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第五章~早瀬陽介side~
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しおりを挟む「私はまだ世に出ていない八乙女社長の秘密をいくつも握っています。あなたもそれを知っていて、いずれその秘密が世間に知れ渡ると分かっていた。あなたにとって俺は目の上のたんこぶだ。八乙女商事の娘と結婚させ、不祥事を起こし、それを理由に俺を早瀬商事から追い出す計画でも立てていたんでしょう」
専務の目が泳ぐ。俺は追い打ちをかけた。
「あなたのことだ。どうせ証拠を見せろと言うんでしょう?今から八乙女社長にここへ来てもらって証言してもらうことも可能ですが、どうしますか?」
「まさか……アイツが俺を裏切るはずがないんだ……」
専務は明らかに狼狽していた。
「八乙女社長もあなたの思惑にはとっくに気付いていたようですよ。けれど、結婚を餌に金を積まれて断れなかったと涙ながらに話してくれました。専務、あなたは私利私欲のためには同級生やその娘まで利用するのですね」
軽蔑を込めた目で専務を見つめる。場の空気がどんよりと重たくなる。その空気を切り裂いたのは早瀬社長だった。
「言い返せないところを見ると、陽介の話は本当のようだな」
「くっ……」
「弟ということもあり多少のことは多めに見てきたが、今回ばかりは見過ごせない。近く臨時の取締役会を招集し、お前の解任決議を行う」
「なっ……!いくらなんでもそれはやり過ぎだろう!」
「お前の画策は一歩間違えれば、会社に大損害を与えることになった。それでもまだやりすぎだと言うのか?」
専務がグッと奥歯を噛みしめて黙り込む。
「お前が陽介にした仕打ちを考えろ!八乙女社長やここにいる茜さんのことも欺いたんだ。その罪は重いぞ」
「そんな……。早瀬の肩書がなくなったら……俺は終わりだ……終わっちまう……」
淡々とした怒りを滲ませる社長の言葉に専務は分かりやすく頭を垂れてうわ言のように繰り返す。
「ま、待ってよ……。意味がよく分からないんだけど、パパの会社、そんなにヤバいの?で、あたしたちは早瀬専務の手のひらでいいように転がされてた……そういうこと?」
「ええ。それに、八乙女商事の倒産は時間の問題かと」
「そんな……。ねぇ、アンタ!黙ってないでなんとかしてよ!」
八乙女茜は、隣に腰かける専務の肩を掴んで前後に揺する。
けれど、精気のない瞳で一点を見つめたまま微動だにしない専務を見て、ようやく自分のおかれた状況が理解できたようだ。
「そんな……。パパの会社が倒産したら、どうやって暮らしていったらいいのよ……」
彼女は八乙女商事の令嬢であることを鼻にかけ、就職したことは一度もなかったらしい。
モデル業をしていると聞いたが知名度は低く、開店休業状態だ。
彼女は顔を歪めて泣きじゃくる。涙が流れた部分のファンデーションは剥がれ、ひじきのようなマスカラが滲んで目の下は真っ黒だった。
そろそろいいだろう。俺はスマホを取り出し、画面をタップした。
それから数十秒後、コンコンッというノック音がした。俺は弾かれたように立ち上がり、社長室の扉が開けた。
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