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メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁48:トイレが生まれた日とは 1
しおりを挟む道無き道を暴走カミサマを追いかる事数分。当初の目的だった『川』らしき光景に漸く辿り着いた。
山間に流れている、という予想から平野を流れる様な大きく緩やかな川とは違うだろうな、と思っていたが想像通り…いや想像以上だった。
「ウッヒョォォアァァァァ……!! こりゃすげえ眺めだナ…!」
想像していたのは渓谷・峡谷の様な谷川だったけれど、目の前に姿を現したそれは名称未設定でありながらもその存在を無理矢理に脳にねじ込んで来る程の超激流の大峡谷だった。流石は原初の星の姿を色濃く残している異世界…スケールが違う。
その流れる水の量と勢いのせいで深さは予想もつかないが、昔見た事があるダムの放流よりは遥かに勢いも水量も上だ。向こう岸が水煙の奥に翳んで見える。百メートル以上の川幅があるのではないだろうか。
こういった川が何年も経過してグランドキャニオンの様な秘境になるのかしら。そう空想するとちょっとワクワクする。
「神々廻さん、絶対に近付いたら駄目ですからね」
「怖い事言わないでヨ! さすがにオレちゃんだってそこまで馬鹿じゃないからネ!?」
「ええっ!?」
「そこで驚かないで!?」
茶番もそこそこにして、と。
「ここがシシバ達が探していた場所で合ってる?」
殆ど息を切らしていない雪之進君が冷めた瞳で我々を見ていた。つらい。
「ええ。ちょっとイメージしていたよりもスケールが凄いですけど…」
「そう? そんなに大きい『 』じゃないと思うけど」
え。
「マジかよ…コレでも並なのか……」
異世界風景に慣れていそうな神々廻さんさえも圧倒されている。
ちょっと見てみたいな……この世界における『大河』がどれ程の物なのか。終わらない旅の途中にチェックポイントがあってもいいじゃないか。
「では【承諾】、と。と言ってもコレを標準の川と言っていいのでしょうかね…」
システムメッセージの【提案】に表示されたこの川の画像を見て何となく思った。
目の前を流れる水の集合体が『川』という名を得てその存在感を増す。大地を揺るがす力強い脈動、肌をうっすらと湿らせていく水煙、耳を通り越して全身に響く瀑音。星の生命力を叩きつけられている気分だった。
「アッチの常識に囚われなくたってイイじゃん? なんか異世界味がしてオレちゃんは好きだけどナ」
「確かに。これがきっとこの先も普通になっていくのでしょうね。楽しみです」
素直な感情を口にしたのを神々廻さんは驚いた眼で見た。
「どうしたノ『楽しみです』って…? オレちゃんもしかして何かやっちゃった…?」
「なんでそこで怯えるんですか!」
と言うかやらかした時にこそ反省して下さい…。
「『アッチ』とか『イセカイ』とか、何の事?」
しまった、雪之進君がいたのをすっかり失念していた。
「あ、いや、それはですね…」
「オレちゃん達のいた国ってこんなすげぇ風景があんまり無くてサ。同じ地球の上にあるのに違う世界みたいだナって思ったのヨ」
こういう時の彼の咄嗟の切り替えは本当に感心する。
「ふーん。まあそういう事にしておくよ」
「アララ?」
丸め込めるかと思ったけれど見事にあしらわれた。
…この子もどこまで予想しているんだろうか。底が見えない。
「二人とも、やる事があるんでしょ。僕は先に行くから後から付いて来て」
そう言い残すと雪之進君はすたすたと来た道を戻って行った。
我々の編纂作業の数々を目にしておきながら追求しない…。それはつまり彼にとって我々は彼の目的の『手段』に過ぎないと割り切られているからだろうか。そう割り切れる彼の価値観も凄いが、それ以上に復讐心が彼の行動原理となっているのだろう。
それが例え設定された感情であったとしてもそれすら理解して原動力にしていそうだ。
「何だかすげぇ子供だよネ…」
「ええ。彼なりの考えがあっての事なんでしょう。でももっと分かり合えるかもしれませんし、彼を知る努力は今後もしていきましょう」
「かしこ」
軽い返事に本当に分かっているんだろうかと不安になる私を余所に【辞典】のページをめくる彼。
「じゃあ、今度こそ【トイレ文化】……レェェッツ☆クリエイション!!!」
(次頁/48-2へ続く)
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