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メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁47:小さな殺戮者とは 1
しおりを挟む喧嘩に負けた犬の様なギャンギャンという鳴き声を響かせながら兎耳犬が逃げて行った。
「いよっしゃああぁぁぁ! ビクトリィィィィ!」
投石のみで見事新種の敵対生物を撃退した神々廻さんが意気揚々とこちらに戻って来る。そして矢で串刺しのまま絶命している大甲虫を見て悲鳴を上げた。
「なんじゃコレええぇぇぇぇ!?」
「…うるさいな」
「誰だお前ええぇぇぇぇ!?」
「うるさい!」
スパァァンともう一度引っ叩いた。
「私の命の恩人ですよ!」
「ハァ? 恩人? このガキんちょが??」
「……」
訳も分からず喚き散らすダメ神様とは対照的に、彼は感情を表に出さず佇んでいた。
「ちょっと黙っててもらえますか? ───あの、危ない所を助けて頂きありがとうございました。ちょっとギリギリでしたけど」
初撃の際に反応が少しでも遅れていたら串刺しになっていたのは私だった。正直ちょっと危なかった。
「…あんたなら間違い無く躱せるって分かってたから」
視線をやや外してとんでもない事をさらっと言う。
「『アンタ』ぁぁ? 年上には敬意を払えって教わらなかったのかなボクチャン!?」
「黙っててって言ってるでしょう! 死なない程度に首折りますよ!?」
「ヒェッ」
拳をパキパキ鳴らして威圧する。
「それに年上にって言うなら私にも当然敬意を払ってくれるんですよね?」
「え…キミ、年上なん…?」
「享年26」
「申し訳ございませんお姉サマ享年24ですごめんなさい」
よしこれで少し静かになった。思ったよりも近かったけれど。二十歳くらいだと思っていたのに。
「あの、もしかしてだけど…あなた、亡くなった御夫婦の…」
「ゆきのしん」
「…え?」
ポン!と大甲虫と飛ぶ眼の亡骸が霧散した。逃走した兎耳犬が戦闘から完全に離脱した事で戦闘状態が解除されたのだろう。ちょっとビックリした。それなのに目の前の少年は微動だにしていない。恐ろしい胆力だ。
「名前。僕、ゆきのしん」
渋い。漢字を当てるなら雪之進、かしら。雰囲気的に。漢字が存在してるのかどうか分からないから脳内ではこの文字で補完しよう。
「あ、雪之進さんと仰るんですね。私は嵯神 観沙稀と───」
「知ってる」
やっぱり。
「…あの時目が合ったのはあなただったんですね」
こくり。雪之進君が無言で頷く。
昨晩、見かけたと思ったらいなくなってしまった子供。それがこの子だったのだ。
「助けて貰っておいて何ですが、どうしてこんな危険な場所まで? 村の人達は知ってるんですか?」
「そうそう! コドモはアブねぇからとっとと帰ってマンガでも読んでな!」
何を張り合ってるんだろうかこの人は。読むなら活字でしょう。
「あの人達は───」
「ああン?」
「家族じゃない」
(次頁/47-2へ続く)
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