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ネストの村編 第1章 変わる日常
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「私、さっきの光が治まった後から感覚がおかしいの。研ぎ澄まされてるっていうか、体が軽すぎるっていうか。多分だけど、今までの五倍から十倍くらい身体能力が高くなってる気がする。今だって、軽く跳んだだけだよ? それで自分の背丈よりも高く跳べるなんてありえないよね?」
「――っ!」
椎名の言葉に私は衝撃を隠しきれなかった。
どういう原理が分からないが、まさかそんな事があり得るのだろうか。
「てゆーか何で椎名だけ!? もしかして俺もそうなってんのかよ!?」
工藤はあっけらかんとしてそんな質問を投げかける。
「……わからない。でも多分、あの光が原因だと思うから、私だけなんだと思う」
椎名は腕を組み、考えこむ仕草をした。
そこで私にはある疑問が浮かんでくるのだ。
「椎名、何故椎名はあの時光に包まれたのだ?」
「う~ん……」
椎名は腕を組み考んだまま更に低く唸ってしまった。
彼女が言うようにその光が原因なのであれば、これから私達も同じような体験をする可能性がある。
ならばできるだけそれに関する情報を掴んでおきたいのだ。
椎名の状態に危険がないとは言えない。
同じような現象がこの先私と工藤に起こるとしても、それはできれば意図的なものとして扱っていきたいという思いがあった。
「う~ん。多分だけど、あの時私は美奈にあの生き物から庇ってもらって、そのせいで美奈が怪我を負ったじゃない? その現状に私はものすごく悔しくて、腹が立って、もやもやして。心の底からこんなの嫌だって思ったの。そしたら急に体が熱くなってきて。だからそういう感情の起伏? みたいなものがきっかけになったんじゃないかな?」
「で? 椎名は体に何か異変は感じないのか? 酷く疲れるとか。そんな感じはないのだろうか?」
「ん? それはないかも。どっちかっていうと、すこぶる元気よ? めちゃくちゃ調子いいっ」
椎名の言う事はおおよそ予想通りの回答だった。
これから椎名や私達がどうなっていくのかはかなり手探りだが、この現象の事は早い段階でどうにかしていくべきだろう。
「なるほど、大体の事は分かったのだ。とにかく今は先を急ごう。美奈のことを最優先に考えたい」
「うん、もちろんそうね。だけどさ、隼人くん。美奈は私が担ぐわ。だってあなた、相当辛そうなんだもの」
「━━む……だが」
見透かされたか、というのが本音だ。
女の子でそこまで重くないとはいえ、ずっと背負いっぱなしは流石にきつい。
だが本当に任せてしまって大丈夫なのだろうか。
「大丈夫よ。ほんとに今までとは全然違うの。今の私は超人よ。美奈を背負うくらいリュックを背負うようなものだから心配しないで?」
「……分かったのだ」
私は少しためらう気持ちもあったが、椎名にそう言ってもらえたことで素直に従うことにした。
正直先程からもう手足が限界だったのだ。汗も凄い。
美奈を背負ってから三十分も経っていないと思うが、最早疲労困憊で腕も足もガクガクしてしまっていた。
こんな状態で斜面を麓まで下るなど、到底無理な話だった。
「すまない椎名。では頼んだ」
「ん」
少々情けなくもあったが、美奈をそのまま椎名へと渡す。
そんな折、椎名は悪戯っぽい笑みを浮かべ私の顔を覗き込んだかと思うと、嬉しそうに口元に手を添えた。
「うふっ。美奈のおっぱいの感触が味わえなくなって残念だったわね!」
「――は、はあっ!??」
不意に放たれた一言に、私は急に頭が沸騰してしまう。
「なっ!? 何を言っている!? こんな時に! 不謹慎だぞ!?」
