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第五章~早瀬陽介side~
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しおりを挟む「そうか。お相手は彼女か?」
社長の言葉に、八乙女茜が姿勢を正して胸を張る。
「違います。高校の同級生の秋月結乃さんです」
「なっ……!?陽介、お前どういうつもりだ!」
湯沸かし沸騰機のように一瞬で顔を赤くした専務が、俺たちの間に置かれた焦げ茶色のセンターテーブルをバンッと勢いよく叩いた。その拍子で湯呑茶わんが揺れ、茶托にお茶が零れる。
専務の隣では、八乙女茜が信じられないというように目を見開いている。
「やめなさい、陽介の話を最後まで黙って聞くんだ。お前の話はその後だ」
「くっ……」
社長に窘められた専務は黒い革張り椅子で腕を組み、ふてぶてしくふんぞり返った。
「続けて」
「はい。彼女は高校の同級生で、俺の初恋の相手です。昨年のクラス会で十年ぶりに再会して、真剣にお付き合いをしていました」
「そうか。だが、どうしてそんなに結婚を急ぐ必要があったんだ?なにか理由が?」
社長の言葉に俺は深く頷く。
「はい。私が結婚したい相手は秋月結乃さんだけです。ですが、以前から早瀬専務に――」
「ふざけるな!お前には、八乙女商事の八乙女茜さんという婚約者がいただろう!?」
俺の言葉を遮るように、専務が声を荒げた。
「そうよ!約束が違うじゃない!婚約破棄なんてひどすぎるわ!」
八乙女茜も黙っていない。
「婚約破棄には当たりません。私は一貫して八乙女茜さんと婚約はできないと申し上げていましたから。それより、専務はどうして私と八乙女茜さんを結婚させようとするんですか?」
「もう忘れたのか!?会社の為だと言っただろう!茜さんと結婚すれば、八乙女商事との結びつきも強固なものになる。結果的に早瀬商事にもメリットが大きい」
「政略結婚ということですね」
「前からそうだと言っているだろう!このバカ者が!」
感情に任せて怒鳴りつける専務に社長室の空気がピリッと張り詰める。
「バカ者?お言葉ですが、それは専務、あなたではありませんか?赤字続きの八乙女商事がさらに新規事業に手を出して失敗し、多額の負債を抱えているのをご存じでしょう。あなたはそれを知っていて、俺と彼女が結婚するように企てた」
「なっ、でたらめを言うな!」
専務は唾を飛ばして怒鳴る。
「八乙女商事と手を組んだところでこちらには何の得もないのは火を見るよりも明らかだ。それを知らないほど私は無知ではありません。それなのに、政略結婚?笑わせないでください」
「偉そうに……。一体、なにを根拠にそんなでたらめなことを言っているんだ!」
「でたらめではありません。確かな情報です。八乙女社長自身も、それを認めました」
「なんだと……!」
専務の顔が一瞬強張ったのを、俺は見逃さなかった。風向きが変わる。八乙女茜はなんとかしてくれとばかりに、専務を見つめる。
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