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第四章

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あれからあっという間に半月が過ぎた。
彼と暮らす準備は着々と進んでいる。休日には断捨離をして荷物の整理を行う日々。
来月のアパートの契約更新を前に退去し、彼の部屋へ移り住む予定だ。

週明けの月曜日。デスクで書類作成をしていた私の元へ関さんがやってきた。

「秋月さん、忙しいところ悪いんだけど、この書類の翻訳お願いしてもいいかな?」
「分かりました」

北本貿易に務めていたときに身に着けた英語が今の仕事では役に立つ。
書類を受け取ると、奥のから「秋月さーん!」と声がかかる。

「ごめんなさい、ニューヨークから電話が来たんですが、私英語が苦手で」
「分かりました。何番ですか?」
「三番です!すみません、助かります」

受話器をとって番号を押す。
出勤直後からたくさんの仕事が舞い込んでくるものの、一つ一つ確実にこなしていく。
電話を切ると、正面に座る関さんがうっとりした目で私を見つめた。

「秋月さんって本当に優秀ね。秘書課に異動になってまだ数か月なのに、立派な戦力だわ。むしろ、今の秘書課は秋月さんがいないと回らないぐらいよ」
「いえ、そんな。でもそう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」

照れ笑いを浮かべた瞬間、「秋月さんを引き抜いて正解だったね」という声がした。
驚いて振り返る。そこには陽介くんの姿があった。

「ふ、副社長!」

弾かれたように立ち上がる。
彼の首元には、私がプレゼントしたマフラーが巻かれている。
あれから、毎日身に着けてくれているのだ。
クリスマスの後からつけ始めたこともあり「彼女からのプレゼントですか!?」と女性社員に聞かれた彼は「想像に任せるよ」と魅力的な笑みで周りの女性を翻弄した。
もちろん、私も彼からもらったダイヤモンドのネックレスを肌身離さず身に着けている。。

「ホントですよ~!さすが副社長!見る目がありますね」
「ずっと秋月さんのことを狙っていてようやく手に入れたんだ。彼女だけはなにがあっても手放さないよ」

陽介くんは関さんの軽口に穏やかな笑顔で返す。
関さんは「きゃっ、私もそんなこと言われたいわぁ。副社長ったら今日もイケメンッ!」と口に手を当てて肩を竦めておどけた。

すると、彼は外向きの爽やかな笑みを浮かべたまま私に視線を向けた。

「実は急遽、多賀ホールディングスの社長と会うことになった」

多賀ホールディングスの社長の顔が浮かび上がる。
五年前、父である社長が急逝し三十歳という若さで社長に就任した。
元々、会社の規模はそれほど大きくなかったものの、代替わりしてからは売上や準資本が目に見えて増えている成長企業だ。
先月行われた早瀬商事の展示会で彼と多賀社長は名刺交換をしていた。
早瀬商事が他社から委託された開発製品に強い関心を示していたのを記憶している。

「分かりました。すぐに準備して同行します」
「いや、今日は同行しなくて構わない」

バッグを掴もうとするも、なぜか制止される。
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