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第四章
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しおりを挟む「その代わりに急ぎで頼みたい仕事あるんだ。あと三十分ほどで、八乙女商事の社長が来る」
「明日の午後の来訪が変更になったということでしょうか?」
スケジュールは全て頭に叩き込んである。
尋ねると彼は渋い表情を浮かべた。
「ああ。八乙女社長は気分屋で度々予定が変わるんだ。専務が対応してくれるらしいが、今日に限って専務の専属秘書が休みらしい。申し訳ないが、お茶出しをお願いしたい」
八乙女商事と聞いてパッと頭に思い浮かんだのは、モデルのように美しい茜さんの姿だった。
「承知しました。お茶菓子は和菓子でも構いませんか?」
「ああ。それと、帰るときにこれを渡してくれ」
事前に用意していたんだろうか。高級和菓子店の紙袋を受け取る。
「じゃあ、行ってくる」
私は昨日出来上がったばかりの書類にちらりと視線を向けた。
「……どうした?」
それに気付いた彼が尋ねる。
自ら進んで仕事をして『偉そうに!お前は俺が指示した仕事だけをすればいいんだ!余計なことをするな』と轟部長に怒られた苦い記憶が蘇る。
「なにかあるなら言ってくれ」
彼の言葉に、私は勇気を出してデスクの上の書類を手渡した。
「これは?」
「先日の展示会で多賀ホールディングスの社長が興味を持ってくれた製品をまとめたものです」
彼はまじまじと書類を見つめる。
「すごいな。導入状況や利用実態まで……。これ、全部一人で?」
「はい。もしも出過ぎた真似でしたら、申し訳ありません」
「いや、そんなことはない。むしろ、ありがたい」
彼は高級ブランドの腕時計に視線を落とす。
「まだ少し時間がある。多賀社長に会う際にこれを渡そうと思う。この資料、二十部ほど用意できるか?」
「分かりました。大至急用意します」
「ああ、頼んだ」
すると、私たちのやり取りを黙って眺めていた関さんが声を上げた。
「秋月さん、配車手配は私に任せて!」
「よろしくお願いします」
阿吽の呼吸で仕事が回ることに心が弾む。
初めての秘書業務に最初こそ不安はあったものの、今はやりがいを感じている。
元々、誰かの補佐をするのは好きなのだ。高校でマネージャー業をしてみて、初めてそれを知った。
今までの経験や能力を活かせる今の仕事につけたことに、私は心から感謝した。
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