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第四章

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 両親は、洸太の素行をあまり知らないし、教師達もそれほど干渉して来ない…くらいには上手く立ち回っていた。

 その晩も普通に、味の濃い夕飯を食べ普段通りに一日を過ごしたのだけれど。

 案の定次の日、学校では生徒同士でざわざわしていた。

「おいおい長内、」

 そう真っ先に寄ってきたのは、エロが大好きな、未経験者で背が小さい三澤みさわ

 三澤が振り向くより先に教室のドアが見えた。女子が泣いている。
 見たこともないかもしれない女子達が野次馬のように彼女の丸まった背を擦り「ちょっと長内!」と、そのうち一人が怒声を浴びせてきた。

「あんたね、」

 多分、泣いている女の小グループのリーダーなのだろう、ずんずん歩んできては洸太のネクタイを引っ張り、「浮気したってマジなの!?倉橋クラハシ先輩と」と睨み上げてきた。

 …クラハシが誰だかわからないけれど、まぁ考えられるのは一人しかいないというか、タイムリーな話題なんだろう。

 けど、浮気と言ったってそれは濡れ衣だ。
 三澤がわたわたしている姿に確信する。

「…あんた、誰」

 てゆうかこんなヤツ、マジでいんのな。

「…4組の時任トキトウアカネだけど、」

 4組とか、マジで隣の隣だし知らねぇけど、なるほど宛はいる。
 その泣いている女は多分、キープだ。確かに、暫くはそいつだけだったな。てことは、そいつのことか、ミチルってのは。

「あー、もしかしてミチルちゃん?」
「質問に答え」
「してないけど」

 へ?という様子で顔をあげるミチルとやらは泣き腫らした顔をしていて判別は微妙だが多分、思っていたキープで合っている。

 しかしミチルの目からはまだ涙が溢れ、「だって、先輩がこうくんとヤったって」あー、なるほどね。納得。てゆうか、こうくんって呼ぶ間柄じゃないじゃん。

「あーね」
「はぁ!?」
「んーまぁ、あんたには関係ないね、まずは。
 ミチルちゃんは先輩を信じたんだね。なるほど」
「え…じゃぁ」
「そもそも付き合えないよね、じゃあ」
「…え、何言ってんのあん」
「だから、あんたに関係ないじゃんって」

 うるせぇな部外者が。話になんねぇんだよ。

「はっきり言って欲しいなら、まぁヤったけど何か問題でも?正しいと思うよミチルちゃん」
「…ヤり捨てじゃん、それ…」

 そうか。
 そう言われれば確かにその通りだ。
 「そうなったみたいだね」と、漸くそのリーダーとは日本語の疎通が出来た。

「…ミチル、初めてだったんだよ、ねえ!」

 また掴み掛かる勢いのリーダーに、「暴露すんだ、そーいうの」と、なんだか頭は冷静だった。

「…は?」

 見回してみれば、野次馬は自分のクラスにもいた。
 改めて事に気付いたスピーカーリーダーは「何見てんのよ!」と辺りに喚き散らすが「あんたの声量のせいっしょ」と最後に言い捨て、教室に入る。

 「待ってこうちゃん!」と泣きっぱなしのミチルの声がするけれど、他教室には入れないルールだし。顔も見ずに手を振った。

 少し、無しではなかったけどな。一気に二人を振り落としたらしい。

 バカらしい。どこ行っても変わらないとか。マジで。

 気まずそうに着いてきた三澤は「流石にヤバくねえか」と言っている。

「何がヤベぇかわかんねぇし」
「……浮気ってもう、朝から」
「そもそも浮気じゃねえし。どっちも付き合ってねぇもん」
「…いやいやそうは言ってももう、持ちきりだぞ」
「んなん、ここでだろ。どうせ三日で終わるじゃん。別に孕ませたわけでもねぇし。大体、初めましてからっつーのは、あっちも一緒じゃん」

 ふと隣を見た。
 …イヤホンをして露骨なのか自然なのか、ぼんやりとそっぽを向いている薄い髪色の美人。そして、男子の制服。

 最初に見たとき、何故ここにいるのかと目を疑ったが、幼い頃の記憶だし、何より名前が久瀬くぜあおいなのだ。全く違う。

 でも…絶対そうだと思うんだよなと、不思議な感覚で過ごしている、二年でクラス替えをしてから。

 噂の中にあった「金持ちに売られた」というやつ。久瀬グループという少し大きな会社は、確かにこの市に存在している、ということだけは知っている。

 久瀬葵と一緒のクラスになった際に久瀬グループのホームページを調べた。
 多分市も絡んでいるような、会社。あとはよくわからなかったけれど、恐らくデザイン系。ホームページのロゴがそれっぽく、ショップの欄もあった。

 久瀬を最初に見たのは、寝掛けてしまった表彰式だ。それは、美術か何かの表彰だった。

 遠目から見てもこの薄い色の髪。あのときの記憶がバッと思い出された。

 …しかしクラスが一緒になっても、何故だか昔のように、声を掛けようとは思えなかった。
 これは「負い目」だとわかっている。本当は、噂通りでもないのに。
 何より久瀬自身が、特に話しを掛けては来ないのだ、今回みたいに。

 そんな日常も、チャイムが鳴ればまずは一段落する。

 久瀬がイヤホンを取り担任が入ってきて、起立と礼、点呼を取り、いつも通りの平穏さに戻った。
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