪が全て白髪になったりすることがあると聞く。
それに似たような現象なのではとそんな事を考える。
「椎名、何ともないか? どこか痛いところなどは?」
「ううん? もうなんともないよ? むしろさっきより元気なくらい」
そう言う椎名の顔色はとても血色が良く、混乱の中誰よりも元気に見えた。
ここへ来てから私の考えの及ばないことばかりだ。
まさか夢でも見ているのではと思う。それか集団催眠の類いか何かか。
次の瞬間にはまた美奈の部屋へと舞い戻り、再び勉強を再開する。
そうはならないだろうか。
そう考えつつ自嘲気味な笑顔を浮かべる。
「隼人くん?」
そんな私を怪訝な表情で見つめる椎名。
「あ、いや。大丈夫なのだ」
こんなはっきりした意識の中で催眠状態などあり得ない話だ。
私は半ば諦めにも似た気持ちを抱えながらため息を吐いた。
「椎名! ホントになんともねーのかよ!?」
工藤が椎名を心配そうに覗きこむ。声が少し震えていた。
それが興奮なのか、怯えや恐怖といった感情から来るのか。俄には分かりづらい。
工藤は元々物事をあまり深く考えるようなタイプではないのだ。
「……そうね。とにかく体は何ともないみたいだから。私のことよりも早く美奈を安全な場所に連れていって治療しないと。今のこの状態、絶対普通じゃないもん。もしさっきの動物の毒が原因で、それが致死性のものだったりしたら取り返しのつかないことになる。私、そんなの絶対に嫌! 耐えられないっ」
そんな工藤の心配をよそに、椎名は美奈の方へと駆け寄り、額に手を当てた。
椎名は最早完全に問題なしと見える。
それよりも彼女にとっては美奈の方が心配で、気が気ではないらしい。
自分の不甲斐なさに責任を感じているのか。
かくいう私も腕の中にいる彼女の熱をひしひしと感じ、先程から嫌な予感が胸をズキズキと締めつけていた。
「……わかったのだ。今は椎名が元気に戻っただけでもよしとしようではないか。では、行こう」
私は抱えている形だった美奈をおんぶしつつ二人に呼びかけた。
こんな時なのに、美奈の体の柔らかさにドキドキしてしまう私は薄情なのか、危機感が足りていないのか。
それでもそのお陰で幾分か悲観的な気持ちを和らげることが出来たのも事実なのだ。
「え? 行くってどこへ?」
椎名は再びきょとんとした。
さっきからきょとんとしっぱなしの彼女。普段は頭の回転が良い印象なのだが、バタバタしていてまだ呆けているのだろうか。
彼女は悲観的な雰囲気な時程お茶らけたり明るく振る舞おうとしたりする部分がある。
だからふとそんな考えが脳裏を過ったが、今の彼女の様子を鑑みるに色々な情報が一気に押し寄せてきて単純に余裕がないのかもしれない。
私は小さく息を吐き出す。
「ここは山の中腹。さっきここへ来る時に裾野の方に集落のようなものが見えてな。そこへ行けば誰か人がいるかもしれない」
「え!? そうなのか?」
工藤は驚き目を見開く。さっきからリアクションがオーバーだ。
元々こういう奴なのだが、今はそれが暑苦しくて、面倒な気持ちになる。
「私達が来た道を戻ればすぐ見えるはずだ。恐らく今から行けば夕方にはつけるだろう」
そう言って私は美奈を背負い歩きだした。
不安が消えたわけではない。
今も耳元で美奈の荒い吐息が聞こえてくる。
その度に焦りややるせなさが次々と胸に去来しては積み重なっていく。
だがそれでも私は顔を上げて前を向いた。動かなければ結局何も状況は変わりはしないのだ。
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