「だってさっき美奈をおんぶする時の隼人くんの顔ったら見せてあげたかったわよ。美奈、やわらか~いっ、て顔に書いてあったもの」
「くっ……う、うるさいっ!」
「え!? 否定しないんだ!?」
「――あ……!!?」
こうして私はいつものように、まんまと椎名の口車に乗せられてしまうのであった。
昔から、といってもまだ出会って一年ちょっとの関係ではあるが、よくあるのだ。
椎名に鎌をかけられて、本音を白状してしまうといったような事が。
結局からかわれるような事を思わなければいいだけなのだが、そこは男としてやはり無理があると感じているのが本音だ。
結果いつもこういう時は私は早々と白旗を上げるしかないのだ。
「……椎名、頼むからもう黙ってくれ」
「ははっ! 隼人ってやっぱりムッツリスケベだよなっ! よしっ俺にもおんぶさせてくれ!」
「キモいっ! このオープンスケベッ!」
ここぞとばかりに工藤も乗っかってくるがそれには椎名がジト目を向けぶん殴った。
「いてっ! おまっ! 今ゴリラ化してんだからもっと加減しろっての!」
何の気はなしに放った肩パンチを大袈裟に痛がる工藤。
その様子から演技である事は分かるが、今までの流れだと少し洒落にならないような気もするのも確かだ。
「だ、誰がゴリラよっ!? せめて雌ゴリラにしてっ!」
「え? ゴリラは否定しねーのかよ!?」
「……悲しいけど否定できない」
「……椎名、自分で言ってて悲しくならないか?」
勢いでそういう流れになってしまったとは言え、私の突っ込みに少しばかり罰が悪そうに顔をしかめる椎名。
「……うるっさいわねっ! 隼人くんまで!! もういいからっ! とにかく先を急ぐわよっ!」
そう言って椎名は美奈をおんぶした状態で、すたすたと先へ行ってしまう。
先程言っていた通り、私の時よりも遥かに軽い足取りだ。力が増しているのがよく分かる。
いつも通りの言い合い。
時間を浪費してしまったものの、私は少し気持ちが軽くなったように感じていた。
こんな状況ではあるけれど、やはり一人ではないという事はとても心強いものだ。
悲観的に考えてもしょうがない。
とにかく皆一緒にいられているという事に感謝したいと思った。
「――っ!」
椎名の言葉に私は衝撃を隠しきれなかった。
どういう原理が分からないが、まさかそんな事があり得るのだろうか。
「てゆーか何で椎名だけ!? もしかして俺もそうなってんのかよ!?」
工藤はあっけらかんとしてそんな質問を投げかける。
「……わからない。でも多分、あの光が原因だと思うから、私だけなんだと思う」
椎名は腕を組み、考えこむ仕草をした。
そこで私にはある疑問が浮かんでくるのだ。
「椎名、何故椎名はあの時光に包まれたのだ?」
「う~ん……」
椎名は腕を組み考んだまま更に低く唸ってしまった。
彼女が言うようにその光が原因なのであれば、これから私達も同じような体験をする可能性がある。
ならばできるだけそれに関する情報を掴んでおきたいのだ。
椎名の状態に危険がないとは言えない。
同じような現象がこの先私と工藤に起こるとしても、それはできれば意図的なものとして扱っていきたいという思いがあった。
「う~ん。多分だけど、あの時私は美奈にあの生き物から庇ってもらって、そのせいで美奈が怪我を負ったじゃない? その現状に私はものすごく悔しくて、腹が立って、もやもやして。心の底からこんなの嫌だって思ったの。そしたら急に体が熱くなってきて。だからそういう感情の起伏? みたいなものがきっかけになったんじゃないかな?」
「で? 椎名は体に何か異変は感じないのか? 酷く疲れるとか。そんな感じはないのだろうか?」
「ん? それはないかも。どっちかっていうと、すこぶる元気よ? めちゃくちゃ調子いいっ」
椎名の言う事はおおよそ予想通りの回答だった。
これから椎名や私達がどうなっていくのかはかなり手探りだが、この現象の事は早い段階でどうにかしていくべきだろう。
