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第五章~早瀬陽介side~
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しおりを挟む「白洲さん、ありがとうございます。後は任せて下さい」
「ああ」
白洲さんの背後には、緊張気味に顔を強張らせる結乃の姿があった。
仕事は欠勤させたものの、話し合いには同席してもらう予定だった。
白洲さんには、連絡を入れたら結乃を社長室へ連れてきて欲しいとあらかじめ頼んでおいた。
俺は結乃を安心させるように微笑みかけ、彼女の手を取って社長室へ導いた。
専務と八乙女茜が結乃に気付く。俺は彼女を守るように肩を抱き、社長の前まで歩み寄った。
「君が秋月さんか?」
社長は椅子から立ち上がる。
「初めまして。秋月結乃と申します。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「気にしないでくれ。それより、陽介。こんな場面に彼女を連れてきたら可哀想だろう」
「ええ、ですがこのまま終わらせるわけにはいきません」
社長の言葉に頷き、俺は専務と八乙女茜に目を向けた。
「あなたたち二人は彼女を傷付けた。この部屋を出て行くまでに、きちんと彼女に謝ってください」
「陽介くん……私なら大丈夫だから……」
結乃が小さく首を振る。
「いや、ダメだ。あの二人のせいで俺たちは離れ離れになる可能性があった。絶対に許せない」
すると、二人は観念したように立ち上がり結乃の前まで歩み寄って、力なく頭を下げて謝罪した。
「もう二度と結乃に手出しをしないと約束してください」
こくりと頷き、二人は逃げるように社長室から出て行った。
強張っていた結乃の顔に安堵が広がり、わずかに溜飲が下がる。
俺と結乃と社長の三人だけになり、改めて社長に目を向けた。
「彼女との結婚を認めてください」
「お願いします」
俺につられて結乃も頭を下げる。
「もちろん認めるよ」
社長は拍子抜けするぐらいあっさりと結婚を承諾してくれた。
「お前ももう大人だ。俺が口を出すことじゃない。それに、陽介が選んだ人なら間違いないだろう」
「社長ならそう言ってくれると信じていました」
「俺なら?」
「ええ。あなたは家柄関係なくシングルマザーだった母と再婚し、血縁関係にない俺を自分の子供のように可愛がって面倒を見てくれましたから。母が病気で亡くなった後もずっと俺を支えてくれた。感謝してもしたりません」
「それは、大袈裟だ。俺と血縁関係がないことで心無い声を浴びせられて辛い思いもたくさんしてきただろう。それでもこうやって早瀬商事の副社長になれたのは、お前が努力したからだ」
社長の言葉に胸が打ち震える。今まで会社に尽力するために努力してきたことが報われたようだった。
「あなたが父になってくれて本当によかった。これからも、早瀬商事の発展に尽力します」
「頼りにしているぞ。だが、しばらくは彼女との時間を優先しなさい」
社長は結乃に目を向ける。
「秋月さん、君は陽介の秘書を務めてくれているんだったな」
「結乃のことをご存じだったんですか?」
驚いている結乃に代わって尋ねる。
「もちろん。社員のことは全員把握している。それに、白洲が度々優秀な秘書が入ったと話していたからよく知って
いるよ。気遣いもできる慎ましやかな美人だと大絶賛していた」
「そ、そんな……。とんでもありません」
結乃は恐縮しっぱなしだったが、社長の一言に悶々とする。
気遣いもできる慎ましやか、まではいいが、美人だと……?白洲さんがそんなことを?
白洲さんは妻帯者とはいえ、女性の扱いが上手く女性受けがいい。室長である白洲さんと秘書である結乃との関わりは深い。
……一度、白洲さんに釘をさしておくべきかもしれない。結乃は魅力的で男の目を引くし、それに……。
「なにをぼんやりしているんだ」
社長の指摘で我に返る。俺は結乃のこととなると、おかしくなる。
「ここだけの話だが、俺と陽介のお母さんも高校の同級生同士だったんだ。お母さんから聞いているか?」
「いえ、母とそういう話をしたことはありません」
父と死別してから、母の浮いた話は一度も聞いたことがなかった。
再婚相手の早瀬社長とどうやって知り合い再婚したのもかももちろん知らない。
「そうか。実は俺たちも数十年ぶりに同窓会で会って、再婚したんだ」
俺と結乃は目を見合わせて驚く。
「そうなんですか?」
「ああ。彼女は俺にとって忘れられない初恋の相手だった。一緒に過ごせた時間は短かったけど、すごく幸せだったよ。きっと彼女も、息子の結婚を天国で喜んでくれているはずだ」
早瀬社長はそう言い、改めて俺たちに向き合った。
「幸せな結婚生活を送ってくれ」
「ありがとうございます」
祝福されて合わせているわけでもないのに、ふたり同時に頭を下げて顔を見合わせる。
「すでに息がぴったりだな」
早瀬社長に突っ込まれた俺たちは、たまらず笑顔を浮かべた。
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当然の事ながら、この話はフィクションです。
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