「なるほど、大体の事は分かったのだ。とにかく今は先を急ごう。美奈のことを最優先に考えたい」
「うん、もちろんそうね。だけどさ、隼人くん。美奈は私が担ぐわ。だってあなた、相当辛そうなんだもの」
「━━む……だが」
見透かされたか、というのが本音だ。
女の子でそこまで重くないとはいえ、ずっと背負いっぱなしは流石にきつい。
だが本当に任せてしまって大丈夫なのだろうか。
「大丈夫よ。ほんとに今までとは全然違うの。今の私は超人よ。美奈を背負うくらいリュックを背負うようなものだから心配しないで?」
「……分かったのだ」
私は少しためらう気持ちもあったが、椎名にそう言ってもらえたことで素直に従うことにした。
正直先程からもう手足が限界だったのだ。汗も凄い。
美奈を背負ってから三十分も経っていないと思うが、最早疲労困憊で腕も足もガクガクしてしまっていた。
こんな状態で斜面を麓まで下るなど、到底無理な話だった。
「すまない椎名。では頼んだ」
「ん」
少々情けなくもあったが、美奈をそのまま椎名へと渡す。
そんな折、椎名は悪戯っぽい笑みを浮かべ私の顔を覗き込んだかと思うと、嬉しそうに口元に手を添えた。
「うふっ。美奈のおっぱいの感触が味わえなくなって残念だったわね!」
「――は、はあっ!??」
不意に放たれた一言に、私は急に頭が沸騰してしまう。
「なっ!? 何を言っている!? こんな時に! 不謹慎だぞ!?」
「だってさっき美奈をおんぶする時の隼人くんの顔ったら見せてあげたかったわよ。美奈、やわらか~いっ、て顔に書いてあったもの」
「くっ……う、うるさいっ!」
「え!? 否定しないんだ!?」
「――あ……!!?」
こうして私はいつものように、まんまと椎名の口車に乗せられてしまうのであった。
昔から、といってもまだ出会って一年ちょっとの関係ではあるが、よくあるのだ。
椎名に鎌をかけられて、本音を白状してしまうといったような事が。
結局からかわれるような事を思わなければいいだけなのだが、そこは男としてやはり無理があると感じているのが本音だ。
結果いつもこういう時は私は早々と白旗を上げるしかないのだ。
「……椎名、頼むからもう黙ってくれ」
「ははっ! 隼人ってやっぱりムッツリスケベだよなっ! よしっ俺にもおんぶさせてくれ!」
「キモいっ! このオープンスケベッ!」
ここぞとばかりに工藤も乗っかってくるがそれには椎名がジト目を向けぶん殴った。
「いてっ! おまっ! 今ゴリラ化してんだからもっと加減しろっての!」
何の気はなしに放った肩パンチを大袈裟に痛がる工藤。
その様子から演技である事は分かるが、今までの流れだと少し洒落にならないような気もするのも確かだ。
「だ、誰がゴリラよっ!? せめて雌ゴリラにしてっ!」
「え? ゴリラは否定しねーのかよ!?」
「……悲しいけど否定できない」
「……椎名、自分で言ってて悲しくならないか?」
勢いでそういう流れになってしまったとは言え、私の突っ込みに少しばかり罰が悪そうに顔をしかめる椎名。
「……うるっさいわねっ! 隼人くんまで!! もういいからっ! とにかく先を急ぐわよっ!」
そう言って椎名は美奈をおんぶした状態で、すたすたと先へ行ってしまう。
先程言っていた通り、私の時よりも遥かに軽い足取りだ。力が増しているのがよく分かる。
いつも通りの言い合い。
時間を浪費してしまったものの、私は少し気持ちが軽くなったように感じていた。
こんな状況ではあるけれど、やはり一人ではないという事はとても心強いものだ。
悲観的に考えてもしょうがない。
とにかく皆一緒にいられているという事に感謝したいと思った。